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永遠のテーマ!? 「自分らしい香り」について考える。

  • 2024.1.9
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フレグランスは、ファッションの一部として個性を演出したり、気分のリフトアップに使えたり、あるいはリラックスのために活用できたり......。使いこなせば、日々をいっそう彩りにあふれたものにしてくれる存在。そんなフレグランスにまつわるよもやま話を、編集部美容班がゲストとともに繰り広げる連載「推し香水を語る会」がスタート!初回は「自分らしい香りって?」をテーマに、フレグランスブランド、アブラクサスを主宰する調香師Chiyoさんをお迎えして語り合いました。

<ゲスト>Chiyoアブラクサス主宰、調香師、占星術師1985年東京生まれ。美容雑誌のライター、百貨店化粧品ブランドの販売トレーナーを経て占星術師/調香師になる。2012年にアブラクサスを創業し、香りの文化を広めるべく、調香の基礎を学べるクラスも展開中。占星術やタロットを組み合わせたカウンセリングで、その人のなりたい像を探って自己実現へと導くオリジナルフレグランスの制作も行っている。https://ablxs-fragrance.com<フィガロ編集部美容班>編集KIM(フィガロジャポン編集長代理)編集SK(シニア・ビューティ&ライフスタイル・エディター)編集TI (madameFIGARO.jp担当エディター)

それぞれのフレグランス原体験。

TI本日のお題は「自分らしい香りって?」ということで、各自がフレグランスを持ち寄りました。まずはこれまでの人生で香りとどんなふうに関わってきたか、原体験を聞かせてください。

SK私は叔父が航空会社に勤務していたので、海外のお土産で家にフレグランスがたくさんあったんです。シャネル「N°5」に始まり、イヴ サンローランの「リヴゴーシュ」や、ジバンシイの「オーデ ジバンシイ」、エルメスの「エキパージュ」......物心ついた頃からあらゆる香りが身近にある環境だったけれど、いざ自分で何をつけようか?という時に、18歳でシャネルの「ココ」を買いました。思い返すと10代は背伸びをして「こういう人になりたい」という憧れで選んでいたかな。大人になり30代に入ってからは「こういう人に見られたい」というものを選ぶように。私は気が強いから、香りは柔らかいものにして(笑)、相手に与える印象を香りに求めていたのかも。50代になったいま選ぶのは、自分自身が気持ちいいもの。他人に何を思われてもいいか......みたいな。そんなふうに、ちょっとずつ変化していますね。

Chiyoその話を聞いて思い出したんですが、私は中学生の頃、初めて海外旅行をした時に、免税店でジャン ポール ゴルチエのフレグランスにすごく惹かれたんです。コルセットを着けたボトルのデコラティブな感じが素敵で、世界観に憧れる。どうやってこれを自身に取り入れよう?という出発点から、香りを選ぶようになり、同じように装いやメイクも「こういう人になりたい」と要素を加えていった感じ。でも最近はそういうのを取り去って、より本質に近い、自分のコアを表現する香りを選ぶようになってきていますね。

TIChiyoさんが香りの専門家になったきっかけは?

Chiyo最初はヘアメイクアップアーティストになりたくて学校に通っていましたが、メイクすることよりも美容の雑誌が好きになり、美容ライター志望に変わったんです。そこでアシスタントとしてついた編集の方がたまたま『香水図鑑』というムック本の担当で、その仕事を通じて初めていろいろな香水を知って、物語やフィロソフィーが込められた香りの世界に惹かれ、この道に進もうと決心しました。その出会いがなかったら、いまの私はないかも?と思います。

KIM私も海外のお土産の話で思い出したんだけど、昔、ミニチュアのフレグランス詰め合わせという定番のお土産があったの。それをもらった時に私が気に入ったのが、ギ ラロッシュの「フィジー」。あとはニナ リッチの「レールデュタン」だったんです。

Chiyoすごく伝統的な香りですね。

KIMパウダリーな香りが好きだったの。そのミニチュアってよくできていて、現品サイズのボトルの形そのまま。「レールデュタン」にはちゃんと鳩が乗っていて、Chiyoさんがゴルチエのボトルに惹かれたのと同じように、そのロマンティックなボトルも好きで飾ってたんです。中学生だった当時は、それがトレンドのフレグランスなのかどうかも知らなかったから、本当に感性だけで選んでいたんだろうな、と思う。

