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これを読めば新年の仕事がガラっと変わる…月100冊読む東大出身起業家の"不真面目思考"が身に付く漫画3選

  • 2023.12.27

ビジネスで大成功するために必要なことは何か。起業家の保手濱彰人さんは「真面目にいいものをつくれば売れると考える人は多く、自分もそうだった。しかしそれでは大きな成功が望めない可能性がある。いかに不真面目で変化球の思考を自分の中に取り入れられるかが大成功のカギだ」という――。

ヒットを狙うならコアファン層を視界に入れない

僕は大学在学中に初めて起業して以来、これまで複数のベンチャー企業を立ち上げてきました。もちろん初めからうまくいったわけではなく、20代のころは共同創業者が全員離脱したり、3億円もの負債を抱えたりとひどい失敗もしました。

キャラアート会長 保手濱彰人さん
キャラアート会長 保手濱彰人さん

事業が成功しだしたのは30代になってからです。現在の会社は『鬼滅の刃』や『東京卍リベンジャーズ』といった人気漫画の版権ビジネスで急成長し、なかでもお土産×キャラクターという切り口で売り出した「ご当地鬼滅の刃」シリーズは年間700万個を売り上げるヒット商品になりました。

こうした経験から、僕はヒットを狙うならコアなファン層を視界に入れないことが大事だと思うようになりました。コアなファンというのは漫画に限らずどんな商品にもいますが、コアなだけあって市場規模が小さいですし、商品を刷新したり新商品を出したりした際にクレーマーになりやすい存在でもあります。

既存顧客のヒアリングをしてはいけない

ですから、これから出す商品を大ヒットさせて大きな収益を上げようと思うのなら、コア層ではなくマス層を狙う必要があります。日本では、新商品を出す前に既存顧客にヒアリングを行う企業が多いですが、それではコア層の意見しか聞くことができません。

長年正しいとされてきたマーケティング手法ではあるものの、そうした正論や王道はすでに誰もが実践しています。同じことをしていたら他社に差をつけることはできず、新しいものやヒット商品も生み出せないでしょう。

世界で初めて車の大量生産を実現したヘンリー・フォードも、「もし顧客に彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬がほしい』と答えていただろう」と言っています。コア層は新しいコンセプトが想像できるわけではないのです

正攻法ではなく“変化球の方法”を

マス層を取り込んで大成功した例に『東京卍リベンジャーズ』、通称『東リベ』があります。この作品の特徴は、漫画やアニメのコアなファンにとっては既視感のある「ヤンキー漫画」という題材に、「タイムスリップ」という要素を組み合わせたこと。これによって、コアなファン層はもちろん普段は漫画やアニメにあまり触れないライト層にとっても面白い大衆向けの娯楽作品となり、爆発的な人気を得ました。

キャラアート会長 保手濱彰人さん

このように、新たなヒットを狙うなら「コア顧客を見るべし」という思い込みは捨てるべきです。ビジネスはマス層を相手にしたほうが大きく成功しやすい。マス層を相手にできるように、既存のものを既存の視点をずらしたうえで組み合わせてライトユーザー層に届けていくことが成功のポイントだと思っています。

まだ世にない新しいコンセプトを思いついたら、顧客の意見はもちろん上司の意見も聞かずに、「とりあえずつくってしまえ」ぐらいの気持ちで取り組んでほしいですね。ちょっとした成功や評価を狙うなら正攻法でもいいでしょうが、大成功を狙うなら正論や王道から外れた方法をとるべきです。

こうしたやり方はズルいとか、不誠実だとか思う人もいるでしょう。でも、そもそもレバレッジ効果を得る方法というのは耳障りの悪いものであることが多い。ビジネスでは正論や王道ではない方法はあまり公にはされませんが、商品力において他と差をつけるうえでは、あえてそれを求め実行する姿勢も必要だと思います。

借金3億円のどん底から見出した成功のカギ

とはいえ僕も、20代のころはきちんとビジネスを学んでコツコツやるのが正しいという思い込みがあり、正論や王道をもとに事業に取り組んでいました。結果は冒頭の通りで、20代の終わりには3億円もの借金を抱えてまさに絶望のどん底にいました。

この10年間の失敗の歴史を経て、30歳のときにようやく「成功するにはこれまでの思い込みから脱却しなければ」と思えるようになりました。そこで、自分はあまり仕事に向いていないし好きでもない、だから仕事はその道のプロにお願いして自分はビジョンを立てる人になろうと思い立ったのです。すると周りに自然と仕事ができる人が増え、それに連れて会社も勝手に大きくなっていきました。

自社より10倍も大きい会社を買った理由

自分の力ではなく他人の力を借りて事業を大きくしていこう――。30歳でこう視点を切り替えたことが、僕にとって大きな転機になりました。自力で事業を伸ばすべきだという思い込みを捨てたことで、その後M&Aも実現させることができました。

キャラアート会長 保手濱彰人さん

それまで、M&Aは大企業や上場企業だけができるものだと思い込んでいたのですが、考えてみれば小さな会社だからって別の会社を買っちゃいけない理由はないですよね。それで、もし自社より10倍ぐらい規模の大きい会社を買わせていただけたら一気に業績を伸ばせるな、そのほうがいいじゃんと思ったわけです。

