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佐賀県の食と歴史を堪能「ユージアムサガ」と生産者に出会う旅

  • 2024.1.17

佐賀で限定オープンしたプレミアムレストラン。「食材」と「器」と「料理人」を掛け合わせた最高の美食体験と、このイベントを陰で支える県内の生産者を訪ねる旅の様子をお伝えします。

最高の器で最高の食を味わい尽くす体験!

美術館(MUSEUM)に飾るような人間国宝などの器を使い(USE)、佐賀の食材を才能豊かな料理人たちの技で仕上げた料理が楽しめる、期間限定のプレミアムレストラン「USEUM SAGA」(ユージアムサガ)。2021年からスタートして、2023年12月に5回目が佐賀市を舞台に開催されました。

独創的な空間で開催された「USEUM SAGA」。

佐賀は温暖な気候で自然にも恵まれていることから、食材が豊富です。これに加えて焼き物の産地でもあるため、唐津焼や有田焼などが歴史と共に受け継がれてきた場所でもあります。

豊富な食材と伝統ある器。両者をつなぐには、腕利きの料理人が必要です。県内の料理人と県外の料理人がタッグを組んで1つのコースを仕立てることも、このユージアムサガの特徴。料理人一人の力だけではなし得ない、今までにないプレミアムな食体験へと押し上げられるのです。

今回シェフの一人は、佐賀市にある『カレーのアキンボ』のオーナーで、独創的なスパイス料理でカレーフリークや美食家たちを魅了している川岸真人シェフ。そしてもう一人は、沖縄・宮古島の風土や食文化を100年後につなげる料理をテーマに、琉球ガストロノミーを提唱する渡真利泰洋シェフ。二人は偶然にも同い年。佐賀と沖縄のカルチャーにスパイスの要素も加わる、二人の化学反応から生まれた独創的な料理が繰り広げられました。

川岸真人シェフ(写真左)と渡真利泰洋シェフ。

互いを知って生まれた至極のメニュー

このイベントが開催される数か月前、渡真利シェフと川岸シェフは互いが暮らす場所を行き来してそれぞれの風土や文化について学び、メニューをどう組み立てていくかをシェフ二人で会話を重ねながら決めていったそう。それぞれのシェフが交互に料理を提供するスタイルはよく見られますが、今回は完成度の高さを求めて全てのメニューを合作にすることに。

アルコール、ノンアルコールのドリンクと食事のペアリングも楽しんだ。
食べ終えると思わず器をうっとりと眺めてしまう。

今回の夢のようなメニューを1品ずつ紹介します。

1品目は「水イカのパフェ」。ねっとりとした食感の水イカ、カリッと香ばしい菊芋、甘みのあるパパイヤ。それぞれが小さめにカットされているので口の中で混ざり合って、味わいが深まっていきます。

水イカのパフェ 今右衛門窯

2品目は「カキトカブ」。カキの下に酒粕入りのアイスクリームを敷き、さいの目切りにしたカブを添えた一品。器に使われている「ハマ」は、磁器を窯に入れて焼成する際に磁器がくっつかないよう焼台として下に敷くもの。基本的に一度使ったら廃棄されていますが、今回は器として活用されました。

カキトカブ ハマ

3品目は「ポーポー」。宮廷料理にも出される一品。インドのスパイスとオイルで和えたなまり節を生のよもぎと一緒に皮で巻きました。ポーポーを載せる敷き紙とポーポーを包む紙は、『名尾手すき和紙』で作られたもの。

ポーポー 名尾手すき和紙

4品目は「カニと豆腐ようのスープ」。カニと豆腐ようのやわらかな味わいとスパイスの余韻に包まれます。器に使われたのは『文祥窯』のワイン用のカップ。独特の白さがスープの色を引き立てます。

カニと豆腐ようのスープ 文祥窯

5品目は「がめ煮 ドゥルワカシー」。ドゥルワカシーとは沖縄名産の田いもを使った料理のこと。田いもを煮ている様子が泥を煮ているように見えたため、「泥沸かし」から「ドゥルワカシー」と言われるようになったそう。沖縄諸島に多く分布している長命草を添えて。シャキシャキとした食感の田いもの甘みとスパイスを感じる一品。

がめ煮 ドゥルワカシー 弓野窯 14代今泉今右衛門

6品目は「ジューシー」。乳酸発酵させたきゅうりの薄切りと佐賀の海苔をのせたおじやで、カッパ巻きが好きという渡真利シェフが生み出しました。きゅうりのシャキッと感、発酵させた奥深い味わい、そして海を感じる海苔のハーモニーが楽しい。

ジューシー 柿右衛門窯

7品目は「イラブチャー」。イラブチャーとは、沖縄を代表するアオブダイのこと。タイカレーペーストで和えたイラブチャーとぎんなんを沖縄で昔から親しまれる月桃(げっとう)で包んで蒸しました。沖縄でも珍しい魚を蒸すアイデアは、川岸シェフから。

