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仕事という名の「作業」に時間を使いすぎていないか…30代後半で開く勉強している人とそうでない人の実力差

  • 2024.1.16

30代後半になると突然求められるマネジメント力を身につけるにはどうすればよいか。多摩大学大学院経営情報学研究科教授の堀内勉さんは「本を読むことで自分が『何もわかっていない』ことを認識する。それが、他者の考え方を理解したり、想像したりすることにつながり、人間力が成熟する」という――。(第3回/全4回)

※本稿は、堀内勉『人生を変える読書 人類三千年の叡智を力に変える』(Gakken)の一部を再編集したものです。

日本のビジネスパーソンは圧倒的に勉強不足

人生の時間には限りがあります。

私はこれまでの人生を振り返って、仕事というか、仕事という名の「作業」に無駄な時間を使い過ぎてしまったと大いに反省していますが、そうした中でも、できるだけ時間を工面して読書を続けてきました。

そうした私から見て、日本のビジネスパーソンは、いわゆるエリートといわれるレベルにおいては、世界的に見ても圧倒的に勉強が不足していると感じます。

ドイツの社会学者マックス・ウェーバーは、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の中で、資本主義的な精神の背景にはプロテスタント的な禁欲の思想があると指摘しました。

さらに、社会人類学者のデヴィッド・グレーバーは、世界的ベストセラーになった『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』(岩波書店)の中で、どれだけ無意味な仕事だとしても、規律を守って長時間働くこと自体に意味があるという現代の労働倫理観は、やはりこのプロテスタントの精神に由来するのだと指摘しています。

封建時代には労働は蔑さげすみの対象でしかありませんでしたが、社会契約説を唱えたジョン・ロックのような思想家たちによって、労働の苦しみはそれ自体が善であり、気高いものであるというように、発想の転換がもたらされたというのです。

そして、グレーバーは、このメンタルの縛りを、現代人の「潜在意識の奥底に組み込まれた暴力」だと言っています。

横断歩道を歩く人たちのイメージ
※写真はイメージです
なによりも仕事を優先する日本人の労働観

なぜいまここでこの話を持ち出したかというと、私は日本のビジネスパーソンは働きすぎだと思うからです。もう少し正確に言うと、自分が何のために働いているのかよくわからないまま、ただ心の奥底の不安を打ち消すために働いている人が多いような気がするのです。

私自身がかつてそうだったのでよくわかるのですが、日本では江戸時代にまで遡れば、儒教、とくに朱子学の影響で、仕事とは尊いものであるという労働倫理観が培われてきました。これが、戦前・戦後へと脈々と受け継がれ、なによりもまず仕事を優先する、仕事のためにはほかのすべてのことを犠牲にするのも厭いとわないという、日本人の労働観を形づくってきました。

日本各地の小学校などに置かれている、薪を背負いながら本を読んで歩く二宮金次郎(尊徳)の像がその象徴です。金次郎の伝記『報徳記』(岩波文庫)では、「大学の書を懐にして、途中歩みながら是を誦しょうし、少も怠おこたらず」とあり、これが自ら国家に献身する国民の育成を目的とした明治政府の政策に利用されたのです。

自己研鑽の時間がほとんどない

現状を見ると、日本の普通のビジネスパーソンの仕事対勉強の割合は、よくても9対1くらい、下手をすれば10対0くらいではないでしょうか。ここでいう「勉強」とは、もちろん受験勉強などではなく、読書などを含む自己研鑽じこけんさんのことです。

21世紀になったいまでも、なぜそのような状態が解消されないのか。そこにはさまざまな原因がありますが、ひとつには日本の組織の中には「組織に対する忠誠心の貯金」のようなものが存在するからだと思います。この「貯金」の増やし方はさまざまで、業績を上げるという正攻法以外に、身も心も会社に捧げるといった高度成長期的な手法がいまだに機能しているように思います。

つまり、徹底的に忠誠心を示す、その代償として自己を犠牲にすることで、その組織の一員として認められていく。そしてそれを「社内預金」として長年かけて積み立てることで、組織の中をだんだんと上がっていくということです。

