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「日大アメフト部薬物事件はうちの子に関係ない」は大間違い…成績優秀な中高生がスマホで違法薬物を買う背景

  • 2023.12.5
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日本大学の事件のように、軽い気持ちで大麻に手を出してしまうのは大学生だけではない。マトリ(厚生労働省麻薬取締部)で40年以上の経験を積み、現在は薬物被害者の救済に当たる瀬戸晴海さんは「中学生、高校生から50代の大人まで、スマホがあればSNSなどを通して簡単に違法ドラッグを買える現状がある。もはや親の『うちの子に限って……』という甘い見方は通用しない」という――。

「一社・国際麻薬情報フォーラム」副代表理事の瀬戸晴海さん
「国際麻薬情報フォーラム」副代表理事の瀬戸晴海さん
大麻を売買して検挙された人は5年連続で5000人超え

近年、大麻により検挙された人数が急増している。警視庁「令和4年(2022)における組織犯罪の情勢」によれば、22年は5342人で、3年連続して5000人を超えている。薬物事犯全体での検挙数は近年横ばいだが、大麻事犯の増加が薬物事犯全体を押し上げており、その中心は30歳未満の若年層が中心だ。

日本大学アメリカンフットボール部の事件など、大学のスポーツ部を中心に大麻の蔓延がいわれる中、わが子を薬物から守るには、どうしたらよいのだろうか。マトリ(厚生労働省麻薬取締部)歴40年以上の「国際麻薬情報フォーラム」副代表理事の瀬戸晴海さんに、一般の親には想像もつかない「スマホで薬物が買える事情」について聞いた。

情報拡散効果があると若者が利用するX(旧Twitter)やInstagramには、ブロッコリー、イチゴ、虹、アイスなどの絵文字が並ぶ。「手押し、イチゴ」――これを見ただけではなんの意味か大人には分からない。実はこれ違法薬物の広告なのだが、投稿されたメッセージには、大麻もマリファナも覚せい剤などの薬物に関する文字は一切ない。

「これは規制薬物の隠語ですね。ブロッコリーは大麻を表し、虹はLSD。アイスは覚せい剤を意味します。トレンドがあって、絵文字は常に変化していて、Xなどの投稿からテレグラムというアプリに飛ぶようになっています。秘匿性の高いテレグラムは、サーバーの位置が分からず信号化されていて場所や発信人を特定できないのです」

元厚生労働省麻薬取締部部長の瀬戸さんが語る実態

こう話すのは『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書)の作者、瀬戸晴海氏だ。瀬戸さんは、元厚生労働省麻薬取締部部長で、薬物犯罪捜査に40年以上も携わってきた。

これまで薬物事件というと、どこか遠い世界の、反社(反社会)の出来事のように感じていた人も多いだろうが、「うちの子に限って」ではなく、今や「うちの子どもが危ない」時代に突入しているのだ。

今年に入り、日大アメフト部の寮から大麻が見つかり、12月1日現在、4人の書類送検・逮捕者を出している。また早稲田大学の相撲部でも大麻所持容疑で1年生の学生が逮捕された。大学生に蔓延する薬物事犯……。

そしてイベントで食べた大麻由来の成分が含まれていたグミでの相次ぐ救急搬送など、大学生を中心に20、30代の若者が狙われている。

誰でも購入でき「うちの子に限って…」は通用しない

「なぜ大学生に、という言葉が出ましたが、実は大学生ばかりでないのです。報道されているのがたまたま大学生だったというだけで、中学生も高校生も薬物の被害に遭っています。ここ数年を見てみても、警察官、海上保安官、自衛官、少年院教官、消防士、僧侶、アスリート、医師、薬剤師などの薬物乱用防止(教室)の講師までが、覚せい剤、MDMA、大麻等で検挙されているのです。薬と縁もゆかりもなさそうな人たち、そしてより高潔性が求められる人たちが薬物にハマっています。大学教授の例は50代ですが、多くは20~30代。私はマトリとして40年以上現場にいましたが、かつてない現象で、凄まじい勢いで広がっています」(瀬戸さん)

