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現代人が時間に追われないようにするための5つのヒント。

  • 2024.1.3

永遠に走り続けなくてはならないアリスのウサギのように、私たちは毎日、時間に追われて生きている。それとも追われているのは自分自身に、なのだろうか?

柔軟にテキパキといつでも対応できることをよしとするのが現代社会で支配的な価値観だが、それは同時に私たちの精神的負担を増やしている。photography: Getty Images

哲学者のエティエンヌ・クランは両手首に腕時計をはめている。スイスへ講演に向かう前、駅を待ち合わせ場所に指定してきた。それも時計の真下で。

時間の専門家である彼の周りには、時間があふれている。本人を圧迫するほどに? 「時間とは、私たちがいまを生きることを妨げるものだ」と哲学者は言う。時間に対するこのような厳しいものの見方はいまの時代ならでこそ。現代人の日々が、絶え間ない時間との競争で、切迫感に彩られていることをずばり言い表している。

今日、私たちの時間に対する態度が前向きであることは滅多にない。時間が足りない、もっと時間があったなら、時間が過ぎるのが早すぎる......やらなくてはならないTo Doリストは長くなるばかり、すぐにやらなければならないことが山積している。仕事も思考も細切れに積み重なる。だからいつでもたくさんのことを抱えているような気分で常に「追いかけられている」気分になる。

気を散らすことで負荷がかかる。

ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に登場する白ウサギは、「お別れを言う暇がない、遅刻だ、遅刻だ」と叫ぶ。私たちは白ウサギの言葉を聞き過ぎて、そのペースが普通だと思うようになってしまったのだろうか。

生活にデジタル技術が入りこんでから、哲学者が「複数の現在の重層構造」と呼ぶ状態が生じた。哲学者はこれを次のように説明する。「私はあなたと一緒にいるけれど、同時にほかのことをいろいろすることもでき、それらはあなたとの時間に寄生する」。それはたとえばスマホの画面に表示された記事を読んだり、自分の研究所にメールを送ったり、今日泊まるホテルが駅から何m離れているかをグーグルマップで調べたりすることだったりする。「このように気を散らすことはスケジュールに負荷がかかる主要要因であり、物事が遅延する原因になることが多い」そうだ。スマホやパソコンがあればより多くのタスクを処理できるはずだが、実際にやるとなると、それなりに時間を食う。それは手際がいいかどうかという問題ではない。「日々受け取るデータの量は加速度的に増えていく」

「そして私たちの脳はそれに対応できない」と考えるジョナタン・キュリエルは、これをテーマに1冊の本『Vite! Les Nouvelles Tyrannies de l'immédiat ou l'urgence de ralentir(早く! 即時性と言う新しい暴君または速度を緩める緊急性)』(Plon出版)を2020年に書いた。フランスのM6TV局の番組編成担当副社長であるジョナタンは、長年マスコミ業界で働いてきた。しかしながらいまやこの業界もスピードが命となり、次から次へニュースを追いかけるような「まるでひきつけをおこしたかのように絶え間ない情報の流れ」となっていることに違和感を覚えている。

今日、人間は時間のスピードに追い越されてしまったのだろうか? 「それより、スピードはいまや社会のあらゆる分野に影響を及ぼしている」とジョナタンは言う。政治から私生活、そしてもちろん仕事の世界でも、あらゆるものが加速している。誰もがいっぱいいっぱいになっている。「職場でどれだけそういう会話が交わされているかを見ればわかる。"仕事漬けだ"、"ボロボロ"、"月末まで全力投球"等々、働き過ぎを表現する言葉がいくつもある」とジョナタンは嘆く。これが標準になったのだろうか。あるいはこれが社会的ステータスや優秀さの証なのだろうか。

やりがいから病みつきに

いずれにせよ、優秀な学生はすぐに、この「スーパーブースター」状態に病みつきになる。「優秀な人の場合、仕事に埋もれる感覚はすごい効果がある。このような状態が心底大好きで、すぐにフルタイム2人分ぐらいの仕事をこなすようになる」と、コーチング会社「ウーマン・インパクト」の創設者シーヌ・ランズマンは言う。

「仕事を素早くうまくこなしている時の、無限に働けそうな感覚、有能感ほど楽しいものはありません」とも言う。それは自分が評価されるための一手段だったりする。「評価なしには死んだも同然です。なので私たちは徐々に、自分の行動でどんな評価が得られるかに基づいて時間を使うようになるのです」

