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「スカートが短いなら、痴漢されても文句は言えない」ドラマ『不適切にもほどがある!』がヒットしたワケ

  • 2024.2.19
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(C)TBS

昭和から令和へのアップデートが急がれている。

TBS系列ドラマ『不適切にもほどがある!』、東海テレビ系列ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』など、昭和の時代は当たり前だった価値観を、令和に合わせてアップデートするコンセプトのドラマが人気だ。

両者に共通して発信されているメッセージは「世代間ギャップが生まれるのは当たり前。世代で区切りすぎずに一人の人間として対面で話をして、問題を解決しよう!」だと思われる。

このドラマが同時期に放映され、話題となる背景には、どんな世代間ギャップがあるのだろうか?

昭和から令和へのアップデートは本当に急務なのか、ドラマ本編の描写を深堀りしながら考えたい。

一世代下、一世代上の世代間ギャップにびっくり!?

そもそも昭和と令和を比べたとき、どんな世代間ギャップがあるのだろうか?

代表的な例を以下に挙げる。

  • マルハラ
  • 若者、絵文字を使わない問題
  • 誰からかかってきたかわからない電話に出られない
  • 会社はブラックでもホワイトすぎてもダメ
  • ドラマや映画の秒速再生

マルハラとは、LINEを代表するSNSやメールのやりとりにおいて、文章末尾に「。(句点)」をつける“ハラスメント”のこと。もちろん本来はハラスメントに該当する事案ではない。

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TRILL 作成 マルハラの例

2024年現在、20代以下の若い世代にとって、文章の末尾が「。」で終わっていると「怒っているのだろうか?」とある種の圧力に感じられてしまうという。

かといって絵文字を使いすぎるのも、いわゆる「おじさん(おばさん)構文」として敬遠される。

会社においても世代間ギャップは顕著だろう。生まれたころからインターネットやスマートフォンがある世代にとって、「家電」という言葉はもはや死語(「死語」という言葉そのものも、“死語”になりつつある)。

「誰からかかってきた電話なのか?」があらかじめわかる連絡しか受けた経験がないため、相手がわからない電話に極度に苦手意識を感じる場合が多いのだとか。

もちろん会社は、ブラックすぎると離職者が増える。しかし反対に「ホワイトすぎる」体制でも、物足りなさを感じた若い世代は転職を検討し始める。

ドラマや映画、YouTube動画の秒速再生をする層が増えていることからも、いかに若い世代が自分の時間を大切にする「タイパ至上主義」になっているかが知れる。

二つのドラマで描かれる世代間ギャップ

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金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』第4話より (C)TBS

阿部サダヲ主演、宮藤官九郎脚本のドラマ『不適切にもほどがある!』では、阿部サダヲ演じる主人公・小川市郎が、1986年から2024年へタイムスリップしてしまう。

彼の視点を通して描かれる約40年の隔たりを表すギャップが、シニア世代には「懐かしい!」、若者世代には「本当にこれが現実だったの?」と感じさせる

『不適切にもほどがある!』は第1話でさっそく、高校教師かつ野球部顧問である市郎の指導態度に問題が。

「部活中に水を飲んだらバテる」といった理由で、炎天下でも生徒に水を飲ませない。連帯責任で、生徒全員を並ばせ「ケツバット」をする。

市郎が令和へタイムスリップしてしまうシーンでも、彼はバスのなかで堂々と喫煙。

挙げ句の果てに、たまたま乗り合わせた女子学生へ向かって「スカートが短い、痴漢されても文句は言えない」などと続けてひんしゅくを買う

ちなみに、原田泰造主演の『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』でも、この手のギャップが描かれている。

本作は、原田泰造演じる主人公・沖田誠が、ガチガチに固まった昭和の価値観から、令和に合った考え方へとアップデートするため、周囲の人間から力を借りて成長していく物語だ。

第1話から、誠の凝り固まった頭のなかが露呈する。

会社では女性社員へお茶を淹れるよう頼み、男性社員が代わろうとすると「お茶は女の人が淹れたほうがおいしいだろう」と口にするのだ。このシーンを観た瞬間に、ほとんどの人は「そもそもお茶くらい自分で淹れなさい」と突っ込みたくなるだろう。

このようなドラマ内の描写は、あくまでも「フィクション」として描かれている。

しかし、このような価値観を持った人は、現実にも存在する。

男女問わず「性的な被害を避けるためには、慎んだ服装を徹底すること」と考えている人は多い。ニュースで性的被害について扱われているのを見ると「男性を勘違いさせるような言動をしたんじゃないか」と公に言われる場合もある。

「お茶は女性が淹れたほうがおいしい」発言をはじめ、「女性ならではの柔らかい視点や感性で〜」といった物言いは、ビジネスの場でこそよく聞かれる印象が強い。

こういった現状に対し「おかしいのではないか?」と考える層が増えたからこそ、ようやくドラマの題材として扱われるようになったのではないか。

世代間ギャップが生まれるのは当然!大切なのは「対話」

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金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』第4話より (C)TBS

本記事で挙げた二つのドラマに共通するテーマは「昭和と令和の世代間ギャップを解消しよう、価値観をアップデートしよう!」である。

しかし、生まれた時期、育った時代が違えば、ギャップが生まれるのは必然だ。

生まれた時代や世代で人を区切りすぎず、目の前にいる相手を「一人の人間」としてとらえ、ともに問題解決を目指す姿勢と環境づくりが、本来の急務ではないだろうか。

人はもともと、自分以外の他者には「こう考えているのだろう」「本当はこうしたいのだろう」とレッテルを貼ったり言動を先読みしたりしがちだ。

それは決して悪意からくるものとは限らない。優しさや無知からくるものもあるし、自分が安心したいから、という理由もある。

それでも、2024年に突入したタイミングで、昭和→令和へのアップデートをテーマにしたドラマが放映されている背景には、いまを生きる者全員が共通して「転換期」に差し掛かっている現状を表しているのかもしれない。



番組概要:TBS系 金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』 毎週金曜よる10時

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_