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中途採用の6割は失敗する…「マネージャー以外の業務はやりません!」即戦力人材のはずがモンスター化のワケ

  • 2024.1.9

中途採用をして経験者採用をしても、入社後、うまく行くとは限らない。人事コンサルタントの西尾太さんは「管理職採用した人にマネージメント力がないなど、中途採用の6割は狙いどおりにいかない。多くの企業で採用、定着、育成の失敗などで、人事の失敗が起きている」という――。

※本稿は、西尾太『人事で一番大切なこと』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

「人が来ないから給料を上げよう」という考えは要注意

採用には「給与」の問題があります。

給与を上げれば人が採用できるでしょうか。

確かに短期的には効果があるかもしれません。しかしそれだけでは、もし他社も給料を上げてくれば、その人は簡単に転職してしまうかもしれません。

また、「入社後の給与アップは何をもって行なうのか」などもしっかりと考えておかなければなりません。入社時は高かったけど、その後は上がらない、ということではモチベーションも上がらず、離職につながります。

私たちのクライアントで、給料は決して高くない(というかかなり安い)会社があります。しかし魅力的な事業をしており、優秀な若手を集めて育てています。

その会社は経営ビジョンがしっかりしており、いまは安いけど将来は収益を上げて給料も上げていく、という道筋が見えています。もちろんその通りに行くかどうかは今後次第でしょうが、少なくとも事業の意義と将来の希望はあります。

求める人材像とともに、企業の中長期的なビジョンを明確に示すことも有効です。

【図表1】「働きやすさ」と「働きがい」の推移
出典=『人事で一番大切なこと』
休みが多く残業が少なくても、成長できなければ定着しない

休みを増やして労働時間を減らせば人が採用できるでしょうか。もちろん、ブラック企業といわれる会社の「超長時間労働」は肯定できません。

一方『日経ビジネス』にこんな記事がありました。

「“いい会社”になったはずなのに何か変 その会社『ゆるブラック』です」。

「ゆるブラック企業」という言葉は2021年頃から登場してきました。

働き方改革を進めるあまり、「ただ残業を減らす」ということを行ってきた結果、たしかに労働時間は減ったが、「働きがい」「やりがい」までもがなくなってしまった、というものです(図表1)。

結果、若手が離職していきます。「たしかに労働時間は減ったけど、ここにいては力がつかない、成長できない」と思ったというのです。そして優秀とされる社員ほど、そう思う傾向があるように思えます。

「残業が多くても文句を言われ」「残業を減らしても文句を言われる」とお思いかもしれませんが、そもそも「残業はよくないから減らそう」「休みが少ないのはよくないから増やそう」という一方向の価値観と施策展開は、逆効果も生むわけです。

社員が求めているのは「楽な仕事」ではないかもしれません。「厳しくても成長する実感が得られる仕事」を欲しているわけです。自社が社員に何を求めるのかをしっかり考えてから、人事施策を展開すべきなのです。

そもそも新卒を一括採用する理由とは?

なぜ新卒を採用するのですか?

私は、この問いを経営者や「人事の学校」などで多くの人に投げかけてきました。一瞬、皆さんとまどわれます。「え? なんでだっけ?」。

多くの答えは「他社を経験しておらず真っ白だから」というものです。「新卒のほうが、中途より定着するから」という答えもあります。

本当にそうでしょうか。

私は「新卒採用は真っ白だから染めやすい」「中途よりも定着しやすい」という考えは、ある種、都市伝説に近い、根拠のない考え方ではないかと思っています。

「新卒は真っ白」という気持ちはわからなくもありませんが、SNS全盛の今日、接する情報量は豊富で、かえって経験がないぶん誤った就業観や会社観を持っているかもしれません。

また、新卒が定着しやすい、というのは、多くの企業で新卒に対しては導入研修やOJTなど時間をかけて丁寧に教育を行っているからではないでしょうか。それに対して、中途採用は半日程度の会社説明で現場に配属ということも多いようで、これが定着に結びついていない一因とも考えられます。

新入社員
※写真はイメージです
新卒社員が3年で3割辞めるといわれる時代

中途採用でも、きちんと時間をかけて教育し、組織に溶け込めるような施策をすれば、定着率は新卒と変わりません。場合によっては他社を経験している分、自社のよさを感じてもらえるかもしれません。

新卒が3年で3割辞めるといわれる時代です。場合によっては数年で全員が辞めてしまった、ということもあります。それでは募集から採用までの活動がまったく無駄になります。

少子高齢化で、若手の採用はこれまでになく難しくなっています。大手志向も変わっていません。そして、テレビを見れば、転職に関するCMを見ない日はありません。それこそ「明るく元気で素直」な若手は、中途採用市場でもひっぱりだこです。

新卒採用には莫大ばくだいな時間とお金と手間がかかります。入社後の教育も同様です。そのリソースを、中途採用者や既存社員への投資に活用すれば、定着率も高まり、優秀な人材も育つかもしれません。

それでも新卒採用をするのであれば、なぜなのか、を明確にしましょう。いま一度、「なぜ新卒採用をするのか」を問い直す必要があるでしょう。

「では中途採用にしよう」という方針はOKなのか?

