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古代植物だと思っていた化石が実は「カメ」だったと発覚!研究者「ナエトルと名付けよう」

  • 2023.12.11
古代植物と思われていた化石が実は「カメ」だった
古代植物と思われていた化石が実は「カメ」だった / Credit: Héctor D. Palma-Castro et al., Palaeontologia Electronica(2023)

化石は古代の重要な記録ですが、全ての発見された化石が正しく判定されているわけではありません。

化石から得られる情報は、場合によっては非常に曖昧であり、それが実際はなんであったのか明確に判断出来ないケースもあるのです。

今から数十年前、南米コロンビアで約1億3000万年前の白亜紀に遡る植物の化石が発見されました。

ところが最近、コロンビア国立大学(UNC)の再調査により、これは植物ではなく、白亜紀前期に生息していたカメの赤ちゃんの化石だったことが判明したのです。

何をどう間違えたら亀が植物になるのか? と思う人もいるかもしれませんが、専門家によればこの化石は確かに植物と間違えられても仕方ない見た目だったらしく、研究者らは植物とカメを融合させたポケモンにちなんでこの化石に「ナエトル(英名はTurtwig)」と愛称を付けています。

研究の詳細は、2023年10月25日付で科学雑誌『Palaeontologia Electronica』に掲載されています。

目次

  • 研究者「これは植物の化石じゃない」
  • 白亜紀にいた「カメの赤ちゃん」の化石だった!

研究者「これは植物の化石じゃない」

問題の化石を最初に発見したのは、コロンビアで神父をしていたグスタボ・フエルタス(Gustavo Huertas)氏です。

フエルタス神父は1950年代から70年代にかけて、コロンビアのボヤカ県にある「ビジャ・デ・レイバ(Villa de Levya)」という町の近くで化石の発掘と収集をしていました。

その中で、約1億3200万年前の前期白亜紀にあたる岩石から直径約5センチの小さな楕円形の化石を見つけたのです。

化石の表面には葉脈のような線が見られ、その模様が古代植物のスフェノフィラム(Sphenophyllum)属に似ていたことから、フエルタス神父は、この植物化石を「スフェノフィラム・コロンビアヌム(Sphenophyllum colombianum)」として新種記載しました。

こちらの図のAはフエルタス神父が化石から描いた新種の復元イメージで、B・Cは別種の「スフェノフィラム・エマルギナトゥム(Sphenophyllum emarginatum)」の実際の化石です。

これらを見比べてみると、確かに似ていますね。

A:神父が描いた化石の復元図、BC:その近縁種と予想された「スフェノフィラム・エマルギナトゥム」の化石
A:神父が描いた化石の復元図、BC:その近縁種と予想された「スフェノフィラム・エマルギナトゥム」の化石 / Credit: Héctor D. Palma-Castro et al., Palaeontologia Electronica(2023)

しかし、シカゴ・フィールド自然史博物館(Field Museum)のファビアニー・ヘレーラ(Fabiany Herrera)氏と、彼の教え子であるコロンビア国立大のヘクトル・パルマ=カストロ(Héctor Palma-Castro)氏は、この化石を見て疑問に思いました。

ヘレーラ氏はこう話します。

「コロンビア国立大学の化石コレクションに行ってこの植物化石を見たのですが、写真を撮った瞬間に『これは変だ』と思いました。

確かにスフェノフィラム属の植物には似ていますが、その表面の模様は葉脈には見えなかったのです。むしろ何かの生物の骨のように見えました」

こちらが実際の化石の写真です。

フエルタス神父が見つけた化石。葉脈ではなく、何かの骨のように見える?
フエルタス神父が見つけた化石。葉脈ではなく、何かの骨のように見える? / Credit: Héctor D. Palma-Castro et al., Palaeontologia Electronica(2023)

現にフエルタス神父が植物として新種記載したときにも疑いの声は上がっていたという。

というのも、スフェノフィラム属はデボン紀〜三畳紀にかけて繁栄した陸生植物であり、それから1億年以上経った白亜紀(つまり化石が見つかった地層の年代)にはすでに絶滅していたからです。

そこでヘレーラ氏はかつての同僚であり、古生物に詳しいコロンビア・ロサリオ大学(UNR)のエドウィン=アルベルト・カデナ(Edwin-Alberto Cadena)氏に連絡を取り、再調査を行いました。

白亜紀にいた「カメの赤ちゃん」の化石だった!

