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「ぜんぶに意味があったと思える」。美鳥の生き方を肯定する4人の出会い 『いちばんすきな花』9話

  • 2023.12.12

ドラマ『いちばんすきな花』(フジ系)は、『silent』脚本の生方美久とプロデューサーの村瀬健がふたたびタッグを組む作品。多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠が主演を務めるクアトロスタイルで描かれる。テーマは「男女の間に友情は成立するのか?」。第9話は、4人と会った美鳥(田中麗奈)が、自身の今後について考えを巡らす。

4人の記憶にある美鳥の“喜怒哀楽”

美鳥(田中)にとって、潮ゆくえ(多部)、佐藤紅葉(神尾)、春木椿(松下)、深雪夜々(今田)は“喜怒哀楽”を表す象徴的な存在なのではないか。

椿とクラスメートだった中学生のころの美鳥は、おそらく親から暴力を受けていて、心身ともに安心できる場所がなかった。しょっちゅう怪我(けが)をしている彼女は同級生から嫌われ、挙げ句の果てに「またケンカしている」とうわさの対象になる。

ちょっとしたきっかけから椿と話すようになり、将棋を指したり、椿の母・鈴子(美保純)から料理を教えてもらったりすることで、しばしの安寧を得る美鳥。しかし、子どもである彼女には、まだ自分の所在を自由に決められる権利はない。どこか哀(かな)しさをたたえた表情で、美鳥は突然転校し、椿の元からいなくなってしまった。

幼い夜々に将棋を教えたのは美鳥だ。「女の子だから」という理由だけで、さまざまなものを制限されている夜々に、美鳥は内緒で将棋を教えた。夜々を、黙っていうことを聞くお人形のようにしないために、選択肢を増やすつもりで伝授したのではないだろうか。

その後一時期、帰る家をなくした夜々とたまたまコンビニで遭遇した美鳥は、自宅に夜々を居候させる。心から「帰りたい」と思える家を求めている美鳥は、実家に帰りたがらない夜々の気持ちにも共感したのだろう。姉妹のように寄り添いながら布団にくるまる2人は、笑顔で楽しそうだ。

ゆくえの高校時代の記憶にある美鳥は、塾講師だ。ゆくえから見る美鳥は、いつもニコニコしていて明るい。しかし、他の生徒からは嫌われている。美鳥にまつわるうわさ話や陰口ばかりが聞こえてくる環境で、それでもゆくえは「みんな」のようにはならなかった。

当時、ゆくえが赤田鼓太郎(仲野太賀)と友達でいることに対し、美鳥は「2人の関係を恋愛だって決めつけるのは、暴力」とハッキリ言ってくれた。ゆくえが塾講師になったのは、そんな美鳥を信頼できたからだろう。ゆくえは、生徒である穂積朔也(黒川想矢)に「みんながあの子のこと嫌いだからって理由で、みんなにならなかったのは、すごいよ」と言ってあげられる講師になった。人から教わったことを、また別の人に教える喜びを知った美鳥の姿は、しっかり循環している。

紅葉の通う高校に非常勤講師として在籍していた美鳥は、ずっと怒っていた。不機嫌で、イライラしていた。紅葉と再会した美鳥自身が言っていたように、この頃の美鳥はどこか「変わっていた」。

安心して帰りたい場所を求めているだけなのに、ままならない状況に怒っていたのだろうか。感情のチャンネルを「怒」にしか合わせられないほど、当時の美鳥は、理想に向けて手を尽くしているにも関わらず悪くなっていく自分の人生に、苛(いら)ついていたように見える。

しかし、その怒りは、紅葉にとっては救いとなっている。本心を隠すことが処世術だと思っていた彼にとって、薬になるような言葉を、美鳥はたくさんくれた。

「誰かに必要とされてる」と思えた美鳥

美鳥はなぜ、安心して帰りたい家を求めたのだろう。

暴力をふるう親がいる家は、たとえ生家だとしても穏やかでいられる場所ではない。親戚にも嫌われてたらい回しにされ、勤め先の塾や高校でもつまはじきにされていた。そんな美鳥にとって、学生のころに椿の家で将棋や料理を教わった記憶は、強い原体験となって残っているはずだ。

あたたかい家で、身の危険を感じることなく、伸び伸びとものを教わる。多くの子どもにとっては当たり前のことかもしれないが、美鳥にとっては違った。

椿の家で受け取った多くのものを、従姉妹の夜々に還したことで、美鳥は「生まれて初めて誰かに必要とされてる」と思えた。彼女がいつか、安心して「ただいま」と言える家を持ち、そこで学習塾をやりたいと思うに至るのは、必然のような気さえする。

振り返れば、ゆくえが初めて椿の自宅を訪れたのも、椿の実家が営む花屋で、美鳥の「いちばんすきな花」であるガーベラを見たのがきっかけだった。我慢すること、耐えることが、生きるうえでの標準装備となっていた美鳥。その花たちは、ふと心の風通しをよくしてくれる存在として、彼女の目に映ったのかもしれない。

「4人+1人」への違和感

美鳥を含めた5人で会うことが、やっと叶(かな)った。それでも、美鳥にとっては「5人」ではなく「4人+1人」。自分の存在が加わることで、4人掛けのダイニングテーブルが使えなくなる。マグカップだって、1つだけ色も形も違う。

自分だけが、ゴミ袋がしまってある場所を知らない。一人ひとりと仲は良いけれど、5人で1つのグループをつくるのは違和感がある。美鳥はゆくえに対し「5人は違うのかも」「仲間に入れなくていいし、むしろよかった」と、正直に違和感を伝えた。

そのまま、美鳥はいったん北海道へ戻っていった。そのまま北海道に居続けることはないだろうけれど、ゆくえたちが集まる元へ帰ってくるとも思えない。きっと美鳥は、たとえゆくえたちが求めても「5人」になろうとはしないだろう。

その選択や生き方は、間違いではない。ゆくえ、紅葉、椿、夜々、4人が出会って「4人」になっている事実に対し、美鳥は「いままであったことぜんぶ、意味があったって思える」と言っている。彼女は、彼女にとっての正解を模索しながら、これからも軽やかな鳥のように落ち着ける宿り木を探すのだろう。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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