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ドラクエ、スーパーマリオをしのぎ1位に君臨…ゲーム会社ではないのに「スイカゲーム」大ヒットのワケ

  • 2023.12.23

2023年下半期、500万ダウンロードのヒットを記録した“落ちゲー”の「スイカゲーム」。販売元のAladdin Xに取材した山下達也さんは「同社の場合、本業はプロジェクターの販売であり、そのプロジェクターのコンテンツである『スイカゲーム』をPR目的で一般にリリースした。採算度外視だからこそ240円という安い価格設定が可能になった」という――。

スイカゲーム
まさかのマリオ、ドラクエ超えを成し遂げた非ゲームメーカー

今、Nintendo Switchのダウンロードソフトランキングに異常事態が起きている。とあるゲームソフトが同時期に発売されたマリオ(『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』)やドラクエ(『ドラゴンクエストモンスターズ3』)を抑えて1位に君臨し続けているのだ。

そのソフトの名は『スイカゲーム』。実はリリースされたのは2021年12月で、当時は全く話題にならなかったのだが、2023年9月にYouTubeなどのゲーム実況者が取り上げたことで人気に火が付き、わずか1カ月で100万ダウンロードを達成。12月現在ではなんと全世界500万ダウンロードを記録するまでになっている。

【図表】My Nintendo Storeダウンロードソフトランキング
出典=任天堂公式サイト、2023年12月18日

「正直、現実感が全くないんですよ(笑)。当初はゲーム配信者の方に取り上げられていたことも全く気がついていなくて……。1週間後くらいですかね、いきなりダウンロードランキングが5位、6位ぐらいに上がっていることを知りました。その後は、あれよあれよという間に1位になり、そのままずっと1位に張り付いているという状態(12月22日現在)で、反響の大きさを感じています」

Nintendo Switchでのリリースは2年前、YouTubeで火がついた

そう語るのは、『スイカゲーム』の販売元、Aladdin X(アラジン エックス)の岡本岳洋さん。同社は2022年6月に、照明一体型3in1プロジェクター「popIn Aladdin(ポップイン アラジン)」を開発・販売するpopInからXGIMI(エクスジミー)社へのプロジェクター事業譲渡という形で誕生した企業で、『スイカゲーム』は、その「popIn Aladdin」(事業譲渡後、ブランド名を「Aladdin X」に変更)時代から内蔵されている無料ゲームコンテンツのひとつだった(2021年4月リリース)。

それを、広義ではライバル機器の一つであるNintendo Switchに移植した当時の判断について、popIn創業者で、中国出身の連続起業家としても知られる程涛ていとうさん(現在は同社の経営から退き、issinを立ち上げヘルスケア事業に専念)は、次のように語る。

「もともと『popIn Aladdin』は、スマホやタブレットの普及によって、家族間でのコミュニケーションの機会が失われているのではと感じて開発した製品です。『スイカゲーム』はそうした理念を踏まえ、家族で楽しめること、子供でも遊べることを念頭に、誰もが楽しめる簡単なゲームを作ろうと開発しました」

家族みんなで楽しめる簡単さと、やめ時が見つからない中毒性を両立

「それをコンシューマーのゲーム市場でも販売したのは、『スイカゲーム』を通じて、より多くの人に『popIn Aladdin』を知っていただき、興味を持っていただくきっかけを作りたかったから。配信先にスマートフォンではなくNintendo Switchを選んだのは、当時すでに競争が激化していたスマーフォンアプリ市場と比べて、Nintendo Switchの方が上位を狙えるのではないかと考えたためです。そのため、価格も利益度外視の240円に設定しました。当時、特に社内で注目されていたプロジェクトではなかったのですが、結果的には想定以上の結果となりよろこんでいます」(程涛さん)

3000点を超えられるか、「ダブルスイカ」ができるか?

