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井浦新の香りと山をめぐる冒険 〜南仏・スイスへの7日間の旅で気づいた、ちょっといい世界のカタチ〜 Vol.7

  • 2023.12.30
俳優・井浦新

【DAY.7】旅の終着点、チューリヒで出会った、素敵な風景と文化

チューリヒのランドマークのひとつ、フラウミュンスター。フラウは「女性」という意味だが、その名の通り、繊細な佇まいの大聖堂だ。

南仏のグラースから始まった旅も、いよいよ最終日。チューリヒで気になる場所をあちこち回ってみることにした。

まずはチューリヒのシンボルともいえる大聖堂へ。旧市街にはミュンスター橋を挟んで、2つのミュンスター(大聖堂)が立っている。2本の塔を持つのがグロスミュンスターで、とんがり帽子を被ったような細い塔を持つのがフラウミュンスター。どちらも町のランドマークとして親しまれている。

外観も素晴らしく美しいのだけれど、中に入ってさらにびっくりするのはステンドグラスの美しさ。フラウミュンスターにはフランスの画家マルク・シャガールが手がけたものもある。

「色彩の魔術師」と呼ばれることもあるシャガールだが、それはステンドグラスになっても健在。柔らかく差し込む日の光を受けたその作品は、絵画とはまた違う美しさがあった。

次に向かったのは薬局。といってもお腹を壊したわけではなくて(笑)。昔ながらの自然療法で薬草や漢方を使い薬を調合してくれる薬局があると聞いて、お邪魔してみたのだった。

店のサインには天秤ばかりに巻きついたヘビのロゴ。ちょっと不吉?と思ってしまうかもしれないが、実はヘビは脱皮を繰り返すことから昔から蘇生の象徴とされていて、古代ギリシャ・ローマ時代の神話でも医術を司る神の杖に絡まっていたことから、中世ヨーロッパでは薬局・医院の看板にモチーフとして使われていたそう(そういえばWHO〈世界保健機関〉のシンボルマークにも蛇が描かれている)。

店内にはナチュラルプロダクトを販売する新しいスペースと、ハーブを保管し調合する伝統的なスペースがそれぞれあって、新旧の自然療法が仲良く同居しているような感じ。自分の状態や生活環境によって様々な療法や薬が選べるというのは、すごくいいなと思う。

ハーブを使った喉に優しいキャンディなど、お土産に良さそうなものもあったので、ずいぶん長居してしまった。

薬局のロゴ
薬局のロゴはヘビ。最初は少し驚いたけれど、その意味を知ってからは、このロゴを見ると守られているような気分に。
薬局の一角にあるハーブ調合コーナー
薬局の奥にあるハーブの保管調合エリアは博物館のような雰囲気。お店では「ちょっとお腹の調子が悪いんだよね」なんて、地元の人が相談にやってきて困ったときに駆け込める町のお医者さんのような役割で、近所にこんなスペースがあったらいいのにと思った。

チューリヒで外食するなら、絶対にここと決めていたレストランが一軒あった。1898年に創業した世界最古のベジタリアン・レストラン〈ハウス・ヒルトル〉だ。

現代では「ベジタリアン」や「ヴィーガン」はひとつの食の選択肢として認識されているけれど、〈ヒルトル〉が開業した頃は、肉食こそが豊かさの象徴とされていた時代。野菜食が広く受け入れられることはなかった。

創業から1世紀以上、現在は4代目がオーナーを務める〈ヒルトル〉は、健康ブームの追い風もあって、チューリヒを代表するレストランに成長。スイス インターナショナル エアラインズのビジネスクラスにもベジタリアン・メニューを提供しているのだそう。

歴史のあるレストランゆえ、ちょっと入りにくいのかなと思っていたら、全然そんなことはなくて、1階はカジュアルなカフェテリア。店内にはドーンと大きなビュッフェコーナーがあって、サラダやオードブルに加え、スープやパスタ、フライなど、100種類以上の料理が並ぶ。料理の国籍も様々で、中華やエスニックなどもある。これら全てがベジタリアンまたはヴィーガン仕様というから、本当に驚いてしまった。

料理に使うのはできるだけ地元でとれたオーガニックのもの、ジュースは毎日搾りたてで、添加物や遺伝子組み換え食品は使用しないという徹底ぶり。もちろんどの料理もおいしくて、「本当にお肉が入っていないの?」と思うほどの満足感だった。ああ、ぜひ日本にも出店してほしい……!時間があればもう一回くらい食べに行きたい、最高のレストランだった。