SK昔は、ボトルもめちゃくちゃ素敵だったよね。オブジェとして飾っておきたいというものが多かったし、香りも大人っぽかったですよね。

Chiyo全体的に重めで、しっかりしていましたからね。

TI私の場合は、中高生時代に爆発的に流行った香りがあって、周りの同級生みんながそれを纏っている、という状態だったんですが、その香りが全く自分にしっくりこなくて。母が持っている香りもなんだか違うし、「自分には香水というものは必要ないんだ......」と思い込んでいたんです。でも大学生になって、私もChiyoさんと同じく編集アシスタントをしていた時、香水特集の撮影を手伝ったことがきっかけで「香りってこんなにいろいろな種類があるの!?」と驚いたので、遅い目覚めですね。そこから精油に興味を持って、アロマテラピーの勉強をしていたこともあります。

十人十色、自分らしさを表す香り。

TIでは、持ち寄った香りを試してみましょう。Chiyoさんに持ってきていただいたのは?

Chiyoひとつは、カルトゥージアの「イオ カプリ」を持ってきました。イタリア・カプリ島発で、もとは修道院で作られていたというブランドです。

カルトゥージア イオ カプリ 50ml ¥15,400/トヨダ トレーディング プレスルーム

SKちょっとイチジクっぽいような?

Chiyoさすが。柑橘がベースでイチジクがキーノートです。私は太陽のある場所が好きで、いまも海の近くに住んでいたりするのですが、すごく開放的な一面があって。そうは見えないと言われるんですが......(笑)。この香りは、マルタ共和国に留学していた時期にカプリ島を旅した時に出合い、自分のオープンな面を楽しみたい時に纏いたいと思って購入したんです。

SK旅先で買う香りって、記憶にも一緒に残りますよね。

Chiyoそうですよね。湿度が変わると香りの感じられ方が変わることもありますが、この香りは日本に帰ってきてからも好き。ドライさと、ちょっとフルーティで元気になれる感じと、地中海の風。

KIM苦味も少しありますよね。イタリアの柑橘の使い方って、苦味をグッと出すというのがあると思うんですけど、大人っぽいですね。

Chiyoそしてもうひとつの香りが、自身のブランドであるアブラクサスの「イモータル ノード オーデトワレ」。月の満ち欠けを表現したシリーズの5種の中から、皆既月食を主題にした香りです。自分でフレグランスを作っていると、たまに「どれがいちばんChiyoさんぽいですか?」と質問を受けることがあるんですが、確実にこれかなと。

イモータル ノード オーデトワレ ¥11,000/アブラクサス

TI先ほどの「イオ カプリ」とはベクトルが全然違いますね。こちらは太陽ではなく夜というか闇というか。

Chiyoこの香りの隠れテーマは、ヴァンパイアが住んでいる古城。イモータル ノードというのは"不死の絆"という意味なんですが、そんなストーリーを込めてこの香りを作りました。赤ワインの香りがベースになっていて、ザクロや赤い薔薇も入っています。私のテーマカラーがワインレッドで、古い喫茶店にあるようなベルベットの椅子とかがすごく好きなんですが、そんなところも香りのイメージにありますね。

TIChiyoさんの香水創りの世界には、ファンタジーがありますね。私が持ってきたのは、ダウンパフュームの「フォーミュラ・X」。これは、つける人の肌自体の香りを引き出すというもので、まさに自分らしい香りを表現できるフレグランスかな?と。私はこれに出合う前までは、香水って自分に足りない何かを補うための存在だと思っていたんですよ。でも、自分の中にあるものを引き出す作用もあるんだ!という新たな視点を授けてくれた香りです。これをつけていると、すごくいい気分になれるんです。

オードパルファム フォーミュラ・X ¥14,300/ダウンパフューム

SK私は完全に自分の肌の匂いになっちゃって、あまり香りが感じられない。

TI人によって香りの出方も印象も違うんですよね。どんな香料が使われているのかが明かされていないところもユニークです。そして、もうひとつはル ラボの「ガイアック10」。東京を表した香りで、通常は都内のリアル店舗でしか入手できず、限られた時期だけオンラインや全国のショップでも販売されるフレグランス。私はこれにアスティエ・ド・ヴィラットの「ツーソン」を重ねて使うことが多いです。アリゾナの野性的で乾いた大地の香り。

