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眞栄田郷敦さんが刻む「途切れさせてはいけない感覚」 映画初主演「彼方の閃光」で戦争の記憶をたどる

  • 2023.12.5
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沖縄や長崎を舞台に、戦争の記憶をたどる若者たちの姿を描いた映画「彼方の閃光」が12月8日から公開されます。訪れた旅先で出会った人たちとの交流を通して「戦争とは? 敵とは?」と次世代へ問いかけるロードムービーです。本作で映画初主演を務めたのは、俳優の眞栄田郷敦さん(23)。眞栄田さんが本作を通して感じた戦争への思いや役への取り組み方、共演者とご自身の父・千葉真一さんが重なったエピソードなどをうかがいました。

子どもの頃の経験があるから、人に寄り添える

――まずは本作の脚本を読んで、どんな感情や思いがわきましたか。

眞栄田郷敦さん(以下、眞栄田): 最初に読んだ時は「難しいな」と感じました。すぐに理解できない部分もあったのですが、この作品が伝えてくるメッセージが僕の中にバチっと来て、しばらくは余韻に浸っていましたね。何と言ってもキャラクターそれぞれに魅力があって、僕が演じる光の複雑な内面が人との出会いによって変わっていく様子にとても惹かれて、早く撮影がしたいなという気持ちでした。

――そこからどういう風に「光」という役を組み立てていかれたのでしょう。

眞栄田: 光は幼少期に目が見えなかったので、世の中にあるものの美しさが物理的には分からないし、なかなか感じにくい状況を過ごしてきたと思います。世間に対するおびえや怖さみたいなものを抱えていたところもあったと思うので、成人した光が初めて登場するシーンでは、割ととがった青年をイメージして演じました。でも、子どもの頃にそういう経験をしているからこそ、旅先で出会った友部さん(池内博之)をはじめ、詠美さん(Awich)や⽷洲さん(尚玄)、戦争によってできた大きな傷を未だに抱えている人たちに寄り添える人物なのかなというところが、役を作る上でベースになりました。

朝日新聞telling,(テリング)

――⼿術で目が⾒えるようになったものの、⾊を認識することができない光ですが、「色のない世界で生きる」ということ、「色のない世界で生きる人が色を得る」ということはどんな体験だと想像しますか?

眞栄田: 光は⾊彩を感じられない代わりに、別の感性を持っていると思うんです。なので、色が見えない分、物をよく観察したり、何かに触れてみたり匂いをかいだり。演じる上でそういうちょっとした動きを大事にしていました。

色が見えなかった時の状態というのは、想像しても全てを理解することはできないと思いますが、色が見えないことのストレスもあるだろうし、見えるからこそ、いいものも悪いものも見えるという面もあると思うんです。なので、手術が終わってからの光の人生が果たして幸せだったのかということをすごく考えました。

父と重なったヒゲ、肌の感触、匂い

――友部役を演じた池内さんについて、「父親に見える瞬間があった」と話されていましたが、千葉真一さんとどんなところが重なったのでしょうか。

眞栄田: 体型やヒゲの感じ、肌の感触や触られている感覚、匂いなどが父とすごくリンクしたんです。作中で友部さんに抱きしめられるシーンがあるのですが、その時は涙が止まらなくなりました。池内さんを自分に近い存在と感じていたので、そこも芝居というよりは自然にスッと入ることができたし、演技にアウトプットできたと思います。

朝日新聞telling,(テリング)

――原爆や戦争を題材としたドキュメンタリー映画の製作のため、光は友部と共に⻑崎と沖縄の戦争の痕跡をたどりますが、眞栄田さんは実際に現地に立ってみてどんなことを感じましたか?

眞栄田: 沖縄で撮影した時は、ほとんど芝居をしていなかったといってもいいくらいでした。その場所自体に説得力があるので、そこで聞く詠美さんや⽷洲さんの言葉にもより説得力があって、胸にすっと入ってきたものがありました。特に僕は沖縄の轟壕(とどろきごう)が強く印象に残っています。戦時中、最⼤で1000⼈以上の住⺠や⽇本兵が避難していたという話は聞いていましたが、実際に中に⼊ってみると想像を絶するほどの閉塞的な空間で、「本当にこんなところで生活していたのか」と衝撃を受けました。

多分日本人の多くは、物心ついた頃から「戦争はいけないことなんだ」とか「これからもずっと忘れずに、伝えていかないといけないことなんだ」ということを聞かされ、教えられてきたと思うんですけど、なぜそう言われているのかという本質の部分を、心の底から実感した場所でした。

――作中、「今も至る所で爆弾が爆発しているんだ」「戦争は人間の仕業です」といった胸に刺さる言葉の数々がありましたが、眞栄田さんが特に印象的だったセリフは何でしたか?

眞栄田: やっぱり「戦争は理屈じゃなく、ダメなものはダメなんだ」という言葉ですね。 そのメッセージがこの映画のすべてだと思います。戦争の被害者に寄り添うことの難しさや、未だに戦火の消えない世界の虚しさを感じながらも、この撮影での体験を経て、戦争の残酷さや悲しさを自分が伝えていく立場なんだなということを、初めて理解できたような気がします。

朝日新聞telling,(テリング)

――戦争を知らない、経験していない私たちがすべきこと、受け継いでいかなければならないことはどんなことだと思われますか?

眞栄田: 「戦争をしてはいけない」と学校などで教わるだけでは、「戦争も原爆投下もこの国で起こったこと」と身近に感じることは難しいかもしれません。それでも、みんなどこかで「やっぱり戦争はダメだ」という共通認識は持っているはず。僕はまず、その意識を一人一人が持っていることが大事だと思っています。

光のように、実際に現地に行って戦争の痕を身近に感じることまではしないとしても、その感覚だけはこれからもずっと途切れないようにしなくてはいけないと、この作品で改めて感じました。

ヘアメイク:窪田健吾(aiutare)
スタイリスト:MASAYA(PLY)

■根津香菜子のプロフィール
ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。

■慎 芝賢のプロフィール
2007年来日。芸術学部写真学科卒業後、出版社カメラマンとして勤務。2014年からフリーランス。

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