ベジタリアンレストラン「ヒルトル」本店のビュッフェを利用する井浦新
世界最古のベジタリアン・レストラン〈ヒルトル〉本店にて。1階のカフェテリアは好きなものを好きなだけ選べる量り売りのビュッフェ形式。
ベジタリアンレストラン「ヒルトル」本店のビュッフェ
種類が豊富すぎて、つい欲張ってしまった。新鮮なローカル野菜を様々な調理法で仕上げているので、野菜だけでも満足感がすごい。
搾りたてのフレッシュジュース
搾りたてのフレッシュジュースも素晴らしくおいしかった!
ベジタリアンレストラン「ヒルトル」本店
セルフサービスで、もちろんテイクアウトもOK。近所にあったら確実に通い詰めるだろうと思うほど、いいお店だった。

〈ビクトリノックス〉や〈IWC〉など、長年愛用してきたアイテムの本店を訪れ、あちこち動き回っているうちに旅の最終日が終わってしまった。かなり駆け足の旅だったけれど、本当に実りと学びに溢れた時間だった。

7日間の旅を振り返って思い出すのは、南仏とスイスの圧倒的な自然の豊かさと、そこに調和して暮らす人々の姿だ。家族との時間を大切にして、緑の中でゆったりとした時間を過ごす。体にも環境にもいい食事をして、無理なく楽しくリスペクトし合いながら働く。そして会社では働く社員一人一人が環境に責任を持って、よりよい社会と地球をつくっていく意思を持っている。

一つ一つは小さな点かもしれないけれど、7日間の旅が終わりを迎えようとしている今、そのすべてが繋がって、一本の線になったような気がする。それは、より素敵な世界に近づくための道筋なのだと思う。

僕は今、鹿児島県大隅半島の南端にある南大隅町という、美しい自然が豊かな地でサステイナブル・コスメや香りにまつわるプロダクトつくっている。そこに暮らす人々もまた、その背景にかかわらず、お互いを大切に尊重し合いながら仕事をし、生活している。時には厳しい自然の猛威を受けながらも、自然の恵みや豊かさに活かされて。

この旅の途中で、何度も南大隅町のことを思い出すことがあった。日本にも、そんな素晴らしい土地はたくさんあり、本当の豊かさを知っている人々がいる。そのことに改めて気づくことができる体験でもあった。

この旅を実現してくれた〈nahrin〉のスイス本社と日本の総代理店、スイス政府観光局、そして訪れる先々で出会ったすべての人に、心からの感謝を伝えたい。

〈IWC〉本店と〈IWC〉の時計
愛用している〈IWC〉本店の前で、記念撮影。今回スイスを旅してみて、自分が長く使っている道具の多くがスイス発祥のブランドだったことに改めて気づいた。
スイス政府観光局で記念撮影する井浦新
今回の旅をサポートしてくださったスイス政府観光局の本局にもお邪魔した。「スイス」と「サステナブル」をかけた「Swisstainable」というスローガン、すごくいいな~。
政府観光局の建築
政府観光局の建物は古い劇場をリノベーションしたユニークで美しい建築。スイスで伺ったオフィスや工場はデザイン性が高いだけでなく、クリーンエネルギーを使い日中は自然光で過ごし極力電力を使わず、随所にリデュースやリユースが徹底されて、働く環境をとても大切にしている点が印象的だった。自然光が入るのに日中から蛍光灯を照らしがちな日本の習慣はもう古いものに感じた。
政府観光局の会議室
観光局の最上階の会議室にはスイスの山の名前が付けられていて、数日前に歩いたアルプスの山々を思い出した。都市にいても自然のことを思えるというのは、とても幸せなことだと思う。
ビクトリノックス本店
今回のハードな旅で荷物をしっかり守り運んでくれたトランクケースのビクトリノックス本店にも。広い店内には初めて見るプロダクトやマルチツールで作られた巨大なオブジェがあった。

Information

チューリヒ:https://myswiss.jp/zurich/
薬局(Berg-Apotheke by Medbase):https://www.medbase-apotheken.ch/

ハウス・ヒルトル:https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/food-and-wine/restaurants-1/haus-hiltl/
IWCシャフハウゼン:https://www.iwc.com/jp/ja/home.html
ビクトリノックス:https://www.victorinox.com/jp/ja/
スイス政府観光局:https://myswiss.jp/

profile

井浦 新

いうら・あらた/1974年9月15日 東京都⽣まれ。俳優として映画を中⼼にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。アパレルブランド〈ELNEST CREATIVE ACTIVITY〉ディレクター。サステイナブル・コスメブランド〈Kruhi〉のファウンダー。映画館を応援する「MINI THEATER PARK」の活動もしている。公開中の作品に映画『福田村事件』『アンダーカレント』『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』、CX『月とケーキ』がある。待機作に2024年大河ドラマ『光る君へ』。

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