左: ガイアック 10 オード パルファム 100ml ¥69,850/ル ラボ右: パルファンツーソン 100ml ¥29,700/アスティエ・ド・ヴィラット

Chiyoどちらの香りもシンプルな構成なので、重ねても嫌な感じにならないですよね。

TIこのふたつの香りを重ねることで、どういうふうに自分らしさが表現されるか......と問われると説明が難しいけれど、自分がニュートラルでいられる香りであること。客観的でありたい自分がいて、イエスもノーも、あまり決めつけないスタンスでいたい。香りの世界も同じで、好みは人それぞれ、何がいいか悪いか、正解がないものだと思うんです。それがおもしろいところですよね。

SKいま香りに注目する人が増えて、盛り上がっているのは、そういう面もあるのかもね。ひとつの正解はなくて、誰かに聞いてわかるものでもないし。

オンとオフの香りは切り替えたい派?

KIM私の愛する香りは「ブルガリ ブラック」。ですが、製造中止になってしまったんですよ......。日本では完全に手に入らなくなってしまった。今日は、本当に貴重な品を持ってきました(涙)。

Chiyo強い香りなのかな?と思ったら、意外にバニラっぽい香りがありますね。

KIMなぜこれが自分らしいかというと、私はスキューバダイビングをするんですが、マウスピースのゴムを噛んでいる時の香りが、この「ブルガリ ブラック」のラバーノートと直結するんですよね。普段の仕事が忙しい反動で、海に行った時は全てが解放されるし、海中で自分と対話することで気持ちが鎮静化される。そのリラックス効果がこの香りでもたらされている感じ。

TI香りで、交感神経と副交感神経のスイッチが切り替わるんですかね。

KIMそれはあるね。その安心感というのを、もうひとつ持ってきた香りにも感じるんだよね。ジョー マローン ロンドンの「ポメグラネート ノアール」。ブラックとノアール、私にとっては黒を感じさせる香水イコール安心感なのかな。

ポメグラネート ノアール コロン 100ml ¥21,340(1/30より¥21,560)/ジョー マローン ロンドン

Chiyoさっきのバニラにこのポメグラネートと、一瞬、可愛さもあるけれど、すごくグラウンディングした香りですよね。

SK土っぽくもあるし。冬の香りという感じ。

KIMやっぱり自分は冬生まれだからか、温かい香りのほうが好き。「ポメグラネート ノアール」はディフューザーを家に置いていると、帰宅して玄関の扉を開けた時、この香りがぱっと入ってきて、「リラックスできる!家に帰ってきた!」という気持ちになれる。

SK外出時と家と、同じ香りだと気持ちが切り替わらないのでは?と思うんだけど、そのくらい好きなんだね。私は、何もつけたくないという日もあるし、出かける前に「今日ってどういう気分なんだろう?」と考えて、エナジャイジングする香りをつけてみたりとか......。一方で自宅のディフューザーは香水とは全然違う香りにしていて、もっと精油っぽいものにしてる。

Chiyo外にいる時と家にいる時の香りを切り替えたいんですね。うちもそうかも。セレクトが似ている感じがします。

SK私は今日、ビュリーの「オー・トリプル イリス・ドゥ・マルト」を持ってきました。ルーブル美術館コレクションの「ヴァルパンソンの浴女」が好きだったんですけど、販売終了になって悲しんでいたら、人気の香調だったようで、少しだけ香料の構成と名前が変わって登場。ビュリーの水性香水って本当に肌に吸い込まれちゃうから、外に香りを発さず、"もともといい匂いがする人"になれる。特にこれは、パウダリーなアイリスとオレンジブロッサム、レモングラスなどで、お風呂上がりみたいな匂いで、夏も心地いいし、とにかく自分自身が幸せ。

オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー オー・トリプル イリス・ドゥ・マルト 75ml ¥20,350/ビュリー ジャパン

Chiyoレモングラスの苦味がほのかに感じられますね。

SKもうひとつは、ブーディカ ザ ヴィクトリアスの「ジュビリー」という、エリザベス女王の即位60周年記念の時に作られた香り。本当に「お祝い!」というムードで、なんとトップノートにパイナップルが入っているんです。ジャスミンとか、バイオレットも入って賑やか。だけど、だんだん落ち着いてウッディになって、肌になじんでくるんですよ。この明るく華やかな感じが、「さあおしゃれして出かけるぞ」という気分にもなれる。

ブーディカ ザ ヴィクトリアス オードパルファン ジュビリー 100ml ¥66,000/エスティ フィロソフィ

自分らしい香りを見つけるヒントとは。

KIM香りの好みの傾向というのは、その人の体質とかに関わっているのかな?

