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わからないからこそ、知りたい。読めば家族に会いたくなるエッセイ集

  • 2023.12.13

どんなに仲良し家族でも、知らないことはたくさんある。むしろ家族だからこそ聞けないこと、言えないことのほうが多いのかもしれない。

フリーライターのスズキナオさんは、「家族のことを知りたい、わかりたい」、そんな思いから、妻と子、双方の両親、きょうだいらに取材した。そうして掘り起こしたエピソードをエッセイとして『小説新潮』で連載。このたび、『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)という1冊の本にまとめた。

他人の家族の内輪話なんて、面白いの? と思った方は、まずは「まえがき」を読んでみてほしい。新潮社のウェブサイトで試し読みができる。

小学生のころ、作文の宿題はすべて「元・文学少女」の母に代筆してもらっていたスズキさん。夏休みの終わりに、母が書いた作文を左に、白紙の原稿用紙を右に置いて一文字ずつ書き写していた。その様子を横で見ていた父が放ったひとこととは......。

「え、そこ?」と心の中でツッコミながら、笑いがこみ上げてきた。さらに、今回の取材によって、実は母がスズキさんだけでなく、2人の妹たちのゴーストライターも務めていたこと(学年に応じて書き分けるというスゴ技も!)、父も昔、小説を書いていたことが判明。「いつかふいに、タンスの奥からでもそれが見つかったなら、私たち家族にとってそれは世紀の発見のようなものだ」とスズキさんは書いている。

たとえ内容がどんなにつまらなかったとしても、まだ見ぬ父の姿がそこにありそうで、私はどんな話題作よりも、その幻の小説を読む日を心待ちにしているのである。(「まえがき」より)

本編も期待を裏切らない。「わが家の味」の頼りなさ、義父と過ごした夜のこと、妻の「推し」の話、旅の夜に聞いた息子の本音。決してドラマチックではないけれど、くすっと笑える話もあれば、ほろりとさせられる話もあり、家族との距離感って実際、こんな感じだよね、と共感する。もちろん、自分の家庭とはずいぶん違うし、家族のかたちはさまざまだけど、それでも、なんだか「わかる」のだ。

一つの出来事に対して、それぞれが違った見方をしているのも面白い。そりゃあ別人なのだから当たり前だけど、そうしたなにげない思い出の数々が、別の人格を持って生まれた者同士を家族たらしめている。スズキさんのフラットな目線が、そう気づかせてくれる。

試しに、年末年始に家族が集まる機会があれば、「あの時のこと、覚えてる?」と聞いてみるといい。きっと「そんなふうに思ってたの?」という新鮮な驚きとともに、あなたと彼らを結びつける、かけがえのない思い出たちが見つかるはずだ。

■スズキナオさんプロフィール
1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。 ウェブサイト『デイリーポータルZ』などを中心に散歩コラムを執筆中。 著書に『深夜高速バスに100 回ぐらい乗ってわかったこと』『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(以上スタンド・ブックス)、『関西酒場 のろのろ日記』(ele-king books)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、『「それから」の大阪』(集英社新書)など。酒場ライター・パリッコとの共著に『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)などがある。

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