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世界からお届け!SDGs通信 トロント編。住宅の建設とCO₂削減を両立する〈CarbonCure〉のイノベーション

  • 2023.12.13
世界からお届け!SDGs通信トロント編。移民受け入れに伴う住宅建設ラッシュにおいて建てながらCO₂を削減する〈CarbonCure〉

毎年100棟の住居を増やすトロント、建設と温室効果ガスの削減は両立できる?

積極的な移民の受け入れが賞賛されるトロントだが、急激な流入による住居不足が深刻だ。住居問題の解決は市の最大課題とも言われており、この数年で街の景観が大幅に変わるほど多くのコンドミニアム(高層住宅)が建てられた。大手新聞メディア『Toronto Star』によると、今後5年間でさらに毎年100棟以上が建設される予定で、街はさらに様変わりすることが予想される。これに伴う大きな問題の一つが、建設により大量の温室効果ガスが排出されることだ。建設用のコンクリートに使用されるセメントは世界のCO₂排出量の実に7%を占めており、一連の建設ラッシュに伴う環境負荷の高さが懸念される。

そこで期待されているのが、カナダ・ノバスコシア州ハリファックスに拠点を置く〈CarbonCure〉の最新技術だ。CO₂をコンクリートに注入し、建設しながら温室効果ガスを削減するというイノベーションで、注入されたCO₂はコンクリート混合物と反応して炭酸カルシウムになり、圧縮強度を高める。世界中のコンクリートが彼らのような“クリーンコンクリート”に代われば、年間最大700MtのCO₂が大気中に流入するのを防ぐことができるという統計も。なんと1億5000万台分の車の排ガス削減に相当するのだ。

トロント中心部で展開する「Form Condos」は、〈CarbonCure〉の技術を全面使用したトロント初の住居プロジェクトだ。2020年の完成以降、その経過は期待を込めて観察されている。CO₂排出と吸収のバランスをとる“ネットゼロ”を、イノベーションで実現する現実性を説くビル・ゲイツ氏も〈CarbonCure〉への熱心な支援を公言している。さらにトロント市は「TransformTO」と名付けられたネットゼロ戦略の一環で、2028年までにビルからのCO₂排出量の“正味ゼロ”を義務付ける予定だ。

〈CarbonCure〉は価格差を1~2%増に抑えることができると言われているものの、一般的にクリーンコンクリートはコスト面のメリット等が通常のコンクリートを上回るのか懸念となっている。そこで市はCO₂排出を削減した建設業者に、総床面積1㎡あたり200CAD(最大で500,000CAD)、または総プロジェクト費用の25%のいずれか低額の補助金を支給している。夢のようなイノベーションが今後さらに活用されていくのか。自治体も企業も期待を寄せて見守っている。

〈CarbonCure〉作業風景
〈CarbonCure〉は創業からこれまでに322,000トン以上のCO₂を削減してきた。©︎CarbonCure。
「Form Condos」住居ビル
〈オンタリオ美術館〉の側に位置する「Form Condos」住居ビル。
「Form Condos」のグランドフロア
「Form Condos」のグランドフロアには、アインシュタインが継娘のマーゴットへ伝えた「自然を注意深く見よ。さらば全てをより良く理解できるであろう」という言葉が掲げられている。

Information

CarbonCure

2012年創業。創業者のRobert Nivenはモントリオールのマギル大学で生コンクリートへのCO₂導入について研究し、工学修士号を取得。その後カナダのノバスコシア州ハリファックスにて、持続可能性と収益性の両立を掲げて同社を設立した。

HP:https://www.carboncure.com/

profile

松井葉月

まつい・はつき/トロント在住のライター。米系オーガニックコスメ会社のマーケティング/PRを経て2017年〜エルサレム、2022年〜トロントに在住。主に持続可能性のあるプロダクト・テクノロジーの記事を書く。

Instagram:@hatsuki_matsui

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