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【さいたま国際芸術祭2023】ディレクターインタビュー~市民とともに駆け抜けた65日間を振り返る~

  • 2023.12.22
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2023年10月7日~12月10日の65日間にわたって開催された「さいたま国際芸術祭2023」が閉幕しました。

このリレー連載も、今回が最終回。そこで編集部では、ディレクターを務めた「現代アートチーム 目[mé]」にインタビューを実施。南川憲二さんと荒神明香さんのお二人に、会期中のエピソードや、さいたま市民の皆さんへのメッセージなどをお話いただきました。

出典:リビング埼玉Web

「さいたま国際芸術祭2023」ディレクター目[mé](左から南川憲二さん、荒神明香さん、増井宏文さん)写真:阿部 健

「終了した今でも、まだ芸術祭が続いているような感覚です」

Q.約2カ月間という長い芸術祭を終えた、今のお気持ちをお聞かせください。

荒神さん:まだ終わったばかりで、終わったという実感がなくて。今も芸術祭が続いているような不思議な感覚があります。

南川さん:準備段階から様々に紆余曲折がありましたが、事故もなく無事に終えることができてホッとしています。さいたま市や、以前からこの街で活動を展開している市民キュレーターなど、それぞれ考え方や見せたい方向が違う方々と独立共存するようなかたちで芸術祭を実施できたのは、大きなことだったように思います。準備段階から一緒に走ってくれた事務局、チームの方々には感謝の気持ちしかありません。

出典:リビング埼玉Web

制作風景、2023年、さいたま国際芸術祭2023、Photo: 目 [mé]

「私たちの想像を越えた芸術祭になりました」

Q.会期中に印象に残ったことはありますか?

荒神さん:私は会期中ほぼ毎日、メイン会場に通っていたので、観客の方のリアルな反応を見ることができたのが貴重な体験でしたね。

南川さん:メイン会場では作品の近くにキャプションを敢えて掲出せず、来場者が会場導線を自身で体験していくことを重視しました。

「はたして、この場所がどのように鑑賞されていくんだろう」という期待と不安の中で、印象的な出来事が二つありました。

一つは、会場を連日見に来てくれた観客の方が、迷路のような会場で迷われている他の観客の方に対して、「こういう風に順路を回ったらいいかもしれない」とさりげなく教えている様子を目の当たりにしたこと。もう一つは、会場の中で子どもたちが、独自の楽しみ方をどんどん発見していく姿を見たことです。

観客の方々が自分から積極的に芸術祭に関わってくれたり、楽しまれている姿がありました。

出典:リビング埼玉Web

会場風景、2023年、さいたま国際芸術祭2023、Photo: 表恒匡

SNSを通じて届く感想も皆さん様々な感じ方をしてくれていて、それが私たちの想像を遥かに越えているものもあったり、とても興味深かったです。

荒神さん:芸術祭は、私たちが目指していた理想や結末とは違ったものになったと思っています。そんな中でも、観客の方やサポーターの方々から、色々な意見や感想をいただき、独自の見方や視点に触れられたのは、貴重な機会だったと思います。

出典:リビング埼玉Web

会期中、毎日写真が入れ替わった川島拓人、オルヤ・オレイニ、マーク・ペクメジアン、小学生フォトグラファーによるポートレイト・プロジェクト(画像はマーク・ペクメジアンの展示風景) 2023年, さいたま国際芸術祭2023 Photo: 表恒匡

Q.お忙しい中でリフレッシュタイムはありましたか?さいたまでお気に入りの場所やお店などがあったら教えてください。

荒神さん:氷川参道の木漏れ日の中を歩きながら、綺麗な落ち葉を見たり、カフェでコーヒーを飲んだりしながらリフレッシュしていました。参道沿いには魅力的なお店がたくさんありますよね。私は「熊谷珈琲」さんのコーヒーを飲んだり、「ugo」さんのピザをよくいただいていました。

南川さん:私は自家焙煎珈琲豆店の「南回帰線」も行きました。「エプロント」さんは手軽に寄れて便利でした。あと、荒川にかかる「治水橋」の風景はすごく落ち着きます。橋から少し離れてぼうっと人の移動を眺めるのが心地よかった。さいたま市には結構、落ち着くような場所がいくつもあって、色々と発見できたことは嬉しかったです。

「国際的なアート」と「市民参加」

Q.市民と一緒に作り上げる「市民参加型の国際芸術祭」に携わってみていかがでしたか? 南川さん:今回メイン会場の作品の多くに市民参加によるものが含まれています。国際的に活躍するアーティストと同じ場所でそれらの作品が展開されていたのですが、会場では自然なかたちで存在していたように思います。 作品によっては、市民参加でしか生まれないクオリティーのものもあったり、「市民参加」がどこか謳い文句のようなものにならないように心がけていたので、その点では良いかたちで展開できたように思います。

出典:リビング埼玉Web

ミハイル・カリキス《ラスト・コンサート》2023年、さいたま国際芸術祭2023、Photo: 表恒匡

―市民サポーターの方々の協力も大きかったと聞いています。

南川さん:そうですね。さいたま国際芸術祭には、芸術祭の会期に関わらず熱心に活動されているサポーターの方々がいます。色んな面で協力してくれるだけでなく、芸術祭への批評的な目線もきちんと持たれています。

そういった方々が、身近にいて、直接的にも間接的にもリアルな声が届くのはとても大きいことだと感じました。

荒神さん:芸術祭の市民サポーターの方々は、作品の見え方からお客さんに対するホスピタリティの面まで、いつも率直な意見をぶつけてくれました。会期中、モチベーションの部分でも支えられたこともあったり、どこか家族のような温かい存在です。

出典:リビング埼玉Web

メイン会場の入口に設置された「Time Base Documents」(モニター内の画像は白鳥建二撮影)2023年、さいたま国際芸術祭2023、Photo: 表恒匡 制作:東日本電信電話株式会社 埼玉事業部、株式会社NTT ArtTechnology、LED TOKYO株式会社

大きな「街の挑戦」をこれからも続けてほしい

Q.最後に、さいたま市民の皆さんにメッセージをお願いします。

南川さん:内容の賛否とは別に、本当に挑戦的な国際芸術祭を実施したということはぜひ知ってほしいなと思います。他のどんな都市でもできないような、さいたま市でしか実現できないような芸術祭に挑戦したと思います。そんな、大きな「街の挑戦」をこれからも続けてほしいです。

荒神さん:芸術は、専門家だけのものではありません。誰もが自分の中に眠っていた感性が呼び起こされたり、新しい視点が生まれたりするものだと思います。そんな芸術祭が身近にある暮らしをこれからも楽しんでほしいです。

インタビューを終えて

結成10年目を超えた「現代アートチーム 目[mé]」。2021年の夏には、都内の複数の場所で巨大な顔を空に浮かべるプロジェクト「まさゆめ」を発表し大きな話題となりました。これからも、さいたま市民と現代アートの「架け橋」となってくれるよう、心から応援していきたいと思います。

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