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新しくモードとフェミニズム展、繰り返し行きたいラ ギャラリー ディオール。

  • 2023.12.14
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モンテーニュ通りのディオール本店。その脇のフランソワ・プルミエ通りに入口があるラ ギャラリー ディオール。芸術と思い出が出合う場所として2022年春にオープンして以来、半年ごとに展示されるアーカイブピースが入れ替わり、新しいテーマで展覧会が開催されている。11月24日に始まったのはメゾンと女性アーティストとのコラボレーションにフォーカスを置いた展覧会で、開催は5月13日まで。見逃さないように、早めにサイトで予約をしておくのがいいだろう。入り口前には予約なしの人が並ぶ列もあるが、これは待ち時間を覚悟して!という状況である。

新しい展示にはクリスチャン・ディオールと彼のクリエイティビティを刺激した女性たちとの対話、そしてマリア・グラツィア・キウリと女性アーティストたちのモードを介しての対話を見ることができる。後者はエントランスホールに掲げられた「We should all be feminists(我々はみなフェミニストであるべき)」のマニフェストから早くもスタート。これはマリア・グラツィアが発表した2017年春夏コレクションのTシャツに書かれていたメッセージで、作家チママンダ・ンゴズィ・アディーチェのエッセイのタイトルである。展覧会鑑賞のスタートはエレベーターで3エム・エタージュへ上がって。なおカフェが2エム・エタージュにあるので場合によっては、こちらから始めることもできる。

左: 2017年春夏プレタポルテコレクションのインスピレーション源となったこの『We should all be feminists』が、地上階のエントランスホールでブリジット・ニーデルマイルの作品となって掲げられている。右: 展示より。クリスチャン・ディオールは私生活では母、妹に、そしてクチュールメゾンではご覧のように女性のチームに囲まれていた。photos:(左)©️Adrien Dirand、(右)Mariko Omura

13のテーマからなる展示をフェミニズムにフォーカスを置いて、見てゆこう。最初は常にクリスチャン・ディオールの子ども時代から始まるバイオグラフィーの部屋で、新展示では彼と女性との対話にポイントが置かれている。たとえば、彼がまだクチュールメゾンを始める前のアートギャラリー「Jacques Bonjean(ジャック・ボンジャン)」の共同経営者時代。彼がマックス・ジャコブの紹介で出会った若き女性シューレアリストのレオノール・フィニの個展を1932年に開催した。そのフィニの作品から『Deux founesses』(1932年)を展示。フィニはマリア・グラツィアの2018年春夏クチュールコレクションのインスピレーション源のひとりでもある。クリスチャン・ディオールの新たなポートレート(1953年10月)は女性アーティスト、ノラ・オーリックによるものだ。彼女は作曲家で「フランス6人組」のメンバーのジョルジュ・オーリックの妻。ジャック・ボンジャンの画廊でも彼女の作品を展示したことがあった。クチュールメゾン時代もクリスチャン・ディオールは周囲を女性たちに囲まれていて、メゾンが雇用していた3名のモデルもここで紹介されている。彼の大きなインスピレーション源である亡き母から名前をとったワンピースMadeleineも展示中だ。

左: ノラ・オーリックによるクリスチャン・ディオール。肖像画が描かれたのは1953年。右: 壁に掲げられているのはレオノール・フィニの『Deux founesses』(1932年)。ドレスは1947年春夏クチュールコレクションのColette。photos:Mariko Omura

ディオール社の社員だった3名のハウスマヌカンにもスポットライト。クリスチャン・ディオールにインスピレーションを与える存在だった彼女たちは、ドレス名にもなっている。左からヴィクトワール、アラ、タニア。photo:Mariko Omura

2つ目の「魔法の庭」と3つ目の「ディオール・スタイル」では、2名の女性写真家の写真がフォーカスされている。前者は高木由利子が昨年東京で開催された『ディオール、夢のクチュリエ』展のために撮り下ろした中から、クリスチャン・ディオールからマリア・グラツィアまで歴代のクリエイターたちの花がテーマのドレスの写真とそのドレスの展示である。照明を落とした空間に、美しく漂う写真の「振れ」が生み出す夢の瞬間が続く。その中を一度進んで、また再び戻って......。

ディオールが愛した庭で、高木由利子の写真とディオールの花のドレスが優美にワルツを踊っているよう。高木由利子はモデルにダンサーを起用し、"静止4秒、ゆっくりとした動き4秒"で撮影を行った。©️Adrien Dirand