対応力が評価される経済社会では、通常の仕事に加え、急ぎの仕事やギリギリの仕事を積み重ねることが、評価を得る最も確実な方法とさえなっている。育児と仕事の両立を目指す働き盛りの女性の多くは仕事をきちんとこなせているか悩み、こうした仕事の状態に陥りがちだ。

映画プロデューサーのポーリーヌもそのひとり。「朝起きた段階からもう遅れています。いろんなことを引き受けすぎて、前日の24時間では到底片付かない仕事量なのです」と言うと、少し前をこう振り返る。「コロナ禍のロックダウンの時期が懐かしくなることがあります。当時は緊迫した情勢でしたが、社会的な要求がなくなり、自分のプロジェクトにじっくり長期間取り組む時間がずっとあったからです。そうしたことがわかっていても、何らかの要請があればまっさきに手を挙げてしまうのです」

時間を楽しむ。

哲学者のエティエンヌ・クランはこのような状態を「人生に酔っている状態。忙しいと生きている実感がするからだ」と説明する。しかしながら予定を詰めこみ過ぎるとレッドゾーンに足を踏み入れることになる。

「すべてが順調な間は、効率的に働き、締め切りも守れる。しかしこのような状態がずっと続き、ストレスを感じるようになると逆効果になる。そして私たちはたいていそのことに気付かない」と哲学者は指摘する。

働きすぎでアドレナリンを出し切ってしまうと「物事をじっくり考える時間がなくなり、間違った決断をして壁にぶつかってしまうこともある」とシーヌ・ランズマンも言う。最悪の事態を避け、時間を取り戻し、さらには一歩先んじる喜びを得るために、シーヌ・ランズマンはコーチングを受けにやってきた客に、付加価値のない仕事は断って別な人に任せることをアドバイスする。やってみれば「とても簡単なこと」なのだそうだ。

しかし、それは本当に簡単なことなのだろうか? 遅刻をやめるには、まず遅刻を受け入れること、と哲学を大学で教える精神分析医のエレーヌ・ルイエは言う。彼女が2020年に上梓した著書『Éloge du retard(遅刻礼賛)』(Albin Michel出版)では、パスカル的なパラドックスが説明されている。「時間がないと思い、私たちはそのことを嘆くけれど、その実、私たちが一番恐れるのは時間が余ることなのです」

だから私たちは時間を楽しむ方法を学び直す必要がある。メールの返信をすぐさま出さねばという気落ちに抗い、一呼吸おく。退屈すること、予想外の展開を受け入れる余裕を持ち、読書する楽しみを取り戻すことがそのための道となる。

エレーヌ・ルイエは「瞑想の中にこそ、創造性と喜びが生まれるのです。時間の喪失を受け入れることが真の喜びの前提条件だとさえ言いたい」と語る。

電車の時間(ぎりぎりまで)取材を受けていたエティエンヌ・クランは、前向きな結論を出そうとした。「時間が足りないと私たちがイライラする。それは私たちが幸福というものを信じ、それを無駄にしたくないからだ。やりたいことが全部できたらどんなに幸せだろう、と誰もが思っている」のだ。だからこの幻想を捨てること自体が、時間を取り戻すことにつながる。

自分にゆとりを与える5つのヒント

自分の範疇ではないことはすべて任せる。分け方は4つ。自分ができないこと、できること。できることはさらに、まあまあこなせることと、得意なことに分かれる。理想はできないことに費やす時間を0%、まあまあこなせることに費やす時間を20~30%、得意なことに費やす時間をできるだけ多くすることだ。そうすればあなたは非常にうまく、簡単かつ楽に仕事ができる。

仕事は早く片付ける方が良いというものではないことを理解しよう。

自分のスケジュールの中に、集中して仕事をするための時間を確保し、一つのテーマを徹底的に掘り下げる。そんな時は電話を断ち、ドアを閉め、忙しいことをアピールする。理想は3時間×2回、または週に1日。

緊急時や不測の事態のための時間を確保する。例えば、年間スケジュールに1日1回昼食後に1時間、あるいは週に2回、2時間の時間を組み込む。こうすることで、アングロサクソン系諸国で言うところの「魔法の時間」(存在しない時間)で処理しなくてはならないハメに陥らずに済む。

節約した時間を利用して、前倒しで行動することを学び直そう。会議や約束の10分前に到着し、コーヒーを飲んだり一息ついたりしてから、ゆとりをもって臨むのだ。

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