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『ブギウギ』茨田りつ子(菊地凛子)の目に涙……「ぜいたくが敵」なら、音楽も敵なのか?

  • 2024.1.5

音楽を、歌を届けるーー信じながら歌うスズ子たち

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(C)NHK

戦況が芳しくないなか、地道に各地への慰問を続けるスズ子とりつ子。上海に渡った羽鳥(草彅剛)も、「音楽が時世や場所にとらわれるなんて馬鹿げてる」「音楽は奪えないってことを僕たちが証明してみせよう」と言いながら、音楽活動に精を出す。

歌手の李香蘭(昆夏美)を迎えて「夜来香(イエライシャン)」を歌唱するシーンは、史実に基づいている。羽鳥のモデルである服部自身が、戦後を盛り上げるために計らったエピソードを元にしており、制作陣の思いが込められた重要なシーンだ。

「ぜいたくは敵だ」と掲げ、標語や合言葉のように口にしながら、懸命に生きる人々。羽鳥が広めようとしているジャズのリズムをはじめ、スズ子やりつ子の華美な容姿、絢爛なパフォーマンス、伸びやかな歌は、決して手放しに受け入れられるものではない。音楽や歌がまとめて「ぜいたく」に結びつけられている。

しかし、音楽まで人々の敵となってしまうのだろうか? 歌に触れるのが最期になるかもしれない特攻隊員たちの前で、請われて「別れのブルース」を歌うりつ子。富山で知り合った、小さな子を抱えた女中のために「大空の弟」を歌うスズ子。彼女たちは決して、ぜいたくをするつもりで歌を届けているわけではない。

なぜ芸術が軽視されるのか?

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(C)NHK

軽やかに、伸びやかに、歌いながら踊るスズ子が思うようにパフォーマンスできずにいるのを見ていると、芸術が軽んじられがちな日本の風潮を思わずにはいられない。

かつて新型コロナウイルスの流行により、不要不急の外出が制限された時期、真っ先に飲食店やカラオケ、映画館や劇場、美術館がその影響を受けた。感染対策のためとはいえ、これらは「不要なもの」に分類されたも同じだと感じた方も多いのではないだろうか。

災害の場でも、食料や水など、生命維持に必要なものが最優先される。命を守るためには、当たり前のことだろう。しかし、美術や音楽などのエンターテイメントが不要になるわけではない。衣食住が担保されたうえで、なお安心して豊かに生きていくためには、心をウキウキと沸き立たせるエンターテイメントが必要不可欠になる。

スズ子の歌は、戦後にこそ必要だった。不安に負けてしまいそうな心に、必要な栄養をくれるものだった。歴史がそれを証明していることを、私たちは『ブギウギ』をとおして再認識している。



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_