さて、ここでご存じない方にも向けて、改めて『スイカゲーム』がどういったゲームなのかを紹介しておこう。

本作はかつて一世を風靡ふうびした『テトリス』や『ぷよぷよ』などと同じ、落ちものパズルゲームの一種で、落とすのは、さくらんぼやりんご、メロンなど、大きさの異なるフルーツとなる。フルーツは同じものが接触するとワンランク大きなフルーツに進化する性質を持っており、プレーヤーはなるべく大きなフルーツへと進化させつつ、フルーツがゲームエリアからはみ出さないよう落とし方を工夫しながら、より多くのより大きなフルーツを集めていくことを目指す。

なお、フルーツが最大に進化した状態がスイカ(メロンを2つぶつけると誕生)で、これが『スイカゲーム』の名称の由来。ちなみにスイカを2つぶつけると大量得点とともに画面上から消滅するため(ゲームエリアが空くため)、ゲームを長く続けるにはいかにこの「ダブルスイカ」を実現するのかが鍵となる。

シンカJPG、3000点JPG
同じフルーツを2つくっつけると、次に大きい果物に「シンカ(進化)」する
『テトリス』と違って時間制限がなく家族で話し合える

ちなみに本作は、中国で2021年1月ごろにSNSを中心にブームとなった『合成大西瓜』と呼ばれるブラウザゲームをモチーフとしたのではないかと言われているが、各フルーツにキャラクター性を与えたり、物理演算によってぶつかったフルーツが跳ねたり転がったりする要素を付与したのは『スイカゲーム』のオリジナルとなる。特に後者はぶつかり合ったフルーツが思わぬ動きをしてチャンス(あるいはピンチ)を作り出したりしてくれるなど、本作のゲーム性向上に大きな貢献をしている。

「元社長の程涛が言ったように、『スイカゲーム』では家族みんなで楽しめることを重視しています。その象徴と言えるのが、ゲームに時間制限がないこと。一般的な落ちものゲームは落ちるスピードがどんどん速くなり、より素早い操作を求められるようになっていくのですが、『スイカゲーム』はどこに次のフルーツを落とすか、周りの家族や友人と話しながらゆっくり決めていけるところが間口を広げたのではないでしょうか。

プレー後、次はもっと上手くできるのではないかと思ってしまうところも絶妙で、私自身もすっかりハマってしまっています。これから『スイカゲーム』を始めるという方には、まず3000点を目指してみていただきたいですね。え? 私ですか? 私はまだ2600点くらいなんですよ、メーカーの人間なのにすみません……」(岡本さん)

これからの人気ゲームはインディーズ市場から生まれる?

こうしてヒットした『スイカゲーム』だが、そのブレイクの道のりは、一般的なゲームタイトルとは大きく異なっている。とはいえ、「配信で火がつく」は近年、特によく見られる構図だ。

その背景にあるのが、家庭用ゲーム機市場における、インディーズゲームの定着・拡大だ。インディーズゲームとは、任天堂をはじめとする大手メーカーではない、個人あるいは小規模スタジオの手がけた作品のこと。大手メーカーの手がけたメジャータイトルと比べて規模こそ小さいが、一点突破のアイデアや作り込みの点ではむしろ優れていることも多く、価格も数百円〜数千円程度と安価なことから、メジャータイトルの開発が停滞した新型コロナ禍前後に大きな盛り上がりを見せた。今では「インディーズ市場を制したプラットフォームがゲーム機市場を制する」とまで言われているほどだ。

次の注目作は謎の地下通路からの脱出を目指す『8番出口』

こうしたインディーズタイトルは、シンプルゆえにネット配信と相性が良く、多くのゲーム中継配信者が、まだ取り上げられていない作品を積極的に探し出し、紹介するという現象を生みだした(その後、数十万~数百人のファンを抱える人気配信者が取り上げることで大ブレーク)。『スイカゲーム』はその珍しい大成功例と言えるが、その後も、謎の地下通路からの脱出を目指す『8番出口』が配信やSNSの口コミで注目を集めつつあるなど、日々、新たな傑作が“発掘”され続けている。

2023年11月30日にSteamにて配信が開始されたウォーキングシミュレーションゲーム『8番出口』
2023年11月30日にSteamにて配信が開始されたウォーキングシミュレーションゲーム『8番出口』

もちろん、そのためにはゲームメーカー側が配信に寛容でなければならないのだが、『スイカゲーム』に関しては公式のガイドラインに従えば、ゲーム中継での動画使用は歓迎といったオープンなスタンスを早々に表明。次々と配信者が『スイカゲーム』を取り上げていくという流れを生み出すことにも成功した。

加えて、Aladdin Xの場合、本業はプロジェクターの販売であり、ゲームの販売は「採算度外視」だったからこそ、240円という価格設定ができ、それがブレイクを後押ししたという側面もある。配信を見て、自分もプレーしてみたいと思ったときに、スマホアプリ感覚で購入できる価格だったことも、わずか4カ月弱で累計500万ダウンロードを実現できた理由に違いないだろう。

世の中にはゲームをまず無料で提供し、ガチャや追加コンテンツで課金する手法もあるが、「買い切り」である本作はそれに該当しない。このあたりはAladdin Xの(あるいは程元社長の)狙い通りと言えそうだが、これを他のメーカーが真似するのはなかなか厳しそうだ。

「大ヒットで得た利益はファンに還元していきたい」

本業であるプロジェクター事業でも注目され、さらに別のところで思わぬ大ヒットを手にしたAladdin X。このヒットによって、本業にどのような影響がでているのだろうか? 本来の目的であった「Aladdin X」の売り上げアップには貢献しているのだろうか?

