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眞栄田郷敦さん、役者の姿勢を変えた二つの出会い 「ぶつかることを恐れない」

  • 2023.12.6

12月8日公開の映画「彼方の閃光」で映画初主演を務める俳優の眞栄田郷敦さん(23)。幼い頃に視⼒を失い、⼿術は成功するも⾊彩を感じられない主人公の光を繊細に演じています。そんな眞栄田さんに、役者として転機になった出会いや、思い描く将来の自分について聞きました。

――映画「彼方の閃光」で演じた光のように、人との出会いでご自身の生き方や考え方に変化があったエピソードを教えてください。

眞栄田郷敦さん(以下、眞栄田): 自分自身の変化というのは作品を重ねていくごとに感じていますが、デビューして割とすぐに萩原(健太郎)監督の作品に出させてもらったことは印象深いです。うまく芝居ができなくて手も足も出ず、本当に悔しかったんです。その時、萩原監督からアメリカのお芝居の本をいただいたのですが、それを読みこんで勉強して、その悔しさを糧に「本気でがんばろう」と思いました。

ただ悔しい経験だったのですが、今年の夏にもう一度声をかけていただき、最高の映画が撮れました。自分としては「リベンジできたな」と思えて、めちゃくちゃ嬉しかったです。

朝日新聞telling,(テリング)

――悔しさを乗り越えて、次のお仕事につながったのですね。

眞栄田: 「いつか萩原監督にリベンジできるまで本を返さない」って決めていたので、ずっと借りパクしていたんです(笑)。でも、映画のクランクアップの日にやっと返すことができました。

それから、二階堂ふみさんとドラマで3カ月半ぐらい一緒にお仕事をさせてもらったことで、僕の中で芝居に対する向き合い方が大きく変わりました。その少し後くらいに今回の作品の撮影に入ったので、すごくいいタイミングでご一緒することができたなと思います。

――何か具体的なアドバイスがあったのでしょうか。

眞栄田: 二階堂さんからは背中を見て学ぶことが多かったです。現場でのあり方や、「みんなで作る」という姿勢を近くで見て、たくさん学ばせていただきました。芝居や作品作りに対するこだわりを強くもっていて、戦うことを恐れずに監督やプロデューサーさんに自分の意見をきちんとぶつけるんです。そうすると、相手も自分の考えを提示してくれて「じゃあこうしようか」と、どんどんいい流れになっていくんですよね。

その姿を見て、僕も制作陣の方々がやりたいことはちゃんと汲み取りつつ、妥協せずにディスカッションして、時にはぶつかり合いながら一緒に作っていきたいなということを強く思いました。

プロデューサーさんたちはゼロから作品を作っていて、僕らはある程度出来上がったものに「お願いします」と言われて途中から参加する立場ですが、そこから同じ熱量をもってみなさんと同じ土俵に立つためにはちゃんと勉強しないといけないので、そういう姿勢をとても大事にしています。

――自分の意見を言うことも、先輩や年上の方にぶつかっていくことも躊躇しがちですが、そこを乗り越えないといいものを作ることはできないのですね。

眞栄田: ただ、それが「自我」になったら絶対にダメだと思ってます。「なんでそう思うのか」っていう裏付けというか、説得材料をちゃんと自分で掘り下げないといけない。そのためにはすごく勉強が必要なのですが、一つの作品に思いを込めてみんなで作ろうとしてくださっているスタッフさんへの、せめてもの礼儀だなと思っています。

朝日新聞telling,(テリング)

難しい脚本ほど、パズルを解いているようで面白い

――父であり、役者の大先輩でもある千葉真一さんからは、役者としての心構えについて生前何か言われたことはありましたか?

眞栄田: 「何をするにしてもトップを取れ」ということはよく言われていました。要は「やるからにはトップを目指して取り組め」ということだと思うのですが、それは知らず知らずに意識しているので、やっぱり自分の中に根付いているのでしょうね。

あと「役者は読解力だ」とも言っていたのですが、最近は脚本をどれだけ掘り下げられるかということをすごく大事にしているなと自分でも感じています。特に、今回のような社会的、歴史的なテーマを扱う作品に出るときは、中途半端な知識でやらないということを心がけています。ちゃんとその出来事について勉強したいし、その上で自分の意思をしっかりと持ってこれからも取り組んでいきたいです。

――脚本を読み込むには、深いところまで追求しなければいけないと想像しますが、今回の「彼方の閃光」で苦労されたことは?

眞栄田: 今作は脚本がすごく難しかったので、まずは内容を理解していくことから始めました。10ページを解読するに、毎日1時間ぐらいかかっていましたね。脚本が難しければ難しいほど、パズルを解いているみたいですごく面白いんですよ。面白いセリフが多かったので「なんでこの人はこんなセリフを言うんだろう」ということを半野(喜弘)監督とディスカッションしながらやっていきました。

朝日新聞telling,(テリング)

人生は選択の連続だからこそ

――今23歳。telling,読者の多くは20代後半~40代前半の女性です。結婚や仕事、出産かキャリアかなど人生の選択に揺れている方も多い世代ですが、ご自身は人生の節目で迷われたことはありますか。

眞栄田: 迷う時もありますが、僕は自分の気持ちが向く方にしかいかないです。色々な人の意見を聞くことを大事にして、それを理解した上で自分の気持ちがどっちに動くか。どちらかを選んだら何かがなくなる。人生ってそういう選択の連続だと思うんですけど、自分がストレスなく、行きたい方に進むようにしてきました。

――映画では約50年後の世界が描かれていました。眞栄田さんはこれからどんな年齢の重ね方をしていきたいですか? 理想の大人像があれば教えてください。

眞栄田: 舘ひろしさんみたいな人になりたいな。舘さんって「大人の余裕」みたいなものがあってかっこいいじゃないですか。僕もいつかそうなれるように、いろいろな経験を積みたいです。

僕は自由に生きている人が一番かっこいいと思うので、自分がやりたいことをやれる、自由に生きられるための環境を作っていきたいです。「自分勝手」とは違い、自由を手にする分、責任もありますが、仕事でもプライベートでも、自由にできる環境を作るのって時間がかかると思うんです。役者としてまだまだこれからだと思っているので、もっと幅広く仕事面を伸ばして、責任を持ちながらも自由にやりたいことができるようになっていきたいです。

ヘアメイク:窪田健吾(aiutare)
スタイリスト:MASAYA(PLY)

■根津香菜子のプロフィール
ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。

■慎 芝賢のプロフィール
2007年来日。芸術学部写真学科卒業後、出版社カメラマンとして勤務。2014年からフリーランス。

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