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川内有緒さん「自分の楽しみを、自分で生み出せること。それは、素敵で最強なことです」/新刊インタビュー

  • 2024.1.7

お金がないと何も手に入れられないという不自由さから、買わなくても、つくることができればいいなという考えに至った作家・川内有緒さん。今回、新著『自由の丘に、小屋をつくる』の発売を記念し、インタビューしました。現代社会の生きづらさから本当の幸せのありかを発見できる読み応えのある一冊です。

疲れているんだけど、今日も元気になったなあと

「家は好きなんですけど、買うことはまったく考えてなくて。ずっと借り暮らしでもいいなと」と言うのは、ノンフィクション作家の川内有緒さん。そんななか、ある日〝思いついちゃった〞のが、買うでも借りるでもなく「つくる」こと。著書「自由の丘に、小屋をつくる」は、まったくゼロの状態から、手探りで小屋を建てるまでの日々を綿密に、軽快に! 綴った奮闘記です。

まずは土地探しから。あれこれ探した末、山梨にある、遠くに山が見渡せる友人宅の土地を借りられることに。「私自身は東京で生まれ育って、都会を転々としてきた人生で。映画館にも本屋さんにも喫茶店にも行きたい、欲望にまみれた人間なんですよ。地方に移住した友人がいるんですけど、よく都会と全然違う環境に引っ越せるなと思ってました」

一方で、憧れもまた。「彼らはアーティストなので、いろんなものをつくりながら、毎日すごい充実してる。何かを与えられなくても、本当に楽しい人生を送ってるんです」。感じたのは、お金がないと何も手に入れられないことの不自由さ。「消費社会を否定してるわけではないけれど、買わなくても、つくることができればいいなと。自分の楽しみを自分で生み出せる。それって素敵だし、最強だなって」

さらに決め手となったのは、子どもが生まれたことでした。「都会にはない、違う景色を見せてあげたいなと。価値観の転換ですよね」

いざ、小屋をつくろう! となったはいいけれど、本人いわく「相当な不器用」。木工教室に通っての家具づくりから始まり、徐々に技を身につけます。そして本書の胸アツなハイライトは、小屋づくりを手伝うまわりの強力な助っ人たちの存在。「もちろん大工さんはかっこいいし、技術もすばらしいんですけど、能力が高くなくても、それはそれでおもしろい。何もしないで帰る人もいるし、私も小屋に行って、『今日は疲れたからやめようかな』とかいうこともある。ひどいですよね。でも『いついつまでにこれこれやらなきゃ』とか、そんな仕事モードみたいなのは、できるだけ持ち込まないように。みんなもそういう空気感を、つくり続けてたんじゃないかな」

そう、川内さんも、みんなにとっても、小屋とは「遊び道具」だから。「いつもとは全然違う環境のなかで、体を動かして。夕方になったら温泉に入って、夜は焚き火をして。疲れているんだけど、今日も元気になったなあという感じなんですよね」突飛な発想だけど、シンプルで根源的な、これぞ豊かさのかたち。

新著『自由の丘に、小屋をつくる』

川内有緒/¥2,420(新潮社)

母親になった著者が突如思い立った、小屋のセルフビルド。慣れないDIYに四苦八苦し、手と心を総動員させながら気づいたのは、消費や効率主義、コスパやタイパ……現代社会のもやもやを軽やかにかわす術と、本当の幸せのありか。リリカルでリズミカルな筆致に、あれよあれよという間に読み進められ、ともに成し遂げたような読後感!

お話を伺ったのは……川内有緒さん

かわうち・ありお/ノンフィクション作家。日本大学芸術学部卒業後に渡米し、ジョージタウン大学にて修士号を取得。その後国内外の国際機関や企業に勤め、初の著書『パリでメシを食う。』(幻冬舎)を出版。『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(集英社インターナショナル)でYahoo!ニュース本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞。

text:BOOKLUCK

リンネル2024年2月号より
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