「プロジェクターは検討期間が比較的長めの製品なので、まだ売り上げがどうこうという段階ではないのですが、『スイカゲーム』をきっかけに『Aladdin X』に興味を持ったというお客さまは確実に増えていることが、ホームページへのアクセス数増加などから確認できています。今後、家電量販店や商業施設などでの展示時に『スイカゲーム』をきっかけに、プロジェクターをご体験いただくような施策を打ち出して、よりシナジーを生みだしていけると良いなと考えています」(岡本さん)

また、単価240円とはいえ500万本売れたということは、単純計算で12億円の売り上げ。そこからAladdin Xに入る収益も小さな話ではない。岡本氏は「それは事実としてある」と認めつつ、「一過性のブームに終わらせず、今後『スイカゲーム』ファンに対して還元していくことで、『スイカゲーム』をより長く愛されていくタイトルにしたい」と語る。

フルーツのキャラ人気も高まり、ブームはまだまだ続きそう

「例えば、先日、『スイカゲーム』のハロウィーン仕様として、スイカではなくカボチャを作るという期間限定のアップデートを行ったのですが、ユーザーにたいへんよろこんでいただき、SNS『X』(旧Twitter)のトレンドにもなりました。ハロウィーン仕様は実は以前、Aladdin Xの『スイカゲーム』で似たイベントを実施していました。今後は、これまでにやってこなかったような、たとえば、ゲームの楽しさをより拡張するようなアップデートも提供していきたいと、さまざまな仕込みを行っているところです。また、それと並行して『スイカゲーム』の魅力をより多くの人に広めていくための取り組みも行っていく予定です。ご期待ください」(岡本さん)

10月にはハロウィーンバージョンでXトレンドにも入った
10月にはハロウィーンバージョンでXトレンドにも入った
12月21日よりクリスマススキンも
12月21日よりクリスマススキンも
非公式版に悩まされつつも広がる『スイカゲーム』の世界

より多くの人に広めていくのであれば、現在はNintendo Switch限定となっている本作を、スマートフォンなどの別プラットフォームに展開していくべきだと思うのだが、そのあたり、Aladdin Xはどのように考えているのだろうか? 実は、スマートフォン市場における本作は非公式なアプリが横行する状態になっており、Aladdin Xもその対策に手を焼いているようだ。何か対策は考えていないのだろうか?

岡本氏は「現時点で公式に発表できることはまだ何もない」と前置きしつつ、「正規版を提供することが最大の対策になることは理解している」と語り、『スイカゲーム』をスマホでも正規に遊べる環境の拡大についても前向きに取り組んでいると言う。

「そして、それとは別にもう一つ、『スイカゲーム』の世界を拡げていく活動として、IP(知的財産)としての活用も検討中です。すでにLINEスタンプを発売させていただき、たいへんご好評いただいているのですが、今後はさらに多くの展開を考えています。ただし、こちらも現在、公式とは関係なく弊社ゲームのデザインやタイトルを模したグッズに悩まされており、先日も公式に注意喚起をさせていただきました。『スイカゲーム』ファンの皆さんには、ぜひ正式なグッズの登場をお待ちいただきたい」(岡本さん)

そのほか、ファンを巻き込んだゲーム大会のようなものもやってみたいと、『スイカゲーム』ワールド拡大の夢を語る岡本氏。事実、はやり廃りが激しいネットの世界でも、まだまだ『スイカゲーム』は盛り上り続けており、記事執筆時点(12月中旬)でも毎日数十本ものゲームプレイ動画がアップロードされている。

“スイカの季節”はもう少し続きそうだ。

山下 達也(やました・たつや)
デジタルグッズ&テクノロジーライター
1975年東京都生まれ。AIやVRなどの最新のデジタルテクノロジーや、PC、スマートフォン、デジタルカメラ、AV機器など、幅広くデジタル機器を愛好。一般誌から専門誌、企業オウンドメディアまで幅広く解説記事を執筆する。

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