知れば知るほど羨ましい、世界一の幸福大国と呼ばれるフィンランドの社会制度。でも社会制度が整えば本当に「幸せ」になるのでしょうか?。香菜子さんがフィンランドに詳しい、堀内都喜子さんとノーラ・シロラさんにお話を伺います。
対談したのはこの3名
(写真左から)堀内都喜子さん、ノーラ・シロラさん、香菜子さん
[PROFILE](左から)
堀内都喜子さん
フィンランド留学を経てフィンランド大使館でプロジェクトコーディネーターとして勤務。
ノーラ・シロラさん
フィンランド大使館商務部勤務を経て、北欧旅行フィンツアーにて勤務。
リンネル.jpでは「ノーラのフィンランド旅気分」連載を執筆中。
香菜子さん
本誌をはじめさまざまな媒体でモデルとして活躍しながら、2児の母として子育ても行う。
【対談】フィンランドの幸せの根っこはどこから?
「安心」が幸福度につながっている
堀内:フィンランドは長く幸福度ランキング1位なんですけど、幸せというより安心して暮らせているというほうがぴったりかもしれません。
ノーラ:幸福度世界一と聞いて、私たちのことじゃないのでは?って思った人が多いです(笑)
堀内:幸せの理由が当たり前すぎて気がつかないのかも?
香菜子:セーフティネットがしっかりしているってことですね。
堀内:国への信頼があるので生きていく上で心配事が少ないのは本当に安心です。日本も、健康寿命は長いし、いい国なんですけど、フィンランドと比較すると「選択の自由」という項目に差があります。私がフィンランドへ留学して一番変わったことは、自分の限界を作らなくなったこと。年齢の限界もないし、性別の制限もありません。自分の思う道を素直に選べる後押しになります。
香菜子:勉強したくなったタイミングで勉強するんですね。
個人の「選択の自由」を後押ししてくれる社会
堀内:社会人と学生の境界線がはっきりしていないですし、休みながら10年ぐらいかけて大学を卒業する人もいます。
香菜子:休学中の学費はどうなるんですか?
ノーラ:そもそも学費そのものがないです。
香菜子:ひゃー(笑)!
ノーラ:フィンランドでは小学生くらいから「どう思うのか」「なにがしたいのか」と自分の意見を求められます。
堀内:フィンランドの哲学者も言っていましたが、幸せになる秘訣とは、自分で人生を組み立てられているかどうか。すべてがうまくいくわけではないけれど、自分が納得した道を選べば......。
香菜子:失敗したとしても、自分で選んだから納得できますね。
堀内:いつでもやり直しができるし、また学べば、違うこともできます。それを国が支えてくれている。フィンランド人は、自分がどうしたいか、内なる声を大事にしています。
香菜子:自分の人生を生きてるんですね。それはお母さんも?
堀内:保育の制度も充実してますし、ネウボラやパートナーと一緒に子育てをすることも当たり前です。フィンランドは、男性の約8割が育休を取りますが、ほとんどは女性が仕事復帰してからしか取れないんです。だから、お父さんもワンオペになるんですよ。すっごく大変だけど、奥さんの気持ちもわかるし、子どもの成長が見られてすごくよかったって聞きます。でも育児より仕事へ行ったほうが楽っていうこともわかったとも(笑)
介護や少子化問題、フィンランドではどうなの?
ノーラ:あとフィンランドでは子どもが独り立ちしたらそのまま実家に戻らない人が多いので基本核家族化します。
香菜子:例えば親が年老いて同居するとか一緒に住んで介護するとかもないんですか。
ノーラ:家族として困り事はサポートはしますが、介護福祉も国と社会の責任です。
香菜子:すごい! でもこれだけ福祉が充実しているのに、フィンランドも少子化なんですか?
堀内:お金や援助の不足で産めないわけではなく、子どものいない生活を選択する人もいるってことです。すべては個人の選択。あと、フィンランドはいま移民が増えてきているので人口は増加傾向です。なので、日本ほど少子化対策をしなければならないというわけではないところもポイントです。
ノーラ:フィンランドはお父さんのほうが小学生の子どもと過ごす時間がお母さんより長いんですよ。
堀内:両親ともフルタイムで働いているので子どものために定時で帰ることは男性の権利でもあります。
香菜子:フィンランドのジェンダー平等って、女性の権利を訴えるというよりみんなが幸せになるためにある気がします。
他人軸ではなく、自分軸を基準にする
堀内:フィンランドは独立したのが約100年前と、とても若い国で昔は本当に貧しい国でした。戦争も多かったし。
ノーラ:石油やガスなどの天然資源にあまり恵まれていないので他に頼らなくてはいけません。
堀内:当時は今のような社会制度がなかったので今の日本と同じような悩みがありました。女性の声を伝える代表の人たちをどんどん政治の世界に送るようになって、フィンランドが変わっていきました。
香菜子:あと、日本の女性ってがんばりすぎかもな、と思うときがあります。私もかつて家族のご飯を全部ちゃんと手作りじゃなきゃって思っていた時期がありました。
堀内:日本のお弁当も、彩りよくおかずも4〜5種類ぐらい入れなきゃって感じですよね。
ノーラ:私、食事はシンプルなもので健康的だったらいいかなあと思う。フィンランドって、食べ物の盛り付けや見た目にこだわらないんですよね。見た目よりも、味や栄養バランスが整っているほうが重要かなって。
香菜子:日本は誰かに見られているとか、どこか他人軸で動いているんですよね。
堀内:今日本でブームのサウナでも、サウナ時間を周りに合わせたり、推奨時間を気にしたりしますよね。
ノーラ:状況や体調もさまざまですから、内側に耳を傾けて、気持ちがいいなって、心地よさを感じるのが一番体によいことだと思います。
香菜子:なにごとも自分軸で過ごすのが幸せに近づく秘訣なのかもしれない。子どもが大きくなって「卒母」を宣言してみたり、海外留学を考えたり、フェーズによって女性が自分らしく生きることを肯定していきたいなと思うし、いいんだなって勇気をもらいました!
photograph:Chiharu Fukutomi hair&make up:Yuka Takamatsu text:Asami Asai, Miho Iwai(Kokohore Japan Inc.)illustration:Toshinori Yonemura web edit:Riho Abe
リンネル2023年12月号より
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