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外向的なフリをすれば幸せになれるワケ

  • 2023.12.28

玄関のドアをバンと閉めたら、あとは至福とも言える1人の時間。着信音はずっと前からミュートだし、交流アプリの『ミートアップ』は気持ち悪いから使わない。

つまり私は内向的。昔から“自分の殻に閉じこもるタイプ”だったけれど、コロナ禍でますますその傾向が強くなった。

外出制限が一時的に緩和されるのはありがたいことだし、私だってパーティーに飢えている隣人と同じくらい喜んでいるけれど、ロックダウンという非日常を押し付けられているうちに私の習慣は完全に変わってしまった。

コロナ禍前は、夜9時にベッドに入って本を読むということもなかった。この新しい習慣には、以前のようにディナーやパブに出掛けても味わえないであろう楽しさがある。

私の夫は朝6時45分に家を出て12時間後に帰ってくるので、リモートワークが始まると1人の時間が一気に増えた。パンデミックが収束したら“いつも誰かと一緒”の自分に戻れるのか分からないし、別にそれを知りたいとも思わない。

そうこうしているうちに、私の中で内向性は“都合の良いアイデンティティ”から“ライフスタイル”へと進化していた。そして私は、その生活の中にある静寂を心ゆくまで楽しんでいた。少なくとも、あの記事を読むまでは。

この記事ではイギリス版ウィメンズヘルスのディレクターが外交的になったことで起こった変化、外交的な習慣の作り方について紹介する。

内向的であることのメリットとデメリット

内向的であることが必ずしも幸せではないことを知ったのは、世界的な評論誌『The Atlantic』の記事を読んでいたとき。

その記事の中で社会科学者のアーサー・ブルックス教授は、(彼が愛情を込めてネコさんと呼ぶ)内向型の人が外向型の人(ワンちゃん)から学べることと、逆にワンちゃんがネコさんから学べることを説いている。

内向型の人は思いやりのあるリーダーになる素質を持っているし、口も堅いけれど、社交的な場において“嫌ならけっこう”のアプローチを取ることが多く、これが人をガッカリさせる(社会的な交流は、その人の健康状態を決める上で喫煙や肥満と同じくらい重要な要素であることが証明されている)。

これまでの研究結果を見る限り、外向型の人は幸福感が高く、メンタルヘルスが良好なだけでなく、いま話題の免疫力も高い傾向にある。

外向性と心身の健康のつながりは非常に強く、内向型の人たちは外向型の人たちよりもロックダウンの心理的ダメージを受けやすかったとさえ言われている。

では、自分のアイデンティティを損なうことなく、健康と幸福のために外向的な習慣を築くことはできるのだろうか?

ビッグファイブの性格特性

人間は内向型、外向型、その中間の両向型のいずれかに分類されるという理論は、比較的最近のものかと思いきや、何百年も前から存在していた。

きっかけとなったのは、スイス人の精神学者カール・ユングが1921年に発表した『Psychological Types』という論文。その中でユングは、エネルギーという概念を利用して、内向型と外向型という2つのタイプの特性を説明した。

外向型の人はWiFiのルーターのようにエネルギーを外に向けて飛ばし、その過程でエネルギーを補給する。一方で内向型の人はエネルギーを内に向け、1人の時間を使ってエネルギーを補給する。

この理論は性格特性を理解する上で欠かせないものとなり、今日の社会で異なる性格特性を理解するために広く用いられているOCEANモデルへと進化した。

外向性は、開放性、誠実性、協調性、神経症的傾向と並んで“ビッグファイブ”の性格特性を構成する要素の1つ。

私は興味本位からオンラインの性格診断で自分の外向性レベルをチェックしてみた。結果は9点。10点中ではなく100点中の9点である。

せめて2桁にしたいと思った私は、パーソナリティ心理学者で米イリノイ大学社会行動科学センター長のブレント・ロバーツ博士に連絡をした。

「その人の性格特性が一生を通じて変わらないというのは非常に一般的な考え方ですが、それが間違っている理由を説明することが私の仕事です」

ロバーツ博士によると、私たちが“劇的な変化”を経てまったくの別人になることは極めて稀。でも、外向性を含む私たちの性格特性は、周囲の環境や状況に応じて少しずつ変化するもの。

例として、外向性を構成する要素の1つである“自己主張”は、出世の階段を上っているうちに強くなる。また別の要素である“活動レベル”は、年を取って外出が減り、ソファに座ってばかりになれば低下する。