結果的にあるオーナーの方から会社を譲っていただくことができ、それが会社が急成長するきっかけのひとつになりました。これも、M&Aは大企業がするものだという固定観念を取っ払ったからこそ実現できたと考えています。

商売の基本は人のふんどしを借りること

思い起こせば、他力で事業を大きくするという発想は、小学生のころにラーメン屋で読んだ漫画『SHOGUN』の影響かもしれません。金も力もない主人公が商才を武器にビジネス界のトップを目指す物語で、その中に他店の人気に便乗する形で自分の店の売り上げを伸ばしたエピソードがありました。たった1回読んだだけなのですが、この話はなぜかずっと印象に残っています。

日本では他人の力で成功した人を、ラクして儲けるなんてと非難する傾向が強いですが、僕は大いにありだと思っています。実は父もそうで、以前「商売の基本は人のふんどしを借りることだ」というアドバイスをくれたことがあります。

父も小さな会社を経営していますから、実際の経験から出た言葉だろうと思います。経営に関して教えを受けたことはほとんどないのですが、数少ないアドバイスのひとつがそれだったので、不思議なつながりを感じました。そんなこともあって、つい最近『SHOGUN』を読み返したくなり、全巻購入したところです。

ビジネスを学んだ3作品

僕は子どものころから漫画オタクで、受験でもビジネスでも大事なことはほぼすべて漫画から学んできました。今も毎月100冊は目を通しています。その中から「これでビジネスを学んだ」といえる漫画を3冊挙げたいと思います。

【図表】ビジネスに効く漫画3作品

1冊目は前述の『SHOGUN』、2冊目は『大東京トイボックス』です。

ゲーム会社を舞台にして、マスユーザーに受ける新たなコンセプトを作るには「魂がふるえること」が重要であることを教えてくれます。

また、ここには挙げていませんが『新吼えろペン(著:島本和彦)』という作品があります。前作となる『燃えよペン』『吼えろペン』の続編であり、主人公は漫画家です。そのライバルである人気漫画家で、作品の中で伏線を張りまくり、風呂敷を広げまくってそれを回収しないというキャラクターが出てきます。読者からすれば、最後には伏線を回収して責任をとってほしいものですが、この主人公は「最後まで楽しませたんだからそれでいい。風呂敷を畳むことは漫画家の義務じゃないじゃん」という考え方なんです。

僕はこれを読んで、なるほど確かに、楽しませることが目的であり整合性を取ることが漫画の目的じゃないな、と理解しました。したがってビジネスでも、正攻法を取ること自体が目的ではないから、いかに変化球の思考を身につけるかが大事だと思うようになりました。そうして初めて普通の人が考えつかないようなアイデアを実践できるんじゃないかと。変化球の思考は、常識や固定観念を取っ払ううえでとても大事だと思っています。

大衆にウケるラーメンをつくる、それが経営ってもの

3冊目は『ラーメン発見伝』です。ラーメン店を経営する主人公は、真面目においしいものをつくっていれば流行るという考え方。でも、主人公の師匠兼ライバル、この作品のファンの間で“ラーメンハゲ”と呼ばれている人物は、彼の考え方を真っ向から否定します。

特に印象に残っているのは、ラーメンハゲが大衆について語った「ヤツらはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ!」というセリフです。流行るのは店主が真面目につくったおいしい料理じゃなくて、見た目やメニュー名にインパクトがあってマスメディアで騒がれたりする料理だと。だから自分は、9割はつくりたくもない大衆にウケるラーメンをつくって残り1割で味を追求しているんだと。そして「それが経営ってもんだろ」と言うのです。

漫画は常識や固定観念を打ち破ってくれる

例えば、日本の製品は技術も性能も優れているのに、ブランディングがうまいだけの海外製品に負けてしまうことがありますよね。

保手濱彰人『武器としての漫画思考』(PHP研究所)
保手濱彰人『武器としての漫画思考』(PHP研究所)

職人気質でもって本当にいいものをつくることももちろん大事ですが、それだけでは経営は成功しない。ビジネスを続けていくうえでとても重要な考え方を、『ラーメン発見伝』は非常にわかりやすく教えてくれました。

僕自身も10年間の失敗経験から同じことを学びました。今、あのころうまくいかなかったのは、いいものを真面目につくるべしという正論や、自力でコツコツ努力すべきという固定観念にとらわれていたからだと思っています。

仕事で成功するには、自分が無意識に持っている常識や固定観念からいかに脱却するかが大事です。僕の場合、そこを打ち破ってくれたのが漫画でした。漫画はビジネスを学ぶうえで最高の教科書になるということを、多くの人に知ってもらえたらうれしいです。

構成=辻村洋子

保手濱 彰人(ほてはま・あきひと)
キャラアート会長
1984年生まれ。駒場東邦高校を卒業後、東京大学理科I類に現役合格。在学中に経済産業省後援のビジネスコンテストで優勝し起業(東大中退)。その後、複数の事業立ち上げを経て2014年にダブルエル(現キャラアート)を創業。日本のポップカルチャー・コンテンツの国際展開に注力している。著書は『武器としての漫画思考』(PHP研究所)。

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