1. トップ
  2. エンタメ
  3. いちばんすきな人は1人じゃなくていい。「人それぞれ」を尊重する姿勢を貫いた 『いちばんすきな花』最終話

いちばんすきな人は1人じゃなくていい。「人それぞれ」を尊重する姿勢を貫いた 『いちばんすきな花』最終話

  • 2023.12.31

ドラマ『いちばんすきな花』(フジ系)は、『silent』脚本の生方美久とプロデューサーの村瀬健がふたたびタッグを組む作品。多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠が主演を務めるクアトロスタイルで描かれる。テーマは「男女の間に友情は成立するのか?」。みんなそれぞれ“いちばんすきな花”があって、“いちばんすきな人”がいたとしても、1つに決める必要はない。「人それぞれ」を尊重する姿勢について描いたドラマだった。

優先順位のいちばん上は「自分」

人は、1人では生きていけない。支えてくれる人がいてほしい。でも、だからといって、他者の目を気にしすぎるあまりおもねる必要はない。優先順位のいちばん上に「他者」を置いてしまうと、一気に自分の人生が煙みたいに流れていってしまうから。

おのでら塾に通う望月希子(白鳥玉季)が、同じ塾に通う穂積朔也(黒川想矢)に対し「教室に行くの、しんどい。だから自分のこといちばんに考えることにした」と伝える。

みんなと同じように学校に行くのは、希子にとってはつらいこと。もしかしたら両親、教師に対して、どこか申し訳なさを抱えながら保健室登校をしていたのかもしれない。“ちゃんと”学校に通えるようになって、“普通”にならなきゃ、と焦る気持ちがあったのかもしれない。

それでも、彼女は生きるうえで、自分を最優先にすることに決めた。それは自分勝手ではなく、わがままでもない。この場合は、朔也という他者に対しても「お互いのやりたいことをやろう」というような、それぞれの価値観を尊重する姿勢に繋がっていく。

「だから穂積のすきにしていいよ」「どうしても保健室で給食食べたいなら、いいよ」と希子は言い、おそらく信頼の証として朔也に缶のココアをあげた。

彼らが2人で時間を過ごしているのを見て、きっとこの先、あれこれうわさをする人間があらわれるかもしれない。潮ゆくえ(多部)と赤田鼓太郎(仲野太賀)が受けてきた誤解のように。それでも希子と朔也は、優先順位を「自分」に置きながら、しゃくし定規な考え方に惑わされずに生きていくだろう。

椿家は「子どものころの自分に帰れる場所」

春木椿(松下)の引っ越しが迫る。椿は新居に移る準備をしながら、ゆくえ、深雪夜々(今田)、佐藤紅葉(神尾)と暮らすことになった。椿の家から「いってきます」とそれぞれの職場へ出勤し、「ただいま」と帰ってくる4人。あたたかな部室から巣立つ心構えをしなくてはならない、わずかな時間だった。

引っ越し当日、4人はそれぞれ「おじゃましました」と言って去っていく。迎える側だった椿は最後に、4人で過ごした部屋に向けて深い一礼をした。

残る者がいなくなった家だけれど、きっと4人には、それぞれ「子どものころの自分」が見えていた。椿の家は、子どものころの自分に帰れる場所だったのではないだろうか。

臆測や思い込みを交えず、最初から最後まで自分の話を聞き、受け入れてくれる他者と出会ったゆくえたち。椿の家は、ときには子どもみたいなワガママも、繕わず、ありのまま言える場所だった。

4人でいることが、いちばん居心地がいい。4人で過ごす時間が、いちばん安全でホッとできる。まるで子どもみたいに、言いたいことを言って、聞きたいことを聞ける。そんなあたたかな場所は、まさに4人にとっての部室で、かけがえのないシェルターのようなもの。

それは角度によっては、考え方の違う他者を寄せ付けないテリトリーのように見えるだろう。自分たちだけに都合の良い、好き勝手しても許されるゾーンだ。それでも、彼らにとっては必要だった。生きていくうえで必要不可欠なシェルターは、これからも形と場所を変えながら永続するのかもしれない。

価値観のシンプルさを味わい直したい

椿が暮らしていた自宅を買い戻し、学習塾を再開することにした志木美鳥(田中麗奈)。準備をする彼女を手伝いながら、ゆくえは聞く。「男女の友情ってさ、成立するの?しないの?」。この問いは、このドラマの根幹を貫くテーマだ。

美鳥は答える。「どっちでもいいんじゃない」「人それぞれだからね」と。ドラマ『いちばんすきな花』は、全11話を通して、この姿勢を伝えようとしたのではないか。人の価値観やものの捉え方は、人それぞれであること。自分が決めた優先順位は、誰になんと言われようと尊重していいものであること。

いちばんすきな花、いちばんすきな人。それぞれに好き嫌いがあるし、「いちばんすき」が複数あって、順位を決められない人もいる。人の生き方、人生の方向性は、ほかの誰に決められるものでもないし、世間が定める「絶対的な正解」があるわけでもない。

いちばんすきな花も、いちばん帰りたい場所も、いちばんすきな人も、1つじゃなくていい。1人に決めなくったっていい。

「多様性」という言葉が、なかば流行語のようになって、一周まわって生きづらくなった気がしている。「多様性を認め合いましょう」という、言ってしまえば当たり前のことを強調される日々には、たくさんの疑問符がまとわりつく。

およそ100年前に、詩人の金子みすゞは「みんなちがって、みんないい」とうたった。人の生き方をジャッジするのではなく、ただ話を聞きながら受け止め、「いいね!」と伝えること。すでに100年前にうたわれていた、この価値観のシンプルさを、もう一度味わい直したい。

私たちには、いちばんすきな花が、たくさんあってもいい。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

元記事で読む
の記事をもっとみる