2023年印象に残った16皿②半蔵門「甘味 おかめ 麹町店」の"甘辛弁当"

都会の喧騒から遠く離れた所にいるような、ゆったりと時間が流れる空間で、甘さも辛さも程のよいバランスのお弁当を食べる。美味しいだけでなく、幸福なひとときを味わえました。

■余計なものがなにもない、真っ当な美味しさの凄み

甘味処には不思議な魅力があります。あんみつやお汁粉などしっかり甘いものはもちろん、茶めしや赤飯、餅やうどんなどの食事もある。おでんやところてんのように、カテゴライズしにくい（？）ものも存在します。この不思議空間に、なんとなくふらりと入ってしまうのは、僕だけではないはず。

その日も、何となく会社の近くの「甘味 おかめ 麹町店」に入りました。仕事をしていて、ちょっと疲れたときなど、ここで和菓子と抹茶で寛いだりしています。都会にあるビルの一角でありながら、民藝調の家具などが揃い、喧騒とは無縁のゆったりとした時間が流れるこの店にいるだけで、心が緩みます。

この日は、お昼前でしたがお腹が空いていたので、“甘辛弁当”を頼んでみました。運ばれてきたお膳には茶飯のおにぎり、おはぎ、おでん、お吸い物、漬物。なんて素敵な組み合わせ！

見ているだけでじわじわ沁みてきました。口に入れると、お吸い物やおでんはしっかり味が入っていながら、嫌味やくどさが一切ない、透き通ったやさしさが感じられます。茶飯のおにぎりも米の旨味がしっかり感じられる適度に控えめな味付けで、海苔の香りが静かに広がります。さらに、小さな醤油差しのような器に胡麻が入っていて、茶飯のおにぎりにふりかけると、ふくよかな香りが広がり、一層美味しくなります。そして最後におはぎ。小豆の質の良さと手間を感じる上品な甘味とご飯が穏やかに馴染んでいます。合間に漬物を食べると甘味がすっと引き立ちます。

特別に際立った味の料理ではないけれど、静かに上品な美味しさが広がる甘と辛の絶妙な組み合わせ。食後のコーヒーも真っ当に美味しく、付け合わせのピスタチオもちょっと嬉しい。本当に幸せなひとときを味わいました。

文・写真：植野広生