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「もし彼女が男性だったら、誰も目くじらを立てなかった」『NOLLY ソープオペラの女王』脚本家インタビュー

  • 2023.12.20

イギリス芸能史に残る降板騒動を全3話で伝えるドラマ『NOLLY ソープオペラの女王』で、男性社会のルールに従うことを拒否して輝く女性がどのような制裁を受けるかをユーモラスかつ刺激的に描いているラッセル・T・デイヴィス。全盛期には毎週約1,500万人の視聴者を誇った英ソープオペラ『クロスローズ』の主演女優、ノエル・“ノリー”・ゴードンの物語を伝えようと思ったわけとは? Amazon Prime Video チャンネル上の動画配信サービス「スターチャンネルEX」で独占配信中のドラマについてラッセルが語ってくれた。

ラッセル・T・デイヴィスがイギリス芸能史に残る降板劇を全3話で映像化

画像: 『ドクター・フー』や『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』で知られる、イギリスを代表する脚本家・プロデューサーのラッセル・T・デイヴィス
『ドクター・フー』や『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』で知られる、イギリスを代表する脚本家・プロデューサーのラッセル・T・デイヴィス

―『NOLLY ソープオペラの女王』のストーリーを教えてください。

『NOLLY』は、ノエル・ゴードンがITVのソープオペラ(テレビドラマシリーズ)『クロスローズ』を解雇された事件を描いた話です。彼女は「ミッドランド(※番組の舞台となった場所)の女王」として、何十年もの間、テレビ界のスターであり続けました。しかし1981年、彼女は突然降板を言い渡されます。前触れも警告もない、冷酷な、ひどい解雇でした。絶大な人気があったスターの、この屈辱的な事件にずっと興味がありました。

画像1: ラッセル・T・デイヴィスがイギリス芸能史に残る降板劇を全3話で映像化

―何があなたにこの事件を伝えたいと思わせたのですか?私たちが知らなかったことが明らかにされるのでしょうか?

テレビの仕事をすればするほど、また俳優と仕事をすればするほど、その扱いはよりミステリアスに思えてきます。私たちは俳優がソープオペラから追放され、転落していくのを目にしてきました。時間が経つにつれて、その公然かつ冷酷な体質がますます奇妙に思えてきました。ノエル・ゴードンの解雇騒動、彼女が演じていたメグ・モーティマーの降板劇は、その後の20年間のソープストーリーの雛形となったという事実にも魅了されました。当時は、ソープオペラがテレビ局を支配し、生活がソープオペラを中心に回っていた時代です。1981年はすべてが変わり始めた頃です。ビジネスがエンターテインメントの世界を支配し始めた80年代、みな大変苦しみました。

これは、非常に男性的な業界における女性の物語でもあります。私たちは今、多くの「#MeToo」の物語に衝撃を受けています。この物語には性的な要素はありませんが、男性がビジネスの内外で女性をどう取り扱うかということを示しています。私は、ノリーを降板させるという前代未聞の出来事の真相を明らかにしたかったのです。申し上げておくと、ショッキングなこと、いわゆる大きな暴露があるわけではありませんし、ノリーの私生活についての暴露はしていません。しかし、私はこのような事件に至った一連の経緯はとてもひどいことだと思っています。それを明らかにしたいと思いました。

―『クロスローズ』自体はしばしば嘲笑の対象になっていますが、当時は大人気でした。なぜあれほど人気があったのだと思いますか?何がメグというキャラクターをアイコンにしたのでしょうか?

ほとんどのソープオペラがコミュニティを中心に描かれています。『クロスローズ』は舞台となったモーテルと一家の長であるメグを中心に描かれていてとても珍しいと思います。ノエル・ゴードンがどんなスターだったか、今となっては説明するのが難しいんですよ。周囲に話を聞くと、誰もが母親と一緒に番組を見たことを覚えています。ポテトチップスやサンドイッチを食べながら、お茶を飲みながら皆『クロスローズ』を見ていました。当時はチャンネルが3つしかありませんでしたし、番組開始当時の60年代は2チャンネルのみでした。

『クロスローズ』は同局のソープオペラで、今もまだ続いている『コロネーション・ストリート』に比べると、かなり資金不足だったようです。ノリーは自伝で『コロネーション・ストリート』を非難し続けているところが面白いのですが、彼女が怒るのももっともで、彼らはちゃんと給料をもらっている。しかし『クロスローズ』では、衣装は自前でした。信じられないことばかりなんです

