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悲しい記憶と歴史を持つ国、ポーランドを歩く。

  • 2023.12.5
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写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はポーランドの古都クラクフ旧市街へ。

クラクフの街を歩きながら感じるいま。

vol.9@ポーランド

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ヴァヴェル城の窓から見たクラクフの街の様子。城としての歴史は1000年以上あるという。

古都クラクフ旧市街の佇まいは風格にあふれ華やかだ。圧倒的な存在感のヴァヴェル城、アールヌーヴォー建築の優美さ、街を代表する教会群内部の様子など、ひとつひとつが独特かつ魅力的だ。奇跡的に戦火を免れたゆえ歴史遺産がそこここにみられる一方、忘れてはならないのは、戦争のせいでとてつもない困難に直面した人々が生きた街でもあるということ(それはクラクフのみではないが)。旧市街の南に位置するカジミェシュは中世の頃からのユダヤ人街で、ヴィスワ川の先のポドグージェ地区にはナチスドイツによって高い壁が築かれ、ユダヤ人を閉じ込めるゲットーとなった。戦争に苦しんだユダヤ人たち、ポーランド人たちの悲劇はとても語りつくせない。それでもなお、戦争がいまも起きていて、多くの人々が路頭に迷っているとは、なんと愚かしいことだろう。隣国ウクライナからの避難民をポーランドの人々が親身に受け入れていて、その優しさには頭が下がる思いだ。

タイトルに惹かれて手に入れた短編集『ポーランドのボクサー』を、この旅の機会に読み、すっかり嵌った。表題作は著者ハルフォンの祖父のアウシュビッツ収容所での体験告白を綴ったオートフィクション。他の短編ではポーランド、グアテマラ、セルビア、イスラエルと舞台を変え、奇妙な体験を読者と共有する。ユダヤ人でなくとも、私たちはそれぞれの歴史を背負いいまを生かされている、そう自覚し世界を歩けと囁かれた気がした。

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夜の中央市場広場にて。ウクライナ国旗を持って支援を求めるデモをする人々。
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クラクフ歴史博物館の前で。ここは映画『シンドラーのリスト』で有名なシンドラーの経営する琺瑯工場だった場所。映画『ソフィーの選択』『イーダ』でも、ポーランドとユダヤの関係を知ることができる。

●『ポーランドのボクサー』エドゥアルド・ハルフォン著松本健二訳白水社刊¥2,860●『ソフィーの選択』監督/アラン・J・パクラ1982 年、アメリカ映画151分U-NEXTで配信中●『イーダ』監督/パヴェウ・パヴリコフスキ2014年、ポーランド、デンマーク映画80分http://mermaidfilms.co.jp/ida

*「フィガロジャポン」2023年11月号より抜粋

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