逆に、3つ目の要素である“社交性”(パーティーを開いては盛り上げ役になる傾向)は生涯を通じて安定している。

私のようにロックダウンでますます内向的になることは「かなりありえる話です。これまでの研究で、人の性格特性はほんの数週間で変わる可能性もあることが分かっています」とロバーツ博士。

「よって、2年に及ぶコロナ禍で内向的な傾向が強くなったという人がいてもおかしくありません」

アイデンティティの危機

そう言われると、自分の性格特性が冬の北風に吹かれるだけで変わるくらいはかないものに思えてくる。でも、私たちの自我は意外と強い。

「ここ数年の研究で私たちは、性格特性を意図的に変えるための介入方法を探ってきました」とロバーツ博士。

「その結果、人の性格特性は他者の手で変えられるだけでなく、やる気さえあれば自分でも変えられることが分かりました」

私に“やる気”はあるのだろうか。メンタルヘルスの名のもとに自分のパーソナリティを分析するのは今回が初めてのことじゃないし、自分の完璧主義を崩すための試みを記事にしたこともあるけれど、自分の内向的な性格に“対処する”というのは、なんかこう、違和感がある。

是非はさておき、内向性は感覚的に私のアイデンティティの中心にある。「どの特性は変わりやすく、どの特性は変わりにくいと断定することはできませんが、自分のアイデンティティの中心にある特性は変わりにくいと思います」とロバーツ博士。

もちろん、これには「変わりたい」という本人の意志も必要。ロバーツ博士によると、自分の性格特性を変えるのは新しい言語を学ぶようなもの。「語学を学ぶときと同じような必要性がないと、性格特性は変えられません」

性格特性は変えられることを証明した研究結果

私が考え込んでいると、ロバーツ博士は2021年の研究について語り出した。この研究でロバーツ博士のチームは、自ら選んだ性格特性を変えたいという1523名の男性を支援したそう。

専用アプリによるコーチングに加えて男性たちは、難易度が徐々に上がるタスクのリストを与えられ、1週間で最低でも1つずつ、3カ月で全てのタスクを完了するよう指示された。

情緒的安定性、誠実性、外向性に取り組むことを選んだ人は少しずつ良い方向に変わっていき、その変化は家族や友達によって裏付けられた。

外向性だけに焦点を当てた米カリフォルニア大学の2019年の研究結果は一段と興味深い。

この研究では131名の学生が最初の週は外向的な行動を取り、次の週は内向的な行動を取るように指示された。

「外向的・内向的という言葉は含みがあるので使いませんでした」と説明するのは、この研究論文の筆頭著者であるソニア・リュボミルスキー教授。「その代わり、最初の週は“おしゃべり”かつ“突発的”で“自己主張が強い”人になってもらい、次の週は“計画的”で“無口”かつ“控えめ”な人になってもらいました」

ロバーツ博士の研究と同様、このような手がかりを与えるのは変化を促す上で有効だった。でも、さらに興味深いのは、そうした変化が学生のウェルビーイングに与えた影響。

具体的に言うと、学生たちが外向的な行動を取っている間はポジティブな感情が高まり、内向的な取っている間はポジティブな感情が薄まったのだ。

イベントに参加してみた

そこで私は、前述のメソッドを用いて非科学的な研究に乗り出した。

ロバーツ博士のチームが作った外向的なタスクには、稀とはいえ私が普段からしていることが多かったので一安心。

例えば、難易度1~3のタスクには「友達をお茶に誘う」や「フェイスブックのステータスを更新する」などがあった。

私と同じく内向的な親友をカフェに連れ出したところ、そのままランチを一緒に食べて散歩するという流れになった。この4時間は本当に楽しくて、疲れるどころか元気が湧いた。どうしていままで定期的に会わなかったのか、自分でも不思議でならない。

SNSを更新するタスクでは、フェイスブックではなくインスタグラムにストーリーを投稿した。

自分のトリガフレーズに遭遇したのはタスクの難易度が6くらいになったとき。「自分のスマホに交流アプリの『ミートアップ』をダウンロードし、興味のあるイベントに参加する」。これだけは絶対できない。

でも、人生には妥協が必要ということで、火曜日の夜に開かれるノンアルコールワインの試飲会に申し込み、メンタルサポート役として(放っておいても外向的な)妹に同行を依頼した。