私は以前、『コロネーション・ストリート』を制作していたグラナダ・テレビジョンで働いていましたが、番組を非常に誇りに思っていました。でも『クロスローズ』は社内のちょっとした厄介案件みたいなずさんな扱いを受けていました。そのためセットがぐらついたり、撮影中にマイクが落下したりしたことがあったのは有名な話です。

その環境を作り出したのはATVです。だから私は、勇気あるキャストたちの行動力を敬愛しています。このドラマで彼らに敬意を表することができてうれしく思っています。

画像2: ラッセル・T・デイヴィスがイギリス芸能史に残る降板劇を全3話で映像化

―どんなリサーチをしましたか?誰に話を聞き、何を読みましたか?

『クロスローズ』のキャスト全員と話すことができ、今までで一番楽しいリサーチでした。朝から延々とベニーと話し、ダイアンと話し、アダム・チャンスと話したんです。『クロスローズ』でスターになり、『ドクター・フー』のコンパニオン、ゾーイ・ヘリオットを演じた女優のウェンディ・パットベリーなど60年代の出演者とも話しました。フロアマネージャーやプロダクションマネージャーらスタッフにも。その中にドロシー・ホブソンという、『クロスローズ』で起こったことについて本も出している素晴らしい女性がいました。

彼女は当時リサーチャーとしてATVで働いており、偶然にも、彼女はノリーがクビになった数週間、スタジオにいたのだそうです。彼女は貴重な情報をたくさん教えてくれました。最も驚くべきは、ノリーがいかにスタッフたちから愛されていたかとうことです。私はそのことについてずっと考えていました。私たちが聞かされているのは、25年間、いや40年以上の間に化石化した逸話なんじゃないか?本当は嫌われていたのでは?と。しかし、調べれば調べるほどそれが真実であることがわかりました。

彼女は仕事では明らかにタフで、はっきりと意見を言う人でした。でも、もし彼女が男性だったら、誰も目くじらを立てなかったと思います。そして、彼女が職場でキレるときは、現場スタッフにではなく、上層部に対してでした。素晴らしいと思います。彼女はちゃんと、スタッフたちに愛されていたのです。

―ノリーは複雑な女性でしたが、彼女について何か驚いたことはありましたか?

彼女のことをただのソープスターだと思っていたので、今回調べて彼女の経歴の幅の広さに驚きました。歴史的にも並外れています。彼女は1938年、発明家のジョン・ロジー・ベアード(※)が自ら企画した、世界初のカラーテレビ放送に出演した女性でした。そして英国で初めて首相(ハロルド・マクミラン)にインタビューした女性であり、初めてお昼のトーク番組のプレゼンターを務めた女性でもあります。

※ジョン・ロジー・ベアード(1988-1946)スコットランド出身の電気技術者・発明家。史上初めて動く物体をテレビで遠距離放送することに成功した。

彼女はまさにTV界の先駆者であり、さらに演劇界のスターでもありました。彼女は1949年初演のミュージカル『ブリガドーン』のオリジナル・キャストとして1000回以上を講演。さらにATVのプロデューサーあり、ビジネスウーマンでもあったことも注目です。彼女は『クロスローズ』のプロデューサーではないのですが、お昼のTV番組の誕生に大変貢献しました。彼女は1954年にニューヨーク大学に1年間留学し、アメリカのTV番組制作を学びイギリスに持ち込みました。ものすごくデキる女性でした。だから彼女のクビはよりショッキングだったのです。

男性は彼女を定義づけすることが難しかったのではないかと思います。彼らには彼女のビジネスと成功と演技しか見えなかった。でも、それは決して彼女のすべてではない。だから私は彼女のさまざまな一面をひも解いていく作業が大好きでした。仕事場でのノリーだけでなく、プライベートのノリーについても多くを学ぶことができます。

画像3: ラッセル・T・デイヴィスがイギリス芸能史に残る降板劇を全3話で映像化

―このドラマは1980年代が舞台ですが、現代の出来事と共鳴する部分が多いように感じます。それはなぜだと思いますか?

