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プロスポーツクラブはいかに地域経済にインパクトを与えられるか?欧州クラブオーナーらが議論

  • 2023.12.25

先々月、イノベーション創発を目指すコミュニティVenture Cafe Tokyoのイベントで、「Shaping Sporting Values 地域経済を加速するスポーツ・ビジネスの可能性」と題したトークセッションが行われた。主催は関東経済産業局。クラブ経営や地域共創といったトピックについて大いに議論が繰り広げられたイベントの様子をレポートする。

グローバル視点の「スポーツビジネスと地域共創」

前半のセッションでは、ACAフットボール・パートナーズ CEO 小野寛幸氏、一般社団法人スポーツアナリスト協会 産業連携ディレクター 石井宏司氏、関東経済産業局 流通・サービス産業課 鈴木崇史氏がパネリストとして登壇。

Splat Inc. CSO Co-Founderでびわこ成蹊スポーツ大学 教授も務める齊藤恵理称氏がモデレーターとなり、海外プロスポーツクラブの視点から考えるグローバル市場と地域共創の可能性について議論が繰り広げられた。

「サービス産業の中でも、熱量や感動を通じて人を動かすことができるのは、スポーツ産業だからこそ提供できる価値。“感動”は何ものにも変え難く、その価値を地域活性化やマネタイズに活かしていきたい」とこのイベントへの思いを語った鈴木氏。

セッション冒頭では、1990年代前半にJリーグとほぼ同じ市場規模で現在のリーグ形式がスタートした英プレミアリーグの事例などを用いて、国内と欧米のプロスポーツ市場における収益格差や構造の違いに関するデータを共有。「野球やサッカーにおいては、世界のトップリーグと比べて、30年前はその差は小さかった」と語り、議論の種を蒔いた。

現在では10倍ほどの格差が開いたその要因について、石井氏は、日本においてはビジネス人材のスポーツ業界へのアクセスという「人的資本の課題」、金融テクノロジーとの関わり方という「金融との距離」の2つの重要課題を指摘し、金融業界出身でスポーツ業界に参入した小野氏に水を向ける。

ACAフットボールパートナーズの小野氏は、2022年2月ベルギーKMSKデインズの買収を皮切りに、現在欧州3クラブを保有し、またアジアを中心に4クラブと業務提携を結ぶ。その経営方針は、「スポーツ価値の最大化」と「事業価値の創出」を両輪にしながら、世界的なトレンドになっている「マルチクラブオーナーシップ(MCO)」を進めることだという。

左から)一般社団法人スポーツアナリスト協会 石井宏司氏、関東経済産業局 鈴木崇史氏。ACAフットボールパートナーズの小野寛幸氏はオンラインでの参加となった。画像提供=Venture Cafe Tokyo

アジアから進めるマルチクラブオーナーシップ

世界的な潮流となっていながら、アジアはまだ後発ともいえるMCO。小野氏はその成功要件について2つを挙げた。

1つ目は「業界トレンドを捉えること」。すなわちサッカー業界で言えば、高騰する放映権やMCOの流れがそれに当たる。もう1つは、「どのような課題を解決するのかを定義すること」。ACAフットボールパートナーズでは、「東南アジア諸国のW杯出場(の挑戦を追うこと)」としている。

とはいえ、欧州を中心としたMCOはマネーゲームの様相を呈してきていると言っても過言ではない。「サッカー界の既存の売上以外の構造を作ることで、このマネーゲームを打破する必要がある。新しい取り組みのヒントになればと取り組んでいる」と小野氏。

同氏は、東南アジアでの人口の多さと加熱するサッカー熱に目を付け、若手選手のドキュメンタリーなどを通して、東南アジアからヨーロッパに挑戦するという流れを作ることにチャレンジしているという。

また「MCOは多くの場合、経営の合理化と選手獲得の効率化を目的にするが、ブランド価値を高める機能もある」とも語り、スタートアップ投資にも似たメカニズムであるとも言及した。

地域の「ハブ」としてのスポーツクラブのあり方

ここまでの議論を受け「地域の活性化のためには、スポーツがハブになれるのではないか?」と齊藤氏が問いかけると、石井氏は過去にJ1クラブで国際連携を推進した経験に触れ「クラブが地域とつながることで、地域の価値を高める可能性がある」と指摘した。

そして、クラブがビジネスハブとして機能することで、地域のキープレーヤーを引き寄せ、地域ビジネスの発展を加速度できる点を強調。特に企業が地方へのビジネス展開を進める際、スポーツクラブの存在は「心理的な障壁」を下げる効果があり、ローカルコミュニティに入りやすくなるケースもあるとも話す。

また、スポーツクラブがインバウンド(海外からの旅行客誘致)のフックにもなり得ることにも話題は及んだ。自国の選手が所属するクラブ。好きな選手が所属するクラブ。これらはインバウンド誘客の切り札にもなる。「この舞台装置を使わない手はない」と小野氏は訴える。

最後に鈴木氏は、「“ハブ”がキーワード。地域経済のハブ。社会共創のハブ。そこを地域に入って支援できるのが我々関東経済産業局だと思っている」と締めくくった。地域の声を大事にしながら、この議論で得たヒントを推進する役に立ちたいと力強く語り、セッションは幕を閉じた。

このトークセッションに続き、後半のセッションでは「地域共創」を切り口に新たなパートナー探索に焦点を当て、各スポーツクラブから経営者が登壇。ラグビーから静岡ブルーレヴズ、ハンドボールからジークスター東京、サッカーからはJ2クラブながらACLを堂々戦ったヴァンフォーレ甲府、そして先日16年ぶりのJ1昇格を決めた東京ヴェルディから代表者が登壇し、ピッチ形式でクラブを紹介しながら金融・投資のプロからアドバイスを得ていくスタイルで大いに盛り上がった。

プロスポーツクラブはこれからも各地域で「ハブ」となり、その存在感を増していくに違いない。

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