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メディアが報じないライドシェアの重大リスク…「日本は遅れている」と導入をあおって得をするのは誰か

  • 2023.12.13
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アメリカのUberのように一般人が自家用車でタクシーの代わりをできるライドシェア。日本でも政治家や著名人が導入すべきだと主張している。タクシー業界を取材した田幸和歌子さんは「実はアメリカではライドシェアでの性暴力事件が多発。世界でも導入していない国の方が多い。そんな問題ありのライドシェアを、日本はタクシー不足を解消する前に始めようとしている」という――。

大阪府の吉村洋文知事(左)からライドシェアに関する要望書を受け取る小泉進次郎元環境相
大阪府の吉村洋文知事(左)からライドシェアに関する要望書を受け取る小泉進次郎元環境相=2023年12月1日、国会内
メディアが報じようとしない「ライドシェア」の危険性

12月1日、大阪・関西万博に向けライドシェア導入を目指す吉村洋文大阪府知事が小泉進次郎元環境相と面会。吉村知事は、ライドシェアの運営にタクシー会社だけでなく新規事業者の参加を認めることを提案した。小泉氏も「万博では空飛ぶクルマも自動運転もやるのに、ライドシェアがないなんて、そんな滑稽こっけいなことない」と賛同の意を示した。

観光地などでのタクシー不足が日々テレビなどのメディアで盛んに報じられ、ライドシェア導入の必要性が叫ばれている。「ライドシェアに反対するのは、タクシー業界が既得権益を守りたいから」などと言う者もいる。

しかし、メディアが報じようとしない「ライドシェア」の危険性があると、自交総連(ハイヤー・タクシー、自動車教習所、観光バス労働者の組合)書記長の髙城政利氏は指摘している。

「ライドシェアはUberなどのアプリに登録すれば、誰でも行うことができるので、本来タクシードライバーに必要な2種免許を持たない素人のドライバーが、アルコールチェックや体調確認を受けることなく、人命を輸送してしまうわけです。また、アプリの登録を誰かが代表してやっておけば、オーダーが来たとき、免許を持っているのか、お酒を飲んでいるのかもわからず、体調が悪くとも睡眠不足でも、とりあえず手が空いている人が対応するなんてこともできてしまう。

外国人を使って中抜きするなんてことも考えられます。利用者の命と安全が危険にさらされるわけです。斉藤鉄夫国土交通大臣は、8月25日の会見で『ライドシェアについては運行管理や車両整備に責任を負う主体を置かないままに、自家用車のドライバーのみが運送責任を負う形態を前提としており、安全の確保の観点から問題がある』と指摘しています。

責任はドライバー個人が負うことになっているのも、大きな問題ですよね。ライドシェアが導入されると、実際に誰が乗るのかわからないということで、車両保険もあがるでしょうし、事故があっても保険会社は支払わないケースが増えていくことが予想されます」(髙城氏)

タクシー業界の規制改革をすべきだと導入が推進されてきた

日本でライドシェアを導入しようとする動きは、2015年以降ずっと続いてきた。推進派は「規制改革会議」「国家戦略特区」「規制のサンドボックス制度」「新しい資本主義実現会議」などの政府会議や制度を用いて、解禁を主張し続けてきた。

そこにコロナ禍の影響を受けてのタクシー乗務員減少と、需要の戻りによる需給のミスマッチが起こり、いよいよ本格的にライドシェア導入の声が高まっているのが現状だ。

そうした流れの中、8月19日には菅義偉前首相が「観光地が悲鳴を上げている」「現実問題として(タクシーが)足りない。これだけ(運転手の)人手不足になってきたら、ライドシェア導入に向けた議論も必要だ」と発言。

橋下徹氏もライドシェアを歓迎する発言をしたが…

さらに、8月27日には河野デジタル相がフジテレビのニュースで橋下徹氏と対談し、橋下氏が「先進国でライドシェアをやっていないのは日本だけ」と発言した。それを受けて河野氏が「例えばタクシー呼んでから何分で来る割合が何パーセントとか、駅の待ち時間を何分以内にするなどの水準を作り、できないなら自動的にライドシェアを入れるというようなルールを決めれば良い」という理論も展開している。

自交総連書記長の髙城政利さん
自交総連書記長の髙城政利さん(提供=髙城さん)

しかし、そもそもの橋本氏の発言には大きな嘘があったと髙城氏は指摘する。

「先進国でライドシェアを導入していないのは日本だけというのは、悪質なデマです。ヨーロッパ全域と韓国、台湾はライドシェアを厳しく禁じています。グレーゾーンで営業開始後に、多くの問題が生じたことで、これは無理だろうと、政府や司法機関が禁止したのです。これらの地域でUberなどを使って実際に来る車両は、ハイヤーかタクシーの認可を受けた事業者であり、そういう意味で、日本でUberのアプリからタクシーを呼べることと同じなんですよ。また、ライドシェアなどで働くギグワーカーに労働者の権利を認める判決も、世界中で相次いでいます」

