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男の子にも生理の話を。お互いの幸せを願う温かい「性教育」のすすめ【「タベコト」連載中・日登美さんインタビュー・前編】

  • 2023.12.27

性教育とはもっと温かい心の教育

――日登美さんの考える「性教育」とはどういうものですか?

「性教育」と聞くと、思春期の子に、生理や予期せぬ妊娠をしないための知識を教えるというイメージが強いと思うのですが、もとにあるのはもうちょっと違うものじゃないのかなと思うんです。私の暮らすベルリンでは、身体の問題よりもまずジェンダーや人権を考えることが「性教育」と考えられています。もちろん、年齢に応じて身体のしくみや機能の話はしますが、その前に「性の多様性」を暮らしの中で感じることを大切にしています。

たとえば私の息子が通っているドイツの学校には、クラスに3人、両親ともお母さんを持つ子がいます。「私がお母さんです」「私もお母さんなんです」と言われて、日本人だったら驚くと思いますが、現地の人はそれを何とも思ってないんですね。そういう家庭はたくさんあるし、思春期の男女の学校の中での関わり方も、日本とはずいぶん印象が違います。ノーブラにTシャツでぶらぶらしていても、周りはじろじろ見ないし、それでも痴漢されたりしない。性教育って身体のしくみだけの問題じゃないんだなと感じてきました。人権やジェンダーの意識がまずあって、身体の話はその次のステップなんです。

――ジェンダーの性教育は、日本ではまだあまりイメージできないですね。日登美さんは、性教育としてどんなことをされているのですか?

私は親向けに「命をはぐくむ特別講座」というオンラインの講座をやっていて、年に1回ぐらい東海大学の小貫大輔先生(ジェンダーとセクシュアリティが専門) と連続講座をやっています。私たちのやっている性教育では、「性って素晴らしいんだよ」というお話をするんです。人と人は違うから素晴らしいし、愛し合うって素晴らしいことだし、触れ合うって素晴らしいこととお話します。性教育というとみなさんマイナスのイメージで、妊娠や性犯罪は危険で怖い、気をつけなきゃっていう「人間は信頼できない」というところから始まることが多いので、「目からウロコ」って言われるんですよ。講座には世界中のお母さんが参加してくれて、世界はどうなっていて、何が大事だろうという話をしています。

――日本では、性に関することは話すのも恥ずかしい、隠したいものという印象が強いですね。逆に、触れ合うことの素晴らしさから始まるのですね。

性教育本を読んだり、身体のことを教えたり、将来のリスクを教えたりするより、まずは幼児期に、できるだけ温かい関係、つながり、触れ合いを体験することが、性教育のベースなんじゃないかと考えています。自分が大事にされたという体験があってはじめて、人を大事にできるんです。一緒にいて楽しいね、おいしいね、肌の触れ合いって気持ちいいね、と感じることが性教育。嬉しいと感じると、身体からオキシトシンという幸せホルモンが出ると言われています。そういう体験が増えると、脳に幸せを感じる受容体が増えて、ちょっとしたことで幸福を感じられる子に育つのだそうです。

自分が幸せであってはじめて、相手の幸せのことが考えられます。お互いのことを考え、お互いのことを尊重する関係がはぐくめれば、性犯罪も起こらないはずなんです。外国の学校では、挨拶の中で肩を組んだり、抱き合ったりするシーンは多いですし、露出の高い服を着る子もいます。でもそれに対して周りが騒いだりしない。隠し撮りや痴漢など、隠れてこそこそやるのは、自分の欲を満たすことに精いっぱいで、相手の心を思いやれないからでしょう? このお互いのことが考えられる心のベースがない限り、急に生理の話やセックスの話をして性教育だっていうのは、ちょっと違うかなって。どれだけ情報が増えても、子どもたちに根付かないように思います。

生理の話を男の子にもすることで、男女の理解が深まる

――幼児期からの性教育というと、どんなことをしているのですか?

