1. トップ
  2. エンタメ
  3. Aマッソ加納愛子さん「書くことは雑味がない行為」/新刊エッセイ『行儀は悪いが天気は良い』インタビュー

Aマッソ加納愛子さん「書くことは雑味がない行為」/新刊エッセイ『行儀は悪いが天気は良い』インタビュー

  • 2023.12.12

3年連続で「女芸人No.1決定戦 THE W」のファイナリストとなり、テレビやラジオ、YouTube……と多ジャンルで活躍するお笑いコンビ・Aマッソ。ネタづくりを担当している加納愛子さんは文筆家としても知られ、鋭いワードセンスと視点が注目を集めています。そんな加納さんが、最新エッセイ集『行儀は悪いが天気は良い』(新潮社)を2023年11月に刊行。執筆の背景や、「書くこと」の醍醐味を伺いました。

肩の力を抜いて、自然体で書けるように

「芸風とは違うかもしれないけど、肩の力を抜いてストレートに書けたかな、と思います」
お笑いコンビ・Aマッソの加納さんが話すのは、最新エッセイ集『行儀は悪いが天気は良い』について。大阪で生まれ育った子ども時代から現在の芸人としての日常までが、切れのよい文体で綴られています。

「自分のアイデンティティや人との関わり方、他人とのつながりのなかで気づいた感情や、懐かしい思い出を中心に書きました。エッセイ集としては2作目ですが、前作よりも素直になっている気がします。最初の方は書くこと、書かないことをもっと選りすぐっていましたが、より自然体で書けるように。小説を書くときもそうですが、言葉を調べながら書いたりしているので、どんどん『日本語って面白いな』と思うようにもなりましたね」

大阪の実家に来ていた「おっちゃんたち」をはじめ、過去のエピソードには多くの個性的な人々が登場しますが、その面白さは、人に対する加納さん独自の視点があるからこそ。

「人に興味がないと、やっぱり自分への目線も曇るというか。同じように興味を持とうという気持ちがありますね。私は本を読むのが好きなのですが、それと同じように知り合った人の家族の話を聞くのも好きなんですよ。たとえば、ふだん口数は少ない人なのに、お姉ちゃんの話になったらすごく饒舌になったりして。そういうことを知るのが好きだし、その人のことがよりわかるようになりますよね」

過去のことを思い返しながらあらためて言葉にすることで、新たな気づきも。

「自分は結構、シンプルな人間だな、と思いました。なにか特別な思考をしていたわけじゃなく、こういうことに興味があって、だから芸人になって……という、自分の人生の軸みたいなものはストレートに表れていると思います。出てくる人たちも、そのときに交わったからこそ、こうして記憶のなかに出てきてくれるけど、ほとんどの人はもう会わないわけで。そう考えると、今当たり前のように接してる相手も、5年後は一緒に仕事してるかわからない。一瞬一瞬のコミュニケーションについても考えますね」

感情を言葉に落とし込めれば、人生は楽になる

これまでは自分自身を題材に書くことが多かった加納さんですが、今後はもう少しテーマを広げ、長編小説にも挑戦したいと考えているそう。加納さんにとって、書くことの醍醐味とは何なのでしょうか。

「雑味がない行為だな、と思っています。舞台では生身の体でお客さんに向き合わないといけないし、すべるかもしれないし、受けるかもしれない。いろんな不確定要素があるので、それに向き合う自分の一挙手一投足が100%純度の高いものかというと、ちょっと難しい。笑いという行為にも純度があると思うけど。文章に向き合ってるときは、純度を感じられることが多いので、好きな作業なんだと思います」

さらに、文章にしたり、ラジオで話したりしてアウトプットすることで、ネガティブな気持ちを軽減できる効果も。

「きっとSNSに面白いネタを書き込む人は、イライラしたときも『これをアップしよう』と思うことで楽しくなってると思うんですよね。私も人とケンカしたり、嫌なことがあっても、すぐに『ラジオでどうしゃべろうか』と脳内の会議に変えられる。媒体はそれぞれ違っても、感情を言葉に落とし込む方法を持っていると、人生が楽になる。私もそうすることで、『天気がいい率』が高くなっている気がします」

加納さんに聞きました! Q&A

Q.読書家としても知られる加納さんですが、読む本はどのように選んでいますか?

ジャンルはとくに決めず、薦めてもらったものは全部読むようにしています。最近読んで面白かったのは、小川哲さんの『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社)。本は電車や新幹線の中で読むことが多いですね。


Q.生まれ育った大阪から東京に移って、ギャップを感じることは?

「大人と本音でしゃべるって難しいことだったんだな」と思いますね。私は東京が好きなので、それを嫌とは思わないですけど。普通は大人になると、あまり本心は言ってくれなくなるから、うちの家は何でもかんでも言い過ぎてたな、と今になって感じます。


Q.衣装もすてきですが、何かこだわりはありますか?

いつもスタイリストさんにお任せ。「好きなように遊んでください」と伝えています。前はもっとボーイッシュなものが多かったんですけど、最近はちょっと小ぎれいに見えるように選んでもらってます。ふだん、あまり柄ものは着ないのでうれしいですね。私服はもっと地味なので(笑)。

Profile

加納愛子

かのう・あいこ/1989年大阪府生まれ。2010年に幼馴染の村上愛とお笑いコンビ「Aマッソ」を結成。エッセイ集『イルカも泳ぐわい。』(筑摩書房)、小説集『これはちゃうか』(河出書房新社)が話題を呼ぶなど、いまもっとも新作が待たれる書き手のひとり。

書誌情報

『行儀は悪いが天気は良い』 著/加納愛子 ¥1,540(新潮社)

実家に出入りしていたヤバいおっちゃんたち、突然姿を消した憧れの同級生の行方、「天職なわけではない」と言い切る芸の世界を志した理由、「何かを失った人間の中で一番最強」な親友・フワちゃんの素顔……。生まれ育った大阪から多感な学生時代、芸人としての日常まで、懐かしくて恥ずかしくて、誇らしくて少し切ない24編を収録。

photograph:Chihiro Oshima text:Hanae Kudo
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

元記事で読む
の記事をもっとみる