成績優秀、親子関係も良好で何ら問題がないように思われる若者なのに、なぜ薬物に走ってしまうのだろうか。もともと好奇心があって……、または先輩や友人の誘いを断れないという若者特有の人間関係があるのだろうが、簡単に薬物に手を出す背景にはどんなことがあるのか。瀬戸さんが話す。

「最近ではこれに生きづらさが加わってきたのです。家族の問題、対人関係の問題、社会的な問題などがあって、いわゆる違法薬物でなくても、正規の市販品でもいいので、逃れるために手を出してしまうのです。さらに言っておきたいのは、スマホがあればいとも簡単に薬物も市販品も手に入ります」

イルミネーションが灯る路上でスマホを使用している若い男性
※写真はイメージです
成績優秀で家庭円満な子でも簡単にクスリに手を出してしまう

瀬戸さんが実際に相談に乗った最年少は中学生だったという。先輩や友達からすすめられた経験があって、友人同士でそういう話題になったときに、ネットで見ると、大麻は「1グラムあたり5000、6000円」で買えることがわかった。「じゃあ、買おう」と連絡すると、すぐにOKの返事がきたので、お金を出し合って買ったのだと彼は告白した。

さらに薬物の問題の裏には、多くの人の薬物に対する危機意識の低下があるのだという。「覚せい剤でなければ危険じゃない。既視感があって問題ないと思っている人が大半なのではないでしょうか。一部には、大麻はいいもの。タバコやお酒よりも依存症になりにくく、それを厳罰化するなんて日本の法律がおかしい、などといった誤報が流れています。情報パンデミックというほど、偏向、あおり、そそのかし情報が氾濫しているのです。

そしてネットでは好きな情報だけ見ますよね。エコーチェンバー現象といって、ソーシャルメディアを利用する際、自分の似た興味関心を持つユーザーをフォローした結果、自分の意見をSNSで発信すると、それに似た意見が返ってくる現象で、肯定的なもので埋め尽くされる。狭隘きょうあいなグループの中で、その情報が増幅していき広まる。さらに年下の子どもたちに伝わるころには、大麻なんて全然大丈夫、となってしまうのです」(瀬戸さん)

大麻1グラム6000円程度で買え、SNSの絵文字が暗号に

売買価格は大麻1グラム6000円、MDMAは5000円、覚せい剤は0.3グラムで1万円程度。価格は全国共通で、乱用すると腎臓肝臓などあらゆるところに臓器障害を起こすほか、脳にも支障をきたす。

「大麻をめぐっては、3つの課題が存在します。大型の不正栽培が頻発している。合法大麻を名乗る危険ドラッグが急増していること。大麻の有害成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)だけを抽出した濃縮大麻やそれを混ぜ込んだ食品が出回っていることなのです」(瀬戸さん)

指定薬物HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)を含むグミ、クッキー、ブラウニーを食べた人の健康被害が相次ぎ確認された。意識障害や幻覚といった症状が出て、「心臓が止まるかもしれない」と搬送された人も。この大麻グミは東京だけではなく全国で販売されており、ネット、実店舗合わせて300あると言われている。騒動後、大阪や広島など、大麻グミ販売店に立ち入り検査が入っている。

この物質は、大麻の有害成分と化学構造が似ているものの、これまでは法の対象外だった。11月22日、厚労省は医薬品医療機器法に基づいて、新たに指定薬物に加え、12月2日から流通が禁止される。

大麻の葉の形をしたグミキャンディ
※写真はイメージです
大麻グミや大麻クッキーは警戒感なく食べてしまう

リラックス感を高める、ハッピー感を高める、眠気を高めるなどの効果があるのはグミだけではない。大麻クッキーは1枚3000~4000円。摘発事件では、1万枚以上作っていたメーカーも。「普通のスイーツよりもうますぎる」と評判になったが、食べた人は呼吸がうまくできないなどという症状を起こし、緊急搬送された。

大麻は吸煙したらタバコと同じなので、直ちにきて、ピークは7~10分。クッキー、グミなどは消化管から入るので、効果発現時間が遅い。1、2時間後から遅ければ12時間続く場合もある。

