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大沢たかおさん「好きなことや幸せを後回しにしてほしくない」

  • 2023.12.12

大学在学中にモデルとしてスカウトされ、男性ファッション雑誌「MEN'S NON-NO」やパリ・コレクションにも出演。その後26歳で俳優デビューし、ドラマ、映画、舞台と幅広く活躍している大沢たかおさん(55)。約30年にわたる俳優人生では、一時休業や留学なども経験しました。大沢さんから人生の岐路に立つ「telling,」世代へ、熱いメッセージをお届けします。

求められなくなったら、そこが辞め時

――大沢さんのこれまでの経歴を振り返ってみると、俳優業を一時お休みし、日本を離れていた期間もありましたが、戻ってきた時の不安や怖さはありませんでしたか。

大沢たかおさん(以下、大沢): そういう気持ちはありませんでしたね。僕はそもそも「俳優の自分」にそんなに期待していないんです。この仕事って基本的に受け身なので、依頼が来て初めて何かが生まれるから、日本に戻った時にオファーがこなかったらもう無職になるだけなんですよ。それは単純に求められていないから声がかからないわけで、自分に能力がないから必要とされない。ただそれだけなんだと思っています。

求められるから表現する機会を与えられるし、僕らはプロとしてそれでお金をもらっていますから、仕事が来たらがんばらなきゃいけない。そういう中で僕が思うのは、ひとつひとつの仕事を一生懸命やりたいんです。自分が一生懸命やって終わったら、それでいいと思うんですよ。

朝日新聞telling,(テリング)

――自分自身が納得できたら、結果がどうあれ次に進んでいけますよね。

大沢: 自分が一生懸命やりきっていないと、次がないことが不安になるわけですよね。それはちゃんと燃焼していないからなんですよ。自分がひとつの仕事に対して燃えつきるまでやれば、その後に仕事が来なくても、それはそれで店じまいするタイミングなんだと思います。

でもまたオファーが来たら店を開けないといけないし、その作業は毎回大変なんです。僕は今でも現場に行くと新人みたいになっちゃって「セリフってどうやって言うんだっけ?」とか「カメラがこっちを向いていると緊張するな」みたいなことは、30年やっていても未だに感じます。

――以前、出演されたトーク番組で「今でも撮影の初日は毎回緊張して眠れない」と仰っていましたが、座長という立場を何度も経験されている大沢さんでも、まだそういう感覚があるのですね。

大沢: それを言うと「かっこつけて言っているだけなんじゃない?」と思われがちなんだけど、本当にそうなんですよ。だから今でもミスリードしてしまうこともあるし、主役をやる時は間違ったところにみんなを導いてしまうこともあるので、怖いと感じることもあります。でも僕はまだ新人みたいな感覚があるので、違う表現をしてしまうことはよくあって「なんであんな芝居しちゃったんだろう」と思うこともあります。

朝日新聞telling,(テリング)

“年齢”という謎の取り決めを自分でしない方がいい

――「telling.」の読者の中心は30代前後の女性です。夫婦の関係や仕事か結婚か、出産かキャリアかなど、人生の選択に悩む方が多い世代でもありますが、ぜひ人生の先輩男性からアドバイスをいただけますか?

大沢: 男の僕が何かアドバイスを言うのはなかなか難しいです。というのも、女性の場合、人生のライフイベントのひとつに「出産」がありますよね。それはある程度、自分の体とも関係してくることだし、相談しないといけないことじゃないですか。男性の場合は基本的にそういうことはあまりないので、残念ながら分からない感覚ではありますが、そこを外して言えることがあるとすれば、やっぱりやりたいことは思いっきりやった方がいいし、「30代だから」とかいう謎の取り決めを自分でしない方がいいと思います。

よくメディアでも「アラサー」とか「アラフォー」という言葉を多用しているけど、よくないなと思います。そういうことを言っているから、その枠にとらわれてどんどん画一化されて、みんなが同じようなことを考え、似たような感じになってしまうと思うんです。 ただ、それはさっき言った出産のことを外した場合の話ですが、大きい意味では年齢にこだわらず、本当にやりたいことをやらないと。人生ってすぐ終わってしまいますから。

朝日新聞telling,(テリング)

――読者の中には「やりたいことがあっても中々一歩踏み出せない」という人も多いのですが、いま、まさに迷っている人へアドバイスするとしたら?

大沢: 僕がこの歳になって思うのは、どんな人でも必ず人生には終わりがくるのは事実なので、その人生の設定の仕方を間違っちゃいけないと思うんです。20代、30代の頃は、大体の人が70、80代まで生きることを想定しているけど、実際は50歳くらいで亡くなっている人もたくさんいます。そうなると、例えば今30代の人は、もしかしたらあと20年くらいの人生になるかもしれない。「もし残りの人生があと10数年だったらどうするの?」と考えてみてほしいんです。

「死」はある日突然ノックしてきて、それだけは絶対に我々が予測できないことですよね。だから、今やれること、やりたいと思っていることはやった方がいいです。それで周りから笑われようが失敗しようが、なんでもやるべきだし、この先、30年も40年もあると思って生きていてはダメだなと思うんです。

――「やらない後悔ほど大きいものはない」と言います。

大沢: でもね、それは言葉で言うだけではとても足りないんですよ。心から理解しないと。それに気づくのって意外と50歳を過ぎたあたりなんです。なので、30代の時にそれに気づけた人はこれからの日々の彩りが変わるからすごくラッキーですよ。僕は若い時、何かにとらわれて色々なことを無駄にしてしまったなという思いがあるので、みなさんには同じようになってほしくない。30代、40代ってもっともっと輝けるから! もったいないですよ。

「子どもが成人したら、これをやろうかな」とか思っている人もいるけど、その頃の自分や周りの環境がどうなっているかなんて分からないじゃないですか。「もう少し時間が経ったらやってみよう」と思いながら、志半ばで、苦しみながら亡くなった人は僕の周りにもたくさんいます。なので、やりたいことを我慢せずに、好きなことや幸せを後回しにしないでほしいと思います。

■根津香菜子のプロフィール
ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。

■植田真紗美のプロフィール
出版社写真部、東京都広報課写真担当を経て独立。日本写真芸術専門学校講師。 第1回キヤノンフォトグラファーズセッション最優秀賞受賞 。第19回写真「1_WALL」ファイナリスト。 2013年より写真作品の発表場として写真誌『WOMB』を制作・発行。 2021年東京恵比寿にKoma galleryを共同設立。主な写真集に『海へ』(Trace)。

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