カデナ氏は送られてきた写真を見て、すぐに「これは明らかにカメの甲羅だと分かった」といいます。

ただフエルタス神父やその他の研究者が、化石を見てそうと気づかなかったのには訳がありました

カメの甲羅に見られる典型的な模様がなかったからです。さらにこの化石はお椀型に少し凹んでいました。

しかしカデナ氏いわく、これはカメの甲羅の表側ではなく、裏側が化石の表面になるように保存されたことに原因があったといいます。

これに沿って化石の復元図を描いたのがこちらです。

カメの甲羅は肋骨が変形してできたものですが、ちゃんと正中線の背骨を境に肋骨が左右に並んでいるのがわかります。

正確に復元してみるとカメの甲羅の裏側になる
正確に復元してみるとカメの甲羅の裏側になる / Credit: Héctor D. Palma-Castro et al., Palaeontologia Electronica(2023)

またカデナ氏は「一般的にカメの幼体は甲羅がとても薄くて簡単に壊れてしまい、化石として残りにくいため、これは本当に貴重な発見です」と話しました。

それからチームは化石から年齢分析をしたところ、このカメは孵化後の成長段階にあり、1歳頃に死んでいたことが特定されています。

一方で、このカメの正確な種類までは分かっていません。

ただチームは、同じ白亜紀に生息していた「プロトステガ科(Protostegidae)」という古代ウミガメの近縁種ではないかと考えています。

プロトステガ科の復元イメージ
プロトステガ科の復元イメージ / Credit: ja.wikipedia

実際、この科の最古の種である「デスマトケリス・パディライ(Desmatochelys padillai)」が2015年にコロンビアで発見されていました。

ポケモンにちなんで「ナエトル」と愛称を付ける

ヘレーラ氏らはフエルタス神父の誤りを責めるつもりは一切ありません。

今回のカメの化石とスフェノフィラム属の化石は確かに似ており、古生物学の専門家でもなければ、カメの赤ちゃんの甲羅の裏側だとは到底判別できないからです。

そこでチームはこの化石に、カメと植物のハーフであるポケモンにちなんで「ナエトル(英名でTurtwig)」という愛称を付けました。

ナエトルとは、ポケットモンスター「ダイヤモンド・パール」の御三家の1匹であり、頭の上にちょこんと生えた若葉が愛らしい生き物です。

わかばポケモン「ナエトル」
わかばポケモン「ナエトル」 / Credit: ポケモンずかん

パルマ=カストロ氏は「ポケモンの世界では、動物・機械・植物など、2つ以上の要素を組み合わせる特徴があり、今回は植物に分類されていたカメということで、すぐにナエトル(Turtwig)の名前が思い浮かびました」といいます。

チームはまた、この発見が示すように、博物館の化石コレクションを再訪して、古い化石を新たに調べ直すことの重要性を再認識したと話しました。

世界中の博物館には他にも、まったく違う動物や植物として記録されている化石がたくさん眠っているかもしれません。

参考文献

132-Million-Year-Old Mystery Fossil’s True Identity Is Finally Revealed
https://www.sciencealert.com/132-million-year-old-mystery-fossils-true-identity-is-finally-revealed

It turns out, this fossil plant is really a fossil baby turtle
https://www.eurekalert.org/news-releases/1010060

元論文

An Early Cretaceous Sphenophyllum or a hatchling turtle?
https://palaeo-electronica.org/content/current-in-press-articles/4017-fossil-plant-or-turtle

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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