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今年の韓国カルチャーどうだった?2023年のマイベスト・韓国作品。前田エマ選

  • 2023.12.23

前田エマ

1992年神奈川県生まれ。東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーの留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。アート、映画、本にまつわるエッセイを雑誌やWEBで寄稿している。2022年、初の小説集『動物になる日』(ミシマ社)を上梓。

【1】斎藤真理子『本の栞にぶら下がる』

斎藤真理子さんは現代の日本における韓国文学翻訳の第一人者。この本は、斎藤さんが幼い頃から今まで生きてきたなかで、どういうふうに本と付き合ってきたのかをとても丁寧に綴ったエッセイです。斎藤さんが韓国文学のみならず、様々な国の文学…それこそ日本の作品も含めて、出会い読み解きながら考えてきた歴史の問題や、人間の業について書かれています。

私は韓国のドラマや音楽に触れるまで、本当に朝鮮半島の歴史を知りませんでした。一つひとつ知っていくごとに「こんなことも知らなかったのか…!」と、恥ずかしい気持ち、呆れてしまうような気持ちになることもありました。でも、言葉は良くないかもしれませんが、そのことがとても面白かったんです。この本を読むと、斎藤さんは年齢も経験値も私とは違うけれど、決して上から目線ではなく、恥ずかしさを携えながらも一つひとつ知っていく勇気を肯定してくれる。歴史や社会問題って難しいって思いがちだけど、この本を読むと、まだ知らないことが世界にはこんなにもあるんだということに、恥ずかしさよりも嬉しさを感じられるんです。

特に朝鮮半島の歴史を知ることは、世界各地で過去と現在に起きてきたこと、起きていることと、どこかつながる感覚がありました。その興奮を、もっと聡明に、鮮明に書き残してくれているような、そんな一冊です。

【2】Netflix『ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜』

Netflixで配信されている韓国ドラマで、高校時代に壮絶ないじめを経験した主人公が、当時のいじめっ子たちに復讐していく話です。私が韓国で通っていた語学学校には、世界中から生徒が来ているのですが、みんなこのドラマを夜通し観ていました。世界中がこんなに熱狂するんだっていうのを目の当たりにした感動もありましたし、やっぱりどこの国でもいじめの問題ってきっとあるから、みんなが夢中になるんだなということも感じました。

テーマが重いのもあって、私は最初、観るのはちょっと苦しいな…と思っていた部分もあったんですけど、観始めたら次から次にどんどん続きを観たくなってしまう。脚本も演出も美しい、さすがとしか言いようのない作品です。

実際、韓国は日本以上にいじめに対する意識が強く、過去にいじめをしたことがあると大学受験などの時に履歴書に書かれることもあるんです。このドラマの影響もあって、いじめに対する取り組みが変わっている部分もあるので、エンタメの力が社会を動かす様を目撃した、みたいな体験でした。

【3】映画『福田村事件』

関東大震災の5日後、朝鮮人に対するデマを信じた福田村の村人たちによって、香川からやってきた行商団9人が殺害された事件をもとにした映画です。今年が関東大震災から100年なので、日本でも韓国でも朝鮮人大虐殺をテーマにした展示などが多々行なわれました。私は日韓を行き来しながら、この歴史が何を訴えているのかということにすごく興味がありました。

もともと森達也監督の作品もすごく好きで、大学時代に夢中になってみていました。ずっとドキュメンタリーを作ってきた監督ですが、今回は史実に基づいているけれど初めての劇映画ということで、どんな感じになるんだろうとすごくドキドキしながら公開を待っていました。韓国で放送されているドラマや映画の中には、日本と朝鮮半島との歴史について語るものが少なくないなかで、日本ではこういうテーマを取り上げる作品を多くみることはできません。しかし井浦新さんや田中麗奈さんなどメジャーな俳優たちが、この物語を演じるということはすごく意味があると思いました。

朝鮮人大虐殺をテーマにしつつ、朝鮮人に対する差別を描いているというよりも、人間誰しもが誰かを差別してしまう心を潜在的に持っていることが明らかになる。たとえば、まだコロナが何なのかはっきりわからなかった頃も、人に偏見を持ったり、差別的になったりしてしまう部分が私たちにもあったと思うんです。私自身、日本にいる時は、「日本人はこう考えて、韓国人はこう考えるんだろうな」みたいな固定概念が少なからずあったんだなと、韓国に行って気づきました。この作品には、そういう小さな問題から考えるヒントが詰まっていました。国同士の政治、外交、主張などはありつつも、個人単位ではもっと多様な考え方があるということを、どうしても人は忘れてしまう。いかにその感覚を持って生き続けられるのかということ、多様な考え方、多様な受け取り方があるということを考えていきたいなと思いました。

text_Aiko Iijima(sou) design_Ai Nonaka edit_Kei Kawaura

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