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土との対話が生み出す、唯一無二の器。山本憲卓さんが工房を構える沖縄・読谷村へ 【コウケンテツのヒトワザ巡り・番外編】

  • 2023.12.5
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料理家のコウケンテツさんが、器や調理道具の作り手のもとを訪れ、作品が生まれるまでの背景を尋ねる「リンネル」の連載「コウケンテツのヒトワザ巡り」。第6回では、焼き物の文化が根付いた沖縄・読谷村で作陶に取り組む、山本憲卓さんの工房へ。誌面には書ききれなかったエピソードをお伝えします。

【山本憲卓さん】 1984年生まれ、三重県出身。2007年、沖縄県立芸術大学卒業、2008年同大学研究生修了。大嶺實清氏に師事後、2016年にヤマモト工房を設立。登り窯を焚くことでつながった「Miech Machu」(@miech_machu)の一員でもある。 【コウケンテツさん】 料理研究家。旬の素材を活かした韓国料理をはじめ幅広いレパートリーを気軽に作れるレシピが人気。雑誌をはじめ、テレビ、SNS、YouTubeなど多方面で活躍中。 インