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旅の移動手段、飛行機よりもエコな列車が人気復活。

  • 2024.1.3

いま注目の言葉、それは"train bragging=鉄道自慢"。鉄道オタクのことではない。地球環境保護の観点から、旅行にエコな鉄道を使おうとする動きだ。炭素排出量を気にする今日のノマド(遊牧民)たちは、列車で長距離をゆっくり旅するこそが究極の贅沢と感じている。

カナダの人気パノラマ客車。Photography : Patricia Burilli Fencz/ Shutterstock

2023年6月末、シシィとヴィレアク(1)はパリからウィーンへ向かう夜行列車に乗り込んだ。だがふたりが目指しているのはオーストリアの首都ではない。共にIT業界で働いていた30代カップルは、仕事を辞めて1年間アジア旅行をすることにした。「2年前だったら飛行機で行っていたかもしれません。ですが、環境保護のことを思うとね」とふたりは鉄道の旅を決意した動機を語った。こうして、オリエント急行のルートをたどってイスタンブールまで行き、そこからかつてのシルクロードを通り、コーカサス地域を経て中央アジアへと向かう。最終目的地のバリ島には2024年春に到着予定だ。ウズベキスタン、中国、ベトナムなどの国を通過しながらあちこちで長短の滞在をするつもり。最終的には15,000キロの旅となる。シシィとヴィレアクのように、フランス、ヨーロッパ、そして世界各地へ行く手段として列車を選ぶ旅行者はますます増えている。その証拠が鉄道のチケット販売数の伸びだ。

値段が高すぎるという批判にもかかわらず、フランス国有鉄道は毎年、夏の売り上げ記録を伸ばしている。2023年7〜8月の期間は、2022年同時期よりも10%多い約2,400万枚のTGVチケットを売り上げた。列車で旅行する人が増えているのは、環境への配慮という要因が大きいがそれだけではない。旅の目的地だけでなく、そこへ行くまでの過程も旅として楽しむ人が増えているのだ。列車の旅を専門とする旅行代理店、「Discovery Trains(ディスカバリー・トレインズ)」の社長、ロール・ジャケも人々の意識の変化を指摘する。「鉄道ファンやエコ志向の若者だけでなく、列車の旅はもっと広い層の心を捉えるようになりました。列車の旅を選択することは、ゴミの分別やプラスチックの使用量を減らすのと同じように、誰もが環境のためにできる、ちょっとしたことなのです」

鉄道の復活

これまで鉄道は安さを売りにする航空会社との競争に脅かされてきた。誰もがリスボンやブダペスト、ローマへ安く行ける飛行機を便利だと思い、いくら乗ってもやましさなど感じなかった。ところが2018年にグレタ・トゥーンベリがflygskam(英語でflight shaming=飛び恥)運動をはじめて状況が変わった。「1990年代初頭まで、鉄道はヨーロッパ観光の主要移動手段でした。列車の本数も多くて乗り継ぎが簡単、料金も安かったからです。こうした利点が飛行機の普及で損なわれてしまいました」と、鉄道輸送を専門に研究する経済学者、ジャン=ジャック・マルシは言うと、鉄道回帰の動きについてこう述べた。「鉄道黄金時代を知っている世代は懐かしさから鉄道の旅へ戻っています。一方、若い世代はこの移動方法を新鮮に感じると同時に、昨今の環境問題を解決する手段として捉えているのです」

低炭素な旅行である鉄道旅行の人気復活に伴い、これに特化したプラットフォームが続々と誕生した。フランスではHourrail!やOnce Upon a Train、Mollowなど。Mollowを2人の仲間とともに創ったのは26歳の女性、キアラ・ペラスだ。「多くの人は、フランスからギリシャやスカンジナビア、モロッコへさえも飛行機を使わずに行けることを知りません。私たちは列車とフェリーを組み合わせた旅が比較的簡単に実現できることを提案しているのです」とキアラ。こうしたオンライン旅行代理店が頼りにしているのはSNS。実際、インスタグラム等のSNSは鉄道人気復活に一役買っている。「寝台車でのヨーロッパ周遊旅行、移動中でのテレワークはひとつのライフスタイルとなりつつあります。こうした投稿を見て、自分もやってみたいと思う人が増えていくのです」と旅行代理店「ディスカバリー・トレインズ」のロール・ジャケは語った。

特別な旅

富裕層の間でも鉄道旅行は復活の兆しを見せている。ラグジュアリーな旅のパイオニア、ベルモンド(LVMHグループ)では、何年か前から観光列車「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」をパリとイタリアの間で走らせ、鉄道クルーズの旅を提供している。2025年にはホテルチェーンのアコーもこの分野に参入する。アコー・グループは所有する「オリエント・エクスプレス」のブランドを活かし、昔のプルマン車両を使った豪華列車の旅を売りだす予定だ。使用予定の客車の中には1世紀近く前のものもある。この他、同グループでは2024年から、ボッテ地方を列車「ラ・ドルチェ・ヴィータ」で横断する旅も企画、乗客を1960年代のイタリアへ誘う。一方、フランスのヴァンデ県にある有名な遊園地、ピュイ・デュ・フーでは、フランス国内に豪華なエンターテインメント列車を走らせ、昼夜ショーを上演する企画を売り出した。

チケットはかなり高額で数千ユーロもするが、旅行代理店ディスカバリー・トレインズのロール・ジャケは「鉄道クルーズは、船のクルーズほどまだ多くありません。豪華列車は1回あたりの乗客数が限られている一方で人気は高く、1年前から予約でいっぱいになる場合もあります」と言う。鉄道旅のファンはかつて団塊の世代が中心だったが、ミレニアル世代も増えつつある。「ロボスレイル」(南アフリカ共和国)、「ロイヤルスコッツマン」(スコットランド)、「インディアンパシフィック」(オーストラリア)で豪華列車の旅をすることは彼らにとって一生に一度の夢であり、それは「他のどんな旅とも違う、時を超えたユニークな体験」なのだ。

(1)Sisi&Vireakのインスタグラムアカウント: @voyageons_slow

Hourrail!(英語サイトはHurrail!)https://www.hourrail.voyage/enOnce Upon a Train(フランス語サイト)https://ouat-train.com/Mollow(フランス語サイト)https://www.mollow.eu/Discovery Trainshttps://www.discoverytrains.net/en/Belmond (LVMH)https://www.belmond.com/Orient Expressのla dolce vitahttps://www.orient-express.com/la-dolce-vita/Puy du FouのGrand Tourhttps://www.legrandtour.com/Rovos Railhttps://rovos.com/Royal Scotsman (ベルモンドの商品):https://www.belmond.com/trains/europe/scotland/belmond-royal-scotsman/Indian Pachifichttps://www.journeybeyondrail.com.au/journeys/indian-pacific/

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