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今年のアートどうだった?2023年のマイベスト・美術展。 苅田梨都子選

  • 2023.12.21
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苅田梨都子〈ritsuko karita〉 ファッションデザイナー

1993年岐阜県出身。4年前に自身のブランドを〈ritsuko karita〉としてリニューアル。現在は、映画サイト「ザ・シネマメンバーズ」Hanako Web「苅田梨都子の東京アート探訪記」でコラムを連載中。

【1】河本五郎『河本五郎―反骨の陶芸』

今年の4月から8月まで虎ノ門の菊池寛実記念 智美術館で開催されていた、陶磁器作家・河本五郎さんの回顧展です。この美術館に訪れるのは2回目だったのですが、お庭を眺めながら展覧会のことを思い出せるゆったりした空間も含め、とても印象的でした。

これまで見てきた陶器の展覧会は、ある程度用途が予想できる作品が多かったのですが、河本さんの作品は、「反骨の陶芸」というタイトルにもあるとおり、その独特な造形や細かな絵付などから、何かを訴えてくるような力強さや、近くで見てみないとわからない構造の繊細さを感じて。そのインパクトの強さから、私のなかの陶芸のイメージが塗り替えられました。

一度だけ陶芸体験をしたことがあるのですが、やっぱり普段やっている服作りと違ってなかなかうまくいかないんです。自分が表現したいものの着地点を考えながら作っても、その過程で操作するのがとても難しい。今年の夏、写真家と一緒に写真をコラージュしたテキスタイルを作ったのですが、私ひとりでは生まれなかったコミュニケーションやデザインが生まれたり、実際に着たら写真が見えなくなってしまったり、良くも悪くもコントロールできない部分がありました。河本さんはひとりで作品作りをしていたのかもしれないし、服とは手法がまったく違うけれど、あえてコントロールをしなかったり、予想外に起こったことが、プラスになったこともきっとあったんじゃないかなと想像しながら楽しみました。

【2】今日マチ子「『わたしの#stayhome日記』2020-2023展」

漫画家の今日マチ子さんが2020年の緊急事態宣言以降、SNSに投稿してきたイラストをまとめた展覧会。もともとマチ子さんのXをフォローしていて、「#stayhome」でイラストを投稿していたのを見ていたんです。「みんなで協力しよう」みたいな言葉が強かったあの大変な時期を、平熱のまま柔らかく抱きしめてくれるような展示でした。

会場の町田市民文学館ことばらんども、私にとっては身近で大切な場所なのですが、そこに入った瞬間、気に留めない人は気づかないかもしれないくらいのところに、天使のような女の子のイラストがキーホルダーのようにぶら下がっていて。マチ子さんが描く女の子が、私たちのようにどこかで生きていて、今ここに来ているのかもしれないなって、夢と現実の狭間にいるような感覚になりました。あの出来事を、あの時期を、いろんな意味で忘れちゃいけないなということを、さらに考えるきっかけになりました。

マチ子さんのイラストをとおしてコロナ禍を考えてみると、すごくゆっくりとした時間だったなと感じて。その時期だったからこそできたこともあったんだなって思いましたし、そのなかをゆっくり歩んでいたことが淡いイラストのなかに閉じ込められていた。私もコロナ禍で思うことはあったけれど、自らコロナを主軸に発信することはしていなくて。でも、嘘なく日々を純粋に描いたマチ子さんのイラストは、私にとってあの時期は実は大切だったんだっていうことを代弁してくれているような気持ちになって、すごく救われたんですよね。本当にありがとうって思いました。

【3】ホンマタカシ『即興』

会場には真ん中に穴があいた箱みたいな空間があって、その穴の向こうにほんのり写真が見えるんだけれど、なんだかぼやっとしか見えない、みたいな展示方法など、空間作りがすごく印象的でした。写真自体ももちろん素晴らしいのですが、そのまま飾るのか、大きく飾るのか小さく飾るのかによって、見る側の捉え方が全然違うなと実感しました。

さまざまな年代に富士山を撮影した『Thirty-Six Views of Mount Fuji』シリーズでは、夕焼けのような美しい色の富士山が逆さまになっていたり、その前に鏡のようなものがぶら下がっていて、自分も写真のなかに入り込んだような感覚になったり、単純に写真を「見る」ということだけではなく、会場に訪れることでホンマさんの視点に迷い込むことができた気がします。

個人的には、映画など動きのある作品をとおして、人の何年もの人生を追体験したり見たりすることが多かったけれど、静止画でこんなに何かを体験することができるんだと思いました。私も、作った服と光が混ざった時に、何か私の表現したい片鱗のようなものが見えたりだとか、着てくださる人によって全然違う景色が見えたりだとかっていう経験があるのですが、写真ひとつを取っても、その見え方の大小や光の反射によって、別の時間軸や記憶、場所が、今の感覚と結びつく。そういうことをホンマさんは言いたいのかなと思って、すごく新鮮な体験として、写真展を体感することができました。

text_Aiko Iijima(sou) photo_Ritsuko Karita design_Ai Nonaka edit_Kei Kawaura

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