幼児でも、一緒にお風呂に入っているとき、純粋な気持ちで「おまたにはどうして毛が生えているの?」「赤ちゃんはどこからきたの?」と聞いてくることがあります。親が性の話なんて口にしちゃいけないと思っていると、慌てたり、適当にごまかしてしまうでしょう。そうすると、子どもの方も聞いちゃいけないことと感じてしまうんです。親に性の話はできないんだと壁を作ってしまうことになります。聞かれたら素直に答えたらいいんですよ。「大事なところだから毛が生えているんだよ」と。恥ずかしげもなく、サラッと説明してあげることが大事です。

学童期になると、もっと知識がほしくなりますから、興味を持ったときに話すのが一番だと思います。学校で「女子だけ集まって」なんて言われて生理の話をされましたよね。でも、あんなふうに男子に隠れてコソコソ話さなくていいと思うんです。いま私は、女の子だけじゃなくて男の子にも生理の話を教えます。生理になると、お腹が痛くなったり、頭が痛くなったりすることがあるよって。「もし将来彼女になった子が生理痛になっても優しくしてあげてね」と話すことで、男女お互いの理解が深まるんですよね。

思春期になってから性教育をしようと思っていると、遅いんですよ。親の話なんて聞きたがらないし、その代わりにインターネットとか変な本から情報を得ていってしまう。私だって誰も教えてくれなかったから、ずっと赤ちゃんがどこから出てくるかなんて知らなかったです。幼児期から「性について聞いてもいい」という親子関係があると、思春期に好きな子ができて、何かあった時に親に相談できるようになります。それまでに、自分の大切さ、相手の気持ちを考えられるようになれば、お互いが困ったり、傷ついたりする行動を選ばないように思います。「あとはあなたたちに任せる」と言えることが、本当の性教育の流れかなって思うんですよね。

恥ずかしがらずに、話をするチャンスをつかんで

――日本人はどうしても、性の話を子どもに話すことに抵抗がある人が多いように思います。

性教育のことを考えるとき重要なことは、親が性に対するタブー感を持たないことだと思っています。どうしても恥じらってしまうブロックをはずして、ときどきやってくるチャンスを逃さず、素直に子どもたちに伝えていってあげることができたらいいですよね。

――性教育をするチャンスがあるんですね?

「赤ちゃんってどこからきたの?」なんて聞かれたら、性教育のチャンスです! 「そんなことどうでもいいの」と言いたくなるし、私も昔は「お空からきたのよ」なんて言っていたこともあるんです。でも子どもの方が「おまたから出たんでしょ」なんて、するどくポロッということもあるじゃないですか。そういうとき、「そうよ、ここには赤ちゃんが通ってくる道があって……」と素直に説明できるようになったのは、5、6番目に生まれた子からですね。何か性について聞かれたとき、タイミングを逃さず教えていくことが大事だと思っています。年齢に応じたテーマを、繰り返し話していくのが第一歩かな。暮らしの中で自然と性教育できるのが理想なので、答えられる準備はしておくといいかなと思います。「ママ、これって……」と言われたときに、ほらきたチャンス!と思って、話してあげるのがベストですね。

――チャンスがなかなかない場合もありますが、ほかにもきっかけはありましたか?

最近は、性教育の絵本も読むようにもなりました。いままでは、絵本でわざわざ子どもに教えることでもないと思っていたんですよ。でも読んでみたら、子どもたちがほっとする顔を見せたんです。やなせたかしさんが絵を描かれている『なぜなの ママ?』(作:北沢杏子・復刊ドットコム)という本や、あかちゃんがくるお話、子どもがどうやってできるかのお話など、何冊か買ってみて置いておいたんです。そうしたら手に取って「ママこれ、おっぱい出てるじゃん」なんて言ってきたんです。でもそれをきっかけに「私も大きくなったらおっぱいできるかな」「できるよ。だって赤ちゃんおっぱい飲むしね」と会話が生まれました。子どもの側は、素直に自分の身体のことを聞きたい、知りたいを満たしているだけなんです。きちんと答えてもらえれば、逆に変な好奇心がわかないんじゃないかとも思ってます。

後編では……学童期・思春期の複雑なお年頃の子どもに、性のことを話すコツをうかがいました!

インタビュー/日下淳子 撮影/成田由香利

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