イラブチャー 井上萬二窯

8品目は「祝いの山羊 ケバブ」。クミンなどのスパイスを混ぜ込んだ山羊のひき肉をケバブに。山羊の独特な臭みはなく、脂も軽め。口に含むと、あとからスパイスの奥深さを感じます。

祝いの山羊 ケバブ 柿右衛門窯

9品目は「祝いの山羊 山羊そば」。沖縄では祝いの席で食べられる山羊汁に、麺をプラス。島とうがらしを泡盛に漬け込んだコーレーグースを垂らすとさっぱりとした味わいになり、麺がスルスルと胃の中に収まっていきます。

祝いの山羊 山羊そば 中里太郎右衛門陶房

10品目は「祝いの山羊 山羊カレー」。燻したシナモンや泡盛の酒粕から作られたソースが、タマリンドのような酸味をプラスします。

祝いの山羊 山羊カレー 李荘窯業所

11品目は「アイス」。『ナカシマファーム』でホエイを煮詰めて作ったブラウンチーズ、豆腐よう、醤油のしぼり粕を、山羊のミルクから作ったアイスクリームに混ぜ合わせました。複雑な味わいや濃厚さが、お酒にも合います。

アイス 井上萬二窯

12品目はオリオンビールに合わせて作られたデザートとおつまみ。沖縄の名産である海ぶどうに、佐賀の唐辛子を使ったサクサクとした食材を合わせました。

オリオンビール 徳幸窯

自身の故郷を再発見できた

大盛況のうちにこのイベントを終えた直後、シェフ二人に今回の取り組みについて振り返ってもらいました。すると、いろいろな発見があったそう。

渡真利シェフは、「器にすごく衝撃を受けました。私自身が沖縄出身ということもあり、器に対する知識や経験を佐賀の人ほど持ち合わせていません。普段はもっとわかりやすいエンターテインメント的な器の使い方をしてしまうので、今回は九州陶磁文化館に行って器について深く知って、さらにこのイベントを通じて勉強になりました」と佐賀の器の文化について絶賛していました。

また、川岸シェフは、「渡真利シェフから沖縄には台風などの影響もあって青々とした葉物や柑橘はないと言われて、佐賀の食材の豊富さを改めて実感しました。何でもあるから名物を出しづらい側面もあるかと思うのですが、そこは無理にオリジナリティを見つけずに、何でもあることを佐賀のアイデンティティとするのが良いのかもしれない。何でもあるからこそリミックスできる、今回は沖縄に対して回答ができる懐の深さが佐賀にあったと感じました」とコメント。

これまでに『Joel Robuchon』(ジョエル・ロブション)をはじめとしたパリの名店で研鑽を積み、故郷の宮古島に戻ってからガストロノミーレストラン『Restaurant Etat d’esprit』(エタデスプリ)の総料理長を務めてきた渡真利シェフ。評判だった『カレーのアキンボ』を東京・錦糸町で営むも、オープンから5年後に佐賀にUターンして佐賀の食材を生かすスパイスコースのみの営業にリニューアルした川岸シェフ。二人ともそれぞれの地元があったからこそオリジナリティを確立できたことを、改めて確認する夜となりました。

独特の白さが美しい『文祥窯』の器

この夢のような饗宴に無くてはならなかった食材と器。これらが生み出される場所を訪れて、生産者や作家から話を聞くことで、この食の体験がますます豊かになります。4品目の「カニと豆腐ようのスープ」に使われたカップを作った『文祥窯』、3品目の「ポーポー」に使われた『名尾手すき和紙』、9品目の「アイス」に使われたブラウンチーズを生み出した『ナカシマファーム』を訪ねました。

伊万里港を臨む高台に窯を構える『文祥窯』。三代目の馬場光二郎さんが手がける器は、温かみのある白さを帯びています。カニと豆腐ようのスープが供されたカップも、繊細な飲み口やフォルムでありながら柔らかさをまとっていました。そんな落ち着きのある感覚は、馬場さんの人柄と彼がこだわる手法に由来するものだとお会いして確信しました。

作陶の世界では、白磁や絵付けのために材料となる石を精製して不純物を取り除く工程があります。その不純物らが廃棄物になってしまっていたことから、馬場さんは自然に負荷をかけるような無駄なことはしたくないという思いになったそうです。そして、本来分業制で成り立っていた有田焼の世界で、石の採掘から粘土にする工程も自分で手がけるように。「不純物を含む土で器を作ることによって自然な色合いになりつつも、割れたり欠けたりすることもありますし、その部分を継いで完成品にすることもあるんですよ」と馬場さん。

『文祥窯』3代目の馬場光二郎さん。自身のポリシーや作陶の様子について、気さくに話してくれました。
馬場さんの席から見える伊万里港。有田焼や伊万里焼がこの港から国内や海外に運ばれていきました。
焼成前(写真左下)と焼成後(写真右下)では、大きさがかなり違います。写真上にあるのは、模様をつけるための型。
馬場さんの工房に並んでいた作品。温かみのある白が美しい。