「規制外のモノは、化学の世界だから、いくらでも作れる。未規制のものがどんどん出てくる恐れがあります。規制すれば新しいものが出てくるなど、いたちごっこでもあります」(瀬戸さん)

大麻には大麻取締法によって所持、譲渡、譲受、栽培などが原則として禁止され、営利目的ならば所持などは、7年以下の懲役になる。これまで使用罪はなかったが、改正案が11月14日に衆院を通過。使用に関しても7年以下の懲役に。施行は1年先だが、かなりの抑止力にもなりそうだが……。

市販薬によるオーバードーズの問題も若年層に広がっている

それに加え、薬物の問題は、規制薬物のみでは語れないという。「そこに市販品もプラスして考えなければなりません」と瀬戸さんは言う。

11月22日には、東京・新宿の「トー横」周辺で、無許可で市販薬を販売したとして、21歳、女子高生の容疑者ら男女4人が逮捕された。未成年者に対し正規の価格よりも安く市販品販売を繰り返していた。

東京都新宿区歌舞伎町「新宿東宝ビル」周辺でたむろをする若者の集団の通称「トー横キッズ」
東京都新宿区歌舞伎町「新宿東宝ビル」周辺でたむろをする若者の集団の通称「トー横キッズ」

精神的な不安や苦痛から逃れて、「忘れて快感を得るため」に市販薬を過剰に摂取するオーバードーズ(OD)の問題は深刻だ。

「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」によれば、2016年に市販薬の使用例が現れ、2022年には、高校卒業以上の学歴を有する者では、市販薬症例が、覚せい剤などを上回り全体の65.7%を占めている。使用されるのは、市販のトニン液やプロン液等の咳止めシロップや「金パブ」と呼ばれる「パブロンゴールド」、気管支を拡張する「メジコン」などの感冒薬が代表的だ。

東京の「トー横」、大阪のグリコの看板の下「グリ下」、名古屋のドン・キホーテの横の「ドンヨコ」などで売買されるという。市販薬に加え、病院で出される睡眠薬、抗不安剤などが処方箋を扱うドラッグストアで買われている。

「ドクターも1種類しか出さない、薬局も未成年には売らないなど、積極的に動いています。しかし処方箋の必要な薬を集めてネットで販売している人もいます。生きづらさなどの心理的ストレスがこれを後押しし、やってはいけないという意識がどこかにあっても、悪いものなら法規制されるだろうから、規制されていない薬ならいいや、と手を伸ばします。ネットを見ていたら自分一人の世界ですから、買ってみようかなとなる。これが今の現象を作っています。日本の法律も社会構造も人間も完璧じゃないのです」(瀬戸さん)

「税関をすり抜け、海外からすごい量の薬物が来ている」

これらの状況に拍車をかけたのは、新型コロナウイルスの感染拡大だった。瀬戸さんによれば、アメリカでは鎮痛剤フェンタニルの過剰摂取による死亡者は、毎年数万人だったが、コロナ禍に入ってから10万人に達した。この傾向は、アジアでも同じで、韓国も逮捕者が相次いでいて、全世界に及ぶという。

「海外からものすごい量の薬物が来ている。税関で引っかかるのはごくわずかで、日本で使われている麻薬の数が半端ないので、捜査官の数をいくら増やしたところで、麻薬探知犬の数をいくら増やしたところで、対応できないのが現状です」(瀬戸さん)

冒頭で「手押し」という隠語が出たが、これは手渡しを意味する。つまりは密売人。全国には薬物の売人があふれ、全国に何人いるか分からない。1日1万円のアルバイトで、昨日まで客だった人が、今日売人になっているなど、状況は目まぐるしく変わっていく。

樋田 敦子(ひだ・あつこ)
ルポライター
明治大学法学部卒業後、新聞記者に。10年の記者生活を経てフリーランスに。女性や子どもたちの問題を中心に取材活動を行う。著書に『コロナと女性の貧困2020-2022~サバイブする彼女たちの声を聞いた』『女性と子どもの貧困』『東大を出たあの子は幸せになったのか』(すべ大和書房)がある。NPO法人「CAPセンターJAPAN」理事。

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