アメリカではライドシェアでの性的暴行事件が年間998件

さらに、アメリカでは強盗や性犯罪でライドシェアのドライバーが加害者にも被害者にもなるケースが増えているという。

ここに、衆議院国土交通委員会(2023年3月22日)の政府答弁で示されたデータを引用しておきたい。

【図表1】日本のタクシーとアメリカのライドシェアの比較(2020年)
出典=第211回国会「国土交通委員会第5号(令和5年3月22日)」国土交通省自動車局長・堀内丈太郎氏の答弁より

他に、自交総連副中央執行委員長の德永昌司さんは次のような問題点を指摘する。

「タクシーが人手不足だからライドシェアしかないと言う人がいますが、確かにコロナ禍の3年間でタクシードライバーは全国で約6万人、2割減少し、その影響でタクシーに乗りにくい状況が生じているのは事実です。でも、最近ではタクシードライバーが増えており、3~6月で約1000人増加しました。

これは運賃の見直しが進み、収入が上がったためですが、ライドシェアが解禁されれば収入は当然激減し、プロのドライバーがワーキングプアになっていくことが予想されます。そもそもUber Eatsも生業として成り立つかと期待されましたが、ワーキングプアが拡大していったばかりで、それで『生活も十分にできないような産業をますます増やしていいのか』という問題点もあると思います。

導入を促進する人たちは、儲かるなら市場参入したい。もちろん最初は良いんです。Uber Eatsも最初は何十万円も稼いでいるなんて人がいましたが、登録者が増え、やる人が増えてからは、マクドナルドの前に地蔵のように並んで注文が入るのをひたすら待つ人だらけというのが現状ですよね?」

中央区八重洲
※写真はイメージです
「過疎地での移動を便利にするため」という主張は詭弁

過疎地の交通問題を解決するためにライドシェアが必要だという主張もあるが、それは詭弁きべんだと、髙城さんは言う。

「お客さんがいないところでライドシェアをやっても、そもそも人がいませんから、結局都市部に集中してくるわけです。これは、10年以上ライドシェアを導入してきたアメリカで証明済みです。地方在住者は地元では稼ぎが悪いからと、長時間かけて大都市や空港に行って仕事をします。アメリカのライドシェア2大企業(UberとLyft)の輸送回数の70%が、たった9つの都市圏に集中していることからその実態がよくわかります。

日本でも確実に同じことが起こるだけでしょう。逆に、今の京都や鎌倉のような交通渋滞の酷い観光地で、ライドシェアを導入し、自家用車で来てくれと言ったら、交通渋滞がさらに酷くなるのは目に見えています。日本のバス・タクシー会社は、人口の多い地域で収益を出しつつ、過疎の路線を維持してきたわけですが、ライドシェアが合法化されれば廃業・倒産が相次ぐでしょう。

安全にコストをかけているバスやタクシーと、何でもありの素人のライドシェアでは公平な競争になりませんから、お金がある都市部にますます車が集まり、過当競争と交通渋滞が激化する一方、過疎地はバスもタクシーもライドシェアもない交通空白地帯が増加すると思われます」

ライドシェア慎重論があるのに、なぜ導入を急ぐのか

世界中で禁止・規制されているライドシェアに、日本は後乗りで時代に逆行する形で突き進もうとしている。国土交通省はライドシェアを容認しておらず、自民党タクシー・ハイヤー議員連盟(会長・渡辺博道元復興相)も慎重論を唱えているにもかかわらず、だ。

自交総連副中央執行委員長の德永昌司さん
自交総連副中央執行委員長の德永昌司さん(提供=德永さん)

なぜなのか。誰が何のためにライドシェアを導入したいのか。この問いについて、髙城氏はこんな指摘をする。

「ライドシェアを導入して誰が得するかということです。そこにはやはり利権があると思います。例えば、ソフトバンクはソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じて、中国のDiDiに約120億ドル、東南アジアのGrabに約30億ドル、インドのOLAに約20億ドルなど、世界のライドシェア運営会社に巨額の投資を行っています。

孫正義代表は2018年3月期の決算説明会において『ライドシェア業界全体で、われわれが筆頭株主である』と発言し、同年7月の講演で『ライドシェアを法律で禁じている。こんなばかな国はない』などと政府を批判していました。また、楽天は2015年3月、米ライドシェアのLyftに3億ドルを出資。以降、三木谷浩史社長は『新経済連盟』の代表として、政府に何度もライドシェア解禁を要求し、Lyft社が2019年にナスダック上場したときには楽天が13%の株を保有していたこともわかっています」

海外のライドシェア運営会社に巨額の投資を行うソフトバンク

德永氏もこう続ける。

「経済財政諮問会議で、今の日本経済をなんとかしなきゃいけないということで、ニューフロンティアを作るんだと言い、ライドシェアのような象徴的なものを早く進めるべきだという議論がなされています。利用者は二の次のような議論で、なんとか合法化させたい、利権中心で行きましょうということです。