Chiyoそれもあるかもしれないですね。香りをつけてみて、たとえばホワイトフローラルがきれいに香るのか、甘く出すぎるのか、肌との相性で系統はありますね。肌にのせた時に甘さがすごく際立つ方がいたんですが、それが苦手で普段はさっぱりした香りを選ぶとおっしゃっていました。

TI純粋に香りとして好みかどうかに加えて、肌との相性も含めての話になってきますね。

SK自分では感じていないだけで、その人自身が持っている香りというのがあるんだろうね。よく、鼻が利かなくなったらコーヒー豆を嗅いでリセットしましょうと言うけれど、本当は自分の腕の内側の香りを嗅ぐほうがいいらしいですね。

TI自分に合う香りの見つけ方、Chiyoさんは普段どういうふうにアドバイスされていますか?

Chiyo私の場合、お客様にいくつか香りを試してもらっていると、その方が無意識に何度も嗅ぎなおしている匂いがあるんです。それは気になっているはずだと。

SK前情報なく、直感みたいなのは大切にしたほうがいいですね。

Chiyoはい。本能的に「これが好き」というものを選んでもらいます。香りをオーダーで作る時は、香料名を最初は説明せずに素材を嗅いでもらって、それが好きか、嫌いか、というのを選別してもらうようにしています。そして選び終わった後に、これはこういう香りですというのを説明して。

KIM以前にとあるブランドで香りのセッションを受けたことがあって、膨大な数の香りを試し、その中から自分が好きだと選んだ香りに共通して入っていたのがユーカリだったんです。自分ではクローブがいちばん好きなのかな?と思っていたから、自覚していないけれど本能が選ぶ香りってあるんだな、と実感できておもしろかったですね。

TIそういうワークショップを受けてみるというのもひとつの手ですね。いま、フレグランスの情報が豊富すぎて、知識だけ詰め込むと頭でっかちになってしまう。

Chiyo選択肢もありすぎるから、まずはコンセプトやデザインに共感するブランドを絞り込んで、そのブランドの中でいくつか試してみると、選びやすいと思いますね。色のイメージで選ぶというのも、ひとつの方法かもしれません。色合いからイメージして香りを作ることもあるので。

SKボトルが家に置いておきたいデザインかどうか?っていうのも、大事なところよね。あとは調香師で共通項を見つけるのもいいと思う。私の場合、「ヴァルパンソンの浴女」を手がけたダニエラ・アンドリエという女性調香師が創った香りは、ほかのものも好き。ひとつ好きな香りがあったら、その調香師で追いかけていくというのもいいかもね。Chiyoさんが好きな調香師はいるんですか?

Chiyoやっぱりジャン=クロード・エレナが好きで、彼が出した本は香りの勉強をする時にも使っていました。

KIM彼は話の内容も知性を感じるし、文学からの引用なんかもあって、素敵ですよね。

SKそれにしても、自分らしい香りというものは永遠のテーマかも。たまに「ずーっと同じ香りをつけてます」という人がいると、ブレがなくて羨ましいけど、自分がブレているわけでもなくて。昔から愛用する香りは変わらずいいなと思うし、いまも時々つけるので、香り選びの変遷も含めて自分らしさなのかな、と。

TIKIMさんはずっと同じ香りだったけど、「ブルガリ ブラック」が製造中止になってしまったことをきっかけに、新たな香りとの出合いを探す旅に出るのかもしれませんね。

KIM旅に出なきゃ......!

●問い合わせ先:アスティエ・ド・ヴィラット 伊勢丹新宿店tel: 03-3352-1111https://adv-j.comアブラクサスhttps://ablxs-fragrance.comエスティ フィロソフィtel: 03-5778-9035www.boadiceaperfume.jpジョー マローン ロンドン お客様相談室tel: 0570-003-770www.jomalone.jpダウンパフュームhttps://dawn.theshop.jpトヨダ トレーディング プレスルームtel: 03-5350-5567www.toyodaco.jp/carthusia_aboutビュリー ジャパン0120-09-1803(フリーダイヤル)https://buly1803.jpル ラボtel: 0570-003-770www.lelabofragrances.jp

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