左: ラフ・シモンズによる2015年秋冬クチュールコレクションから、点描画風モチーフのドレスと高木由利子による写真。右: 左はジャンフランコ・フェレによる1995年春夏クチュールコレクションのドレスと高木由利子による写真。右のドレスはイヴ・サンローラン。会場では写真なしで単独展示されているドレスも多数。photos:Mariko Omura

「ディオール・スタイル」は創設者クリスチャン・ディオール、イヴ・サンローラン、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、そしてマリア・グラツィア7名それぞれの代表的なシルエットが右側に並び、その向かいの壁には女性アーティスト、カテリーナ・ジェブによるそれぞれの服をテーマにした作品が。スキャンポートレートと称される彼女の作品は、ひとつの被写体を少しずつ場所を変えてスキャナーにかけ、その何百枚ものスキャンからイメージが創り上げられている。現実と異なるプロポーションが醸し出す不思議な感動。なお、この展覧会中クリスチャン・ディオールの仕事場の椅子、1947年の有名なバースーツのスキャンポートレートの展示も。9つ目のテーマ「18世紀」では彼女によるスキャンポートレートが、鏡の効果で無限に続く会場で異彩を放っている。

奥のクリスチャン・ディオールから手前のマリア・グラツィア・キウリまで7名によるディオール・スタイル。左の壁にカテリーナ・ジェブのスキャンポートレートが並ぶ。©️Adrien Dirand

カテリーナ・ジェブの作品はほかのテーマでも展示されている。©️Adrien Dirand

5つ目のテーマの「芸術的親和力」では、創設者クリスチャン・ディオールに始まる芸術界とメゾンとの繋がりを毎回語っていて、今回は女性アーティスト、ニキ・ド・サンファル(1930~2002年)をクローズアップ。彼女とジャン・ティンゲリーがポンピドゥー・センター脇に1983年に制作した『ストラヴィンスキーの噴水』が11月に修復されたという話題もあり、彼女の仕事を知らない世代にもその名が知られたところである。この展示会場では中央に彼女の有名な彫刻ナナのシリーズからの1点を、マルク・ボアンとマリア・グラツィアによるプレタポルテが囲むという展示だ。ニキとディオールの関係は、マルク・ボアンによるクリスチャン・ディオールを着たニキがモデルとして雑誌に登場したところから始まる。その後、彼は彼女のための服をデザインし、アーティスト活動を始めた彼女の作品をコレクションし、また彼女が制作した映画『ダディ』(1974年)の衣装も担当し......と、両者の間には1960年代から友情と信頼が築かれていた。この映画で子ども時代に父から性的暴力を受けたことにニキは触れているが、彼女がアート活動を始めたのも病んだ精神を芸術セラピーで癒すためだった。反抗的、攻撃的作品を制作していて、キャンバスに固定した複数の絵の具の袋をカービン銃で離れた距離から撃つという射撃絵画のアートパフォーマンスが有名である。こうしたニキの世界はマリア・グラツィアにとってもおおいなるインスピレーション源となり、2018年春夏コレクションでニキとマルク・ボアンに捧げるコレクションを発表したのだ。

ニキ・ド・サンファルとディオールの部屋は小さいながらも充実した展示だ。中央はカラフルで豊満な女性のパワフルな彫刻『Nana(ナナ)』シリーズから。ナナはフランス語の話し言葉で女を意味する。左のワンピースは1970年のオートクチュールコレクションで、マルク・ボアンがニキによるおなじみのモチーフをドレスに取り入れたスペシャルクリエイション。©️Adrien Dirand

左: スペインのグエル公園にインスパイアされた彼女は、イタリアに彫刻庭園「タロットガーデン」を作るための資金を求めて自身の名を冠した香水を発表した。そのお披露目パーティのドレスをマルク・ボアンがデザイン。右: 1982年、ニューヨークで行われたストリート・フェスティバル・オブ・ジ・アーツにて香水のお披露目がされた。ナナのミニチュアがボトルに乗ったスカルプチャー・パフュームと呼ばれる香水を手にしたニキとアンディ・ウォーホル。ふたりを撮影したのは、当時活躍していた有名なセレブリティ写真家ロン・ガレラである。photos:Mariko Omura

ニキの自伝的要素をベースにした、彼女とピーター・ホワイトヘッドの共同制作による映画『Daddy』(1974年)。マルク・ボワンが衣装を担当した。photo:Mariko Omura