そもそも菅さんも神奈川の黒岩知事もそうですけど、『ライドシェア』と言っているのは道路運送法の法律の枠内の自家用有償旅客運送なんですよ。それがいつの間にかライドシェアをすでにやっているような話になって、マスコミも見に行って盛んに報じていますから」

全国の中でもいち早くライドシェアの導入を進めるべく、検討会議を設置したのが、神奈川県三浦市だ。黒岩祐治神奈川県知事は、10月20日に開かれた初めての会合の中で、「タクシー業界と一緒に神奈川版ライドシェアを作っていければ、新たなモデルになるのではないか」と語っているが、同会合では県のタクシー協会や地元のタクシー会社から制度設計などについて厳しい意見が相次いで出たことが報じられている(NHK横浜放送局/首都圏ナビ/「かながわ情報羅針盤」)。

神奈川県はなぜ需要がないライドシェアに前向きなのか

そもそも神奈川がなぜライドシェアにここまで前向きなのかというと、こんな事情もあるらしい。

「三浦市のライドシェアは、ほとんど需要がないと言われているんですよ。僕も研修などでよく三浦市に行きますが、昼間でも車が2~3台いるくらいで、夜も地元の人が飲みに行く程度。それなのに、知事がライドシェアをやらなきゃいけないと言って、翌日には三浦のタクシー会社に小泉進次郎さんが声をかけていた。さらに、次の日には県庁の担当者が来たんです」

ライドシェア問題のきな臭さは、政府が検討したわけでもない段階で、大手メディアが観光地のタクシー不足をこぞって報じ、解決策としてライドシェアを紹介していたこと。ちなみに、メディアを通してライドシェアを推進している人物を調べると、菅義偉氏、河野太郎氏、小泉進次郎氏の他、橋下徹氏、松井一郎氏、音喜多駿氏、孫正義氏、三木谷浩史氏、川邊健太郎氏、竹中平蔵氏、堀江貴文氏などの発言がすぐに見つかる。

東京個人タクシー労働組合・執行委員長の秋山氏は語る

自交総連・東京地方連合会で「東京個人タクシー労働組合」の執行委員長・秋山芳晴氏は言う。

「タクシー不足がメディアでやたらと報じられますが、そもそもタクシーは本当に不足しているのか。適正な実車率は50~52%と言われている中、東京はまだ48%です。ちゃんと回せばなんとかなるはずです。また、京都駅では駅の入構許可を申請しても、許可がおりないのが200台もあるんです。新規参入者には入構券が出ないので、駅に入れないのに、観光客のための車が足りないと報じられてしまう。

だったら、京都駅の入構許可200台をなぜ増やさないのでしょうか。そもそも昔は早番、遅番がきっちりあって、需要と供給のバランスが取れるようにまわっていたのに、2002年の規制緩和によって乗務員の出庫時間と帰庫時間が多様化していきました。表向きは個人の働き方を尊重しているということにして、公共交通機関の役割を放棄したわけです」

しかし、現実問題として一部地域で起こっているタクシー不足をどう解消したら良いのか。秋山氏はバスの廃線問題と絡めて、こんな提言をする。

「タクシーやバス会社は中小企業がほとんどなので、独自採算で厳しいんですよ。そこを例えば国が補助すれば、高い運賃の問題も緩和できると思います。あるいは、補助がなくとも、大阪・富田林などで運行の金剛自動車の路線バスが、運転士不足などで廃線になったようなケースに、個人タクシーを派遣するのはどうでしょうか。われわれ個人タクシーの乗務員は中型免許と二種免許を持っている人が多いので、28人乗りまでのマイクロバスを運転できる。朝晩だけバスを運転し、空いている時間にタクシーをやれば、バスを廃線にしなくて済むから、利用者も助かるし、我々も社会貢献ができて、一石二鳥だと思います」

京都駅のタクシー
京都駅のタクシー待機場所、2017年(※写真はイメージです)
まずタクシー不足の問題を解消する施策を打つべきでは

さらに秋山氏が挙げた例は、「ニセコモデル」という取り組み。これは、インバウンドのオーバーツーリズムによる課題解消に向け、北海道ハイヤー協会、倶知安くっちゃん町、ニセコ町、GO(タクシーを呼ぶためのアプリ)が協力し、観光客の増えるスキーシーズンに、札幌・東京などから応援車両を派遣するというものだ。

「同じように例えば観光シーズンだけ、あるいは空港など需要のある場所に対し、タクシーの営業区域の規制を緩和して周辺地域から空いている車両や乗務員を派遣すれば、解決できる部分はたくさんあると思います」

本来ならば、こうした車両不足や運転手不足をどのように解消するかの議論が先にあるべきところ、それがほとんどない状況で、一足飛びに「ライドシェア導入の必要性」ばかりが一部著名人により主張され、メディアで大々的に取り上げられる。この流れに不安や危険を感じるのは自然なことではないだろうか。

田幸 和歌子(たこう・わかこ)
ライター
1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーライターに。ドラマコラム執筆や著名人インタビュー多数。エンタメ、医療、教育の取材も。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など

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