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「4人」でいるための告白。傷つけられる側は、傷つける側にはならないのか? 『いちばんすきな花』10話

  • 2023.12.19
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ドラマ『いちばんすきな花』(フジ系)は、『silent』脚本の生方美久とプロデューサーの村瀬健がふたたびタッグを組む作品。多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠が主演を務めるクアトロスタイルで描かれる。テーマは「男女の間に友情は成立するのか?」。第10話は、4人のなかで発生した恋の矢印が、それぞれの落としどころを見つける展開となった。

2人組よりも4人で会うことを優先

4人に志木美鳥(田中麗奈)が加わっても、5人組にはなれなかった。美鳥は、春木椿(松下)、潮ゆくえ(多部)、深雪夜々(今田)、佐藤紅葉(神尾)それぞれと2人組にはなれても、5人組にはなれない。それは、どこまでも「4人」が「4人」であるという確かな証拠にも思える。

だからこそ、なぜ夜々があらためて椿に告白したのか、不思議でならない。タイミングを同じくして、紅葉もゆくえに気持ちを伝えている。夜々も紅葉も、結果は漠然とわかっていたはずだ。それでも、時間と場所をつくって明確な答えをもらいにいっている。

きっと、夜々も紅葉も、恋が叶(かな)わないことは承知の上だった。わかっていて告白したのは、これからも「4人」でいたいと願ったからだろう。

曖昧な気持ちを持て余したままだと、4人で過ごすうちに、ふとしたことで隠していた気持ちがこぼれるかもしれない。それをきっかけに、恋愛絡みのイザコザという“わかりやすい”、“よくある”トラブルが発生し、4人の関係が自然消滅してしまう恐れもある。また、椿が引っ越してしまえば、なかなか4人で集まれなくもなるだろう。

夜々と紅葉は、2人組になることよりも、4人で会い続けることを優先したのだ。「男女の間に友情は成立するのか?」がテーマのドラマにおいて、この選択が持つ意味は強い。恋愛を超えた4人が、血縁関係のない「疑似家族」のようになっていく。4人が4人でい続けるための選択が、4人を家族のような関係にしていくとも言える。

わかりやすい二項対立は成り立つのか

傷つけられる側は、常に傷つけられる側にいるのだろうか。時と場合によって、無自覚にも、傷つける側にまわってしまうことがあるのではないだろうか。

夜々と紅葉は居酒屋で飲んでいたところ、紅葉のバイト先の後輩と出くわした。夜々と紅葉を恋人同士だと決めてかかる後輩たちは「佐藤さんと付き合ってて、楽しいですか?」とまで絡む始末。夜々は「知らないやつのこと知ったように言うな!」と応酬する。

この場合、あからさまに紅葉のことを軽い存在として扱っている後輩たちが「傷つける側」で、思いこみや臆測で勝手なことを言われ、尊重されない夜々や紅葉が「傷つけられる側」に分類されるかもしれない。

保健室登校をしている望月希子(白鳥玉季)が、いざ教室の前まで行くと、周囲からささやきが聞こえてくる。「ほら、後ろ」「入ってくればいいのにね」と、希子の耳に入るか入らないかの距離で発される声。希子はそれを「ネットニュースの見出しみたいな感じ」と評し「(それを)信じられる人はいいよね、傷つける側にまわれて。傷つかなくて済むから」と続ける。

希子のために保健室に来ている穂積朔也(黒川想矢)も含め、彼らもまた「傷つけられる側」にいるように見える。同じように、「勘違いされる人生だった」美鳥も、生きづらさを感じてきた椿やゆくえも、「傷つけられる側」に分類されるだろう。

傷つける側と傷つけられる側。とてもわかりやすい二項対立だ。それでも、傷つけられる側だったはずのゆくえたちが「傷つける側」にまわることもあり得る。

実際、ゆくえたち4人と椿の家で食事をともにした美鳥は、5人ではなく「4人+1人」だと感じ、仲間に交わろうとはしなかった。その気配を察知して、夜々たちが美鳥の心境を思いやっている描写もある。

傷つけられる側が、無意識に周囲に壁をつくり、他者を傷つけている場合もあるだろう。生きづらさを盾に、自分自身を必要以上に「尊重されるべき立場」に置く態度こそ、不遜(ふそん)なふるまいに映るかもしれない。

家族ではない共存関係という選択

「好きな花だけ集めたからって、良い花束にはならない」。椿の弟・春木楓(一ノ瀬颯)の言葉だ。大事なのは組み合わせである、人間関係も一緒だ、と。なんでも話せる、気を許せる、お気に入りの相手を集めても、その場が居心地の良い空間になるとは限らない。

ゆくえ・椿・夜々・紅葉は4人とも美鳥のことが大好きで、美鳥も4人それぞれに伝言を残していくほどの思い入れがある。それにも関わらず、5人組にはなれなかった。

夜々は椿のことが好きで、紅葉はゆくえのことが好き。ともにしっかりと思いを伝えたけれど、結果的に失恋してしまった。少なくとも、一般的な価値観に照らし合わせると、再び4人組になることは難しい。

それでもゆくえたちは、世間の尺度なんて関係のないところで、自分たちだけの“独自の組み合わせ”をつくろうとしている。まるで、いちばんすきな花だけを持ち寄って、唯一の花束になろうとしているかのようだ。

血縁関係ではない疑似家族。家族ではない共存関係。椿が引っ越してしまうのを前に、4人で「ちょっとだけ住む」ことにした彼らは、誰にも真似できない唯一無二の関係性に、また一歩踏み出した。

ゆくえたちがそれぞれ1本の花だとしたら、美鳥はそれらを束ねるフラワーラップのような存在に思える。美鳥がいてこそ4人がまとまるのだとしたら、確かに彼らは“5人組”にはなれない。いつまでも、どこまでも4人でい続けることを彼らが選択するのだとしたら、そこは生きやすい空間だ。たとえどんなに歪(いびつ)でも、たとえどんなに、他者を受けつけないものだとしても。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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