2018年春夏プレタポルテでマリア・グラツィアはニキの1970年代のモチーフも取り入れて、彼女にインスパイアされたコレクションを発表。その時のムードボードやワンピース、ミノディエールなどが展示されている。photos:Mariko Omura

次のテーマ「アトリエ」では、通常は真っ白いトワルのドレスが埋め尽くす会場だが、今回は赤い糸の刺繍が施された、アートと職人仕事が交差する白いトワルのドレスやビュスティエなどを展示中だ。これらはマリア・グラツィアとエリナ・ショーヴェとのコラボレーション。暴力を振るわれた目に見えない被害者たちをテーマに「A Corazon Abierto」(開かれた心臓)と題され、メキシコシティで行われたディオールの2024年クルーズコレクションの最後にパフォーマンスとして発表された。その時はドレスだけだったが、今回の展示のためにケープやビュスティエが新たにプラスされている。エリナ・ショーヴェと16名の手芸家たちが制作した仕事を1点ずつ、鑑賞しよう。

情熱、愛、血を象徴する色の赤で刺繍された白いドレス群。妹が家庭内暴力の被害者というエリナ・ショーヴェはフェミサイドを非難する言葉やデッサンを刺繍のモチーフに選んでいる。©️Adrien Dirand

左: メキシコのショーでのパフォーマンス後、エリナ・ショーヴェの作品はその繊細さゆえに、すぐにディオールのアーカイブ所蔵に。ショーの直後に現地の女性カメラマンMaya Godedがモデルたちが着た服を撮影していて、会場ではその18点の写真を展示している。右: 赤い糸が描くモチーフには時には皮肉も。1点ずつじっくり鑑賞しよう。photos:Mariko Omura

キャビネ・ドゥ・キュリオジテ風に構成された「不思議の部屋」では、ジュディ・シカゴやジョアナ・ヴァスコンセロスなどマリア・グラツィアをインスパイアする女性クリエイターたちが再解釈したアートリミテッド・エディションの「レディ ディオール」も展示。マリア・グラツィアが大切にしている女性同士の団結心の象徴が力強く闇に浮かび上がるのだ。なおこのほかにも、たとえばエヴァ・ジョスパンの刺繍のトワル装飾など、女性アーティストたちの仕事は1から13のさまざまなテーマにちりばめられている。それらとアーカイブからの美しいドレスの数々の展示に目を奪われれば、あっという間に時間が過ぎてゆく。

左: 「不思議の部屋」ではミニチュアも含めて、見ごたえたっぷりの展示。右: 亡き女性アーティストのクロード・ラランヌが2017年のクチュールコレクションのために制作した銅素材のジュエリー。「舞踏会」のテーマでは、ピーター・マリノの依頼でモンテーニュ通りの本店のために彼女が制作した銀杏の葉のベンチも展示されている。photos:(左)©️Adrien Dirand、(右)Mariko Omura

「舞踏会」のテーマの会場にはジュディ・シカゴの作品2点が掲げられている。©️Adrien Dirand

左: 「ゴールデン・パワー」では香水ジャドールのCF映像、ゴールドのドレス、そしてコンスタンス・ギゼによる作品Troubillonを展示。右: マリア・グラツィアによるドレスMillefioré。2021年の香水ミス ディオールの広告キャンペーンの撮影でナタリー・ポートマンが着用。後方を囲むエヴァ・ジョスパンによる作品はインドのアトリエChanakyoが制作した。photos:Mariko Omura

最後のテーマ「ディオールをまとったスターたち」まで会場を回ってメゾンの歴史を歩いた後は、エレベーターに乗らずに階段で出口へ向かおう。吹き抜けの壁を飾るブルー、グリーン、ピンクといったコロラマの魅力に圧倒されながら地上階へと降りてゆく幸せ。最後の一瞬まで夢がぎっしりと詰まったギャルリーディオールである。

テーマ「ディオールをまとったスターたち」の星が輝く会場。古い作品も含め、7本の映画の抜粋の鑑賞ができる。©️Adrien Dirand

コロラマ。うっかりすると見逃してしまいそうなクリスチャン・ディオールのポートレートが螺旋階段を降りる来場者たちを見送る。photos:Mariko Omura

La Galerie Dior11, rue François 1er75008 Paris開)11:00〜19:00(カフェ11:00~18:30)休)火、1月1日、5月1日、12月25日料金:12ユーロ予約www.galeriedior.com/ja

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