だからといって、中途採用がうまくいくのかといえば、そうとは限りません。

「当社には人を育てている時間なんてないから即戦力を採用したい」という経営者もいらっしゃいます。

確かに、転職してきた社員が、入社初日からバリバリ働き、高い成果を上げる、そんな人材であったらどんなにすばらしいでしょう。

しかし、世の中それほど甘くはありません。人が足りなくて猫の手も借りたいような状況で採用すると、たいていは失敗してしまいます。

人事業界では「お腹がすいているときに採用してはいけない」という格言があります。空腹時は何を食べてもおいしく感じます。場合によってはあわてて食べてお腹を下すこともあります。採用担当者の皆さんは、自社が「お腹がすいていないか」よく自覚しましょう。

とはいえ、確かにお腹がすいているから食べるのであって、食べるものを選んではいられないということもあるでしょう。昨今は「人手不足倒産」も増えています。

管理職としては使えずモンスター社員になってしまった例

先ほど「新卒採用はよく考えろ」と言ったじゃないか、中途も気をつけろ、では、どうしたらいいんだ⁉ とも思われるでしょう。

中途採用の成功率は私のこれまでの実感値では約4割です。採用方針をしっかり定めて慎重な選考を行なわないと、6割以上は失敗に終わってしまいます。

特に注意しなければならないのは、社員がモンスター化してしまうことです。私たちのところにも、「モンスター社員をどうしたらいいでしょう」というご相談はしばしば来ます。

モンスター社員とは、モンスターペアレントなどと同じで、企業や職場をおびやかす、自己中心的かつ理不尽な困った社員を指す言葉です。

ある会社では、マネージャーの経験があるという人物を即戦力として採用したところ、実際にはマネジメントがまったくできないことが露見してしまいました。

だからといって解雇はできませんし、すぐに退職勧奨するというわけにもいきません。しかたなく本人に「今後はプレーヤーとしてがんばってほしい」と伝えたところ、「それは話が違います! 私はマネージャー以外の業務はやりません!」と逆ギレされたそうです。

手のひらをこちらに向けて断るビジネスマン
※写真はイメージです

実は雇用する際に不備があり「マネージャーとして採用する」という雇用契約書を交わしてしまっており、本人の同意なく配置転換も難しい。一方でマネージャーとして成果はあげない、他の仕事は一切しないという人を評価するわけにもいかず、低評価をすると「不当だ! 訴える」と騒ぎ出し大問題となりました。

ハズレが少ないのは入社後にやりたいことを明確に語れる人

「即戦力」というのも、とても曖昧な言葉です。能力や経験があったとしても、企業が求める方向性と違っていたり、志向性が想定と違ったり、採用した時点では戦力になったとしても、数年先にそれが続かなかったりします。

だからこそ、求める人材像を明確にし、中途採用でも決してないがしろにせず、きちんとした採用選考と教育を行う必要があるのです。

漠然と「長く働きたい」という応募者もいます。しかし、その「長く」の間、何を成し遂げたいのか、を語れる人は多くありません。

西尾太『人事で一番大切なこと』(日本実業出版社)
西尾太『人事で一番大切なこと』(日本実業出版社)

私が採用したいと思うのは、たとえば「入社後3年から5年の間に○○をやりたいです」と明確に語れる人です。この人が、3年や5年でそれを成し遂げたときに、次にやりたいことが自社にあれば続けて働くでしょうし、なくなれば辞めるでしょう。ちなみに、これまで見てきた中では、こういう志向の人のほうが、結果的には長く働いてくれています。

要するに、「どんな人材にどれだけの期間働いてもらうのか」をしっかりイメージして採用に取り組んでいただきたいのです。

「どうやって採用するのか」の前に、「誰を採用するのか」を明確にするのです。

西尾 太(にしお・ふとし)
人事コンサルタント、フォー・ノーツ代表
「人事の学校」「人事プロデューサークラブ」主宰。1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリエイターエージェンシー業務を行なうクリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。著書に『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)などがある。

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