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しんどい夜もさみしい夜もひとりの日も、本と一緒。さとゆみの「年末年始お籠り読書」3選

  • 2023.12.29

不定期でお送りするコラム「本という贅沢」。今回は、この年末年始に読みたい3冊を取り上げます。共通するテーマは「孤独と向き合う」。書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

今、この人は何を考えているのだろうと、気になる書き手の人がいる。同時代に生きる作家の文章を追う醍醐味だ。その「気になる書き手」の人たちが、今年出した本がみな、孤独と向き合う本だった。

年末年始は、孤独になりたい。大勢で過ごしても、一人で過ごしても、自分と対話する時間をとりたい。自分だけの繭の中にくるまって、いつもとは違う時間を過ごしたい。
新しい自分に脱皮させてくれる本を3冊紹介したい。

まずはスマホを手離す。そして自分の声を聞く

Twitter(X)のフォロワー数が80万人を超える、シャープ公式アカウントのシャープさん。そのシャープさんが、「スマホを置いて読んでほしい」と私たちに届けてくれたのが、『スマホ片手に、しんどい夜に。』だ。投稿サイトに投稿された漫画を題材に、シャープさんがエッセイを添えるという構成。

どの漫画の話も知らない他人の話である。でも、読んでいると全部、自分の話に感じる。シャープさんのエッセイに導かれ、自分との対話が始まる。

『シャープさんのSNS漫画時評 スマホ片手に、しんどい夜に。』(山本隆博/講談社)

この本は、紙の本で読みたい。
スマホの文章を読むときは、自分に矢印を向ける時間がない。読んでいるようで消費しているだけなのだと気づく。
でも、書籍は、違う。この本を読めば、わかる。読みながら己はどう思うのか、自分に問いを立てている。問いを立てると、それを受け止めた自分の心のありかがわかる。ああ、ここにいたか、わたしの心。今まで、どこにいたんだよ。

ペンという武器を持つ。闘っても闘わなくても良い自由を得る

シャープさんの本で心の位置を見つけたら、古賀さんの本で、自分の心を解放する。古賀さんのこの本を一言で言うなら、「書くことが人を自由にする」である。
さみしさには2種類あると、古賀さんは言う。周りに人がいないさみしさと、周りに人がいるから生まれるさみしさと。
周囲を取り囲まれ、だからこそ不自由で孤独な自分が自由になるために、人は、ペンを持つ。

『さみしい夜にはペンを持て』(古賀史健/ポプラ社)

もしこの本を買う人がいて、ページを開いたら驚くかもしれない。え、こんな本だとは思っていなかったよと思うかもしれない。自分向けの本ではないと思うかもしれない。
でも、断言するけれど、この本は絶対に「あなた向け」の本です。その理由は、読めばわかる。読んだら「自分のための本だった」とわかる。

『嫌われる勇気』を書いた著者の、もうひとつの名作爆誕、という感じ。
この本も圧倒的に紙で読みたい本。

自分への信頼を、もう一度手離す。世界は広い

そして、若松さんである。
シャープさんと古賀さんでやわらかくなった心を、信頼できるようになった自分を、ここで再びかなしみに浸す。若松さんの書くかなしみは、「愛しみ(かなしみ)」である。心がやわらかくなっていたら、このかなしみが、とくとくとしみてくる。愛おしいかなしみだ。

『ひとりだと感じたときあなたは探していた言葉に出会う』(若松英輔/亜紀書房)

世界は、広い。読書をすると、世界は広いと気づくことが多いけれど、これは言い換えれば、自分が狭いと気づくことだ。本を読むことは、自分を疑う行為だ。自分に見えていない世界があると知ることは、今の自分を壊す行為でもある。それはときどき厳しさを含むけれど、だいたいはあたたかく幸せだと思う。

文字の少ない、ページ数も少ない本です。でも、決して、すらすらとは読めない。すらすらと読めない文章があるということは、自分がまだその世界の広さに気づけていない証拠だ。これが、どれだけ幸せなことか。読めるようになったとき、急に変化する世界の鮮やかさ!
というわけで、この本も、紙で読みたい。行間の広さ以上に、行間の広さを知る本だ。

朝日新聞telling,(テリング)

みなさま、本とともに、良い2023年の締めくくりを。
そして、本とともに、良い2024年の幕開けを。

●佐藤友美さんの近刊『ママはキミと一緒にオトナになる』発売中!

■佐藤友美のプロフィール
テレビ制作会社勤務ののち、2001年ライターに転身。雑誌、ムック制作、ウェブメディアの編集長を経て、ライター・コラムニストとして活躍。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。

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