妹が20分も遅れてきたので、私は“ランダムな会話”を余儀なくされた。でも、思っていたよりつらくない。

どれも平凡なタスクに思えるかもしれないけれど、これらのタスクはショックを与えることではなく社会交流の場を増やすことで変化を促す設計になっている。

外向的なフリをしてみた

2週目はリュボミルスキー教授の実験に我流でトライ。まずは“突発的”、“おしゃべり”、“自己主張が強い”という3つのキーワードをスマホの壁紙にして、それぞれのキーワードに合致する行動を考えた。

“自己主張が強い”ということは、自分が忙しいときに頼まれた仕事にも「NO」と言わなければならない。

突発性は、土曜日に海へ行く電車のチケットを予約することでクリアした。そして、毎晩違う友達に電話の予約を入れて、歩数と同じくらい真剣に自分の発言回数を記録した。

おかげさまで単調な1週間ではなかったけれど、“演じている感”があるのは否めない。自分ではない別の誰かになろうとすることで、本当の自分に危害を加えているような気がした。

こういう批判はリュボミルスキー教授もよく聞くらしい。「本来の自分にない性格特性を取り入れることと、本来の自分らしくいることの間でバランスを取る必要があるのは確かですが、ずっとパーティーの盛り上げ役でいる必要はありません」

リュボミルスキー教授によると、どのメソッドを使うにせよ、日常生活の中で社会交流の機会を増やすという最終的なゴールは同じ。社会交流の予定を立てたら、健康のためにしている他の活動(ワークアウトなど)にコミットするのと同じ要領で、その予定にもコミットする。

自分の望んでいることが自分にとってベストであるとは限らない。仮にそうなら、嫌なことがあった日に大きなグラスでワインを飲むなんてことはしない。

ソファでくつろぎたいがために人の誘いを断るのは、お酒に癒やしを求めることほど悪いようには思えないかもしれないけれど、それが毎回になるのはマズい。

私はこれまで「内向的でいるというのは、ありのままの自分でいるということだ」と自分に言い聞かせてきたけれど、本当にそうだろうか。

正直なところ、私の中で内向的な性格は、無いと不安な“安心毛布”になっていた。そして、この安心毛布はコロナ禍と相まって私の自信を少しずつ奪っていった。

今回の実験で用いたタスクは、私に外向的な人を演じる機会をくれたというよりも、私を以前の自分に戻してくれたと言うべきだろう。以前の私は内向的でありながら、会議で注目を浴びても慌てず、みんながスピンクラスを予約する感覚で日帰り旅行の予定を立てて、何よりも楽しいことを優先する人間だった。

変化と解放感

もはや、どこからどこまでが状況のせいで、どこからどこまでが自分のせいか分からないけれど、いまの私は自分の社会的な習性を以前より自覚している。

最近は週末に仕事することで、月曜日から水曜日に自分の時間を作るようにしている。地元の友達と気まぐれで参加していた土曜日の朝のヨガ教室も、いまでは絶対譲れないアクティビティになっている。

死ぬまで同じ性格じゃなくていいというのは実に解放的な考え方。この考え方のもとでは、自分が好きな特性をキープして、自分のためにならなくなった特性を手放せばいいから楽だ。

私は絶対外向的な人間にならないし、そうなりたいとも思わない。でも、自分の殻の外の世界を探検する気になったのは本当に久々だった。

外向的な習慣の作り方

バディを探す

自分のパーソナリティを変えなくても外向型の恩恵は受けられる。「自分にない性格特性を持った人の中に身を置くといいですよ」とロバーツ博士。「私自身も、細部に気を配る人たちと接することで誠実性が低いという問題を解決しました」

交流の予定を立てる

「体をフィットにしたければ、ジムに通う必要がありますよね」リュボミルスキー教授。「社会的な行動にも同じことが言えます」。ワークアウトや食事の予定を立てるのと同じ要領で、1週間ずつ社会交流の予定を立てよう。大事なのは、それが習慣になるまで続けること。

焦らない

リュボミルスキー教授によると、急な変化は長続きしないもの。「習慣に関する論文からも分かる通り、新しいことを始めると最初は違和感がありますが、だんだんそれが新しい自分の一部になります。時間をかけて少しずつ変えていけば、自分じゃないような感覚も弱まるでしょう」

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Nikkin Osman Translation: Ai Igamoto

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