長時間労働がその典型ですが、そのほかにも上司との飲み会、接待、ゴルフ、麻雀などもそれに当たります。長時間労働によって「貯金」は徐々に貯まっていきますが、残念ながら、それは社外ではまったく通用しません。いわば、会社内部という場でしか通用しない地域通貨のようなものです。

コーヒーとメモのイメージ
※写真はイメージです
30代後半以降に急に求められる「人間力」

また、同じ会社内部であったとしても、30代後半以降に求められる、組織において人を動かすマネジメントにおいては、より深い人間理解に基づく対人能力が求められます。

普通の組織であれば、30代前半までと30代後半以降では、そもそも評価体系がまったく異なります。端的に言うと、前者はプレイヤーとしての能力や事務処理能力などが評価され、後者はマネージャーとしての能力や「人間力」に重点が置かれます。

ですから、たとえ前者の能力に秀でていても、後者に評価が転換していくことに気づかない人は、そこで打ち止めになってしまうわけです。

しかし残念ながら、それまで何も考えていなかったことを急にやれといわれても、簡単にはできません。いざ「人間力」を身につけようとしても、何もないところから「人間力」が出てくるわけでもありません。「人間力」というのは、時間をかけて自分の中で反芻することで、少しずつ熟成していくものだからです。

ビジネスパーソンは自己完結では乗り越えられない

あえて広く多様な世界へ飛び込んでいかなくても、自分の周りの狭い世界の中で自己完結し、その中で幸せに生きていくという生き方もあるでしょう。ですが、さまざまな人とかかわり合いながら仕事をするビジネスパーソンにとっては、自分の周りの限られた出会いや組織の狭い人間関係のノウハウだけでは、必ず乗り越えられない局面が訪れます。

堀内勉『人生を変える読書 人類三千年の叡智を力に変える』(Gakken)
堀内勉『人生を変える読書 人類三千年の叡智を力に変える』(Gakken)

そのようなときにこそ、読書はみなさんの心強い味方となるのです。本は読めば読むほど、知らないことに出会います。自分が「何もわかっていない」ことがわかり、そのわからないことの不完全燃焼感を抱えながらも、前へと進む力が養われます。

自分が「何もわかっていない」ことを認識することこそが、他者の意見に耳を傾け、他者の視点で世界を見渡し、他者の考え方を理解したり、想像したりすることにつながるからです。

そうした体験を積み重ね、自分の中で反芻していくことで、初めて深い人間理解を得ることができ、「人間力」という意味での対人能力も上がっていきます。

もちろん、「脅し」によって人を動かすつもりは毛頭ありません。ですから、「教養を身につけなければ、30代後半以降の出世競争に乗り遅れますよ」などと言いたいわけではありません。

本を読む人のイメージ
※写真はイメージです
読書が人間理解を深める

私がここで言いたいのは、読書によって知識と経験の幅を広げることで、人間理解がいっそう深まり、新しい視点で世界を見ることができるようになり、それが「人生100年時代」といわれるみなさんの長い人生の一助になるのではないでしょうか、ということです。

そして、それは生成系AIの登場により、ほとんどの仕事がAIに取って代わられる時代が来ても、仕事という面でも役に立つだろうと思います。逆に言えば、「人間」から表層的なものをすべてそぎ落としていったら、最後に残るものは何なのか――。それをあなた自身の目で確かめてみてくださいということです。

堀内 勉(ほりうち・つとむ)
多摩大学社会的投資研究所教授・副所長(多摩大学大学院特任教授)
東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、アイ・エス・エル(ISL:Institute for Strategic Leadership)(SLP)修了、東京大学 Executive Management Program(東大EMP)修了。1984年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。興銀証券(現みずほ証券)、ゴールドマン・サックス証券を経て、2005年森ビル・インベストメントマネジメント社長に就任。2007年から2015年まで森ビル取締役専務執行役員兼最高財務責任者(CFO)。著書に『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(編著、日本評論社)。

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