仕事における女性の役割は少しも変わっていないと思います。女性が理不尽な扱いを受けることは、いまだに起こっています。私たちは多くの「#MeToo」ストーリーの段階を経てきました。そのような物語はまだまだ続くでしょうが、私はそれ以上に大きな物語があると思います。男性は性的な場面だけではなく、とにかくありとあらゆる場面で全面的に女性を酷く扱います。このドラマはどんな職場にも共通する、男性が女性に対して見せる侮蔑や無関心を描いているのです。差別的な上司や依怙贔屓、敵、ライバル、言い争い、確執が何十年も続くような職場で働いている人がほとんどでしょう。そういう点は今の視聴者も共感すると思います。

―英国TV界をけん引してきたTV脚本家として、TV業界に関する番組を書くのはいかがでしたか?

私はグラナダ・テレビジョンで『Children’s Ward』(1989-2000)のような子ども向けソープオペラを担当しました。今回のような視聴者の記憶を蘇らせる作品を作ることはとても楽しかったです。このドラマは『クロスローズ』を観たことがない人でも楽しめるドラマです。なぜなら、王冠を失った女王の物語ですからね。

―『NOLLY ソープオペラの女王』は40年以上前が舞台で、主人公は若くはない女性です。若い視聴者はこの番組から何を感じ取ると思いますか?

非常にニッチな物語であることは承知していますが、実はどの作品もニッチな物語なのです。『ストレンジャー・シングス』のホーキンスでの超常現象はとてもニッチで、誰もあの町に行ったことがない。『ザ・クラウン』もニッチです。だからこの作品では、文字通り、「権力者の失脚」という古典的な物語を見ることができます。強大な権力を持つ人物が失脚し、その理由と生き延びる方法の謎を描いているのです。このようなことは誰にでも起こりうることです。誰もが仕事でひどい目にあったことがありますよね。私生活を暴露されたり、詮索されたりすることもある。公の場で恥をかくということは、誰もが経験することです。ソーシャルワーカーであろうと、教師であろうと、ティーンエイジャーであろうとネット上で一言間違えれば、非難轟々の嵐です。ソーシャルメディアが発明される前、公共の場はテレビでした。ノリーはそういう目にあった最初の人でした。

画像4: ラッセル・T・デイヴィスがイギリス芸能史に残る降板劇を全3話で映像化

―ヘレナ・ボナム・カーターとの仕事はどうでしたか?

とても楽しく、光栄で、たくさん笑いました!彼女はとても愉快な人です。映画で忙しい人だから無理だと思ったのですが、台本を送ると即座に「Yes」の返事が来て驚きました。彼女は私たちみんなと同じように、ノリーを正しく演じようと強く決意していました。ノリーの家族はひとりもおらず、彼女の偉業を伝える人は誰もいません。なので、私たち全員が特別にノリーを守ろうとしたのだと思います。ヘレナにはクールな正直さと優しさがあり、それが持ち味です。でも彼女はノリーの喜びも捉え、生き生きとした演技で満たしてくれました。過去最高のパフォーマンスのひとつですね。大好きです。

―ヘレナを取り巻くキャストも素晴らしいですね。

初めてリハーサルに行ったとき、私は遅刻してしまったんです。キャストたちはすでにそこにいて、既にもう『クロスローズ』のキャラクターになっていました。衣装もメイクもなし、素の状態なのに!ベニーとミス・ダイアンとデヴィッド・ハンター、バーバラ・ハンターがそこに存在していました。椅子に座ったまま何も話さず、20秒間だけ自分の時間を持ちました。とても不思議な気分でした。私は純粋に『クロスローズ』が大好きだからです。番組をチープに見せたりくだらなく見せたりは絶対したくなかった。凄まじい努力のうえで作られていた番組なのだとしっかり伝えたかったのです。とても楽しかったですよ。

『NOLLY ソープオペラの女王』
【配信】 「スターチャンネルEX」
https://www.amazon.co.jp/channels/starch
《字幕版》 12月1日(金)より毎週金曜日配信中(全3話)
【放送】 BS10 スターチャンネル
《STAR1 字幕版》 2024年1月8日(祝・月)より 毎週 月曜23:00 ほか
※1月3日(水)12:30より 字幕版 第1話 無料放送
公式ページ:https://www.star-ch.jp/drama/nolly/sid=1/p=t/

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