ブラウンチーズを生み出した『ナカシマファーム』

ユージアムサガのデザートに登場した、濃厚だけれど後味はさっぱりしているアイス。このアイスに使われていたブラウンチーズを作っているのが『ナカシマファーム』です。チーズづくりで発生する副産物のホエイの量は、何と原料である生乳の8~9割。これも活用したいと生まれたのがブラウンチーズです。胴釜で新鮮な生乳とホエイを直火でかき混ぜること6時間、キャラメルのようなねっとり感があり、ピーナッツバターや黒糖を彷彿とさせるチーズが完成します。

日本や世界のチーズコンテストでも高い評価を受けたこのチーズを手がける『ナカシマファーム』。見渡す限りの田んぼの中にチーズを製造・販売するショップがあり、その裏には約100頭の牛が飼われていました。ショップの目の前の田んぼで米と大麦を二毛作で栽培して、自家製の肥料を与えているそう。代表の中島大貴さんの案内で牛舎へ。すると草の発酵臭が少しあるくらいで、鼻を突くような臭いはありません。その答えは、糞尿が微生物によって分解される仕組みを導入しているからでした。

宿場町の面影が残る嬉野市塩田津に新しいショップ『MILKBREW COFFEE』もオープン。米蔵をリノベーションしてできたスタイリッシュな空間で、アイスクリームやドリンクを楽しめます。ここで働く美しいユニフォーム姿のスタッフも、ローテーションで牛の世話をしているそうです。「自然の循環を大切にする人を採用しているので、スタッフ18人全員が世話をできます。ショップのお客様にも自然とそういう話を伝えるようになっていますね」と中島さん。人も動物も環境も自然のセオリーに従っていて、そこから生み出されるものに心地よさを感じました。

嬉野市塩田津の宿場町の面影が残る通りにある『MILKBREW COFFEE』。
『ナカシマファーム』代表の中島大貴さん。牛舎に導入した飼料を餌場に寄せるための機械を見せてくれました。
牛舎内は草の発酵臭が香るくらいできつい臭いはありません。牛も気持ち良さそうに過ごしています。
牛舎近くにあるショップにて、チーズを試食。県外からも買いに来る人が多いそうです。

和紙の可能性を広げる『名尾手すき和紙』

最後に訪れたのは、佐賀市にある『名尾手すき和紙』。300年以上の歴史を有する手すきの和紙工房で、神社・仏閣の修復用や提灯、番傘、合羽、障子の紙などに、その和紙が使われてきました。ユージアムサガでは、コースの3品目に登場したポーポーを載せる敷き紙とポーポーを包む紙に使われました。包み紙はポーポーの生地のように柔らかくて、川岸シェフが思わず「ポーポーと間違えて食べてしまわないよう注意してください」とアナウンスしたほど。それとは対照的に、敷き紙は和紙とは思えないほどしっかりとした硬さがありました。

工房近くに生えていた和紙の原料となる梶の木と、和紙をすく様子を7代目の谷口弦さんに見せてもらいました。和紙といえば楮(こうぞ)や三椏(みつまた)の木が代表的ですが、梶の木は楮の原種に当たるそう。約300年前に谷口さんの先祖によって植えられた梶の木がまだ生き続けていることに感動。1月に刈り取ってすぐに蒸して、皮を剥いで干したものを倉庫で保管。そこから紙をすく度に原料を水に戻して、大釜で煮て、晒して……とさまざまな工程を経て、ようやくおなじみの紙をすく工程へ。水の中で木枠を揺らす感覚だけでなく、その音も聞きながらすき具合を確かめているとの言葉に、紙すきの奥深さを感じました。

そして、工房から少し離れた場所にあるショップも訪問。築200年の元自宅を改装した空間には、普段づかいできそうな紙から、紙を使ったアート作品までもが並んでいました。「紙を踏むというなかなかできない体験もしてもらえたらと思い、紙を床にも貼りました。新たな和紙の使い方を見いだしながら、後世にもつなげていけたら」と語る谷口さん。20代の女性2人が谷口さんの元に弟子入りして、和紙づくりを学んでいるそうで、明るい未来への兆しがそこにはありました。

『名尾手すき和紙』7代目の谷口弦さんが工房近くに生えている梶の木を見せてくれました。
手の感覚だけではなく、水の音にも耳をすませながら紙をすきます。
築200年の家屋をリノベーションしてできたショップ。
ショップではさまざまな紙を販売。紙を見ているだけで創作欲が増してきます。

食材×器×料理人の饗宴と、生産者を訪ねる旅。佐賀で過ごした時間はとても濃密で、これからの食人生をさらに深めていくためのヒントをたくさんもらったように思いました。まだまだ知られていない佐賀の魅力を発見する旅に出てみませんか。

ユージアムサガの最新情報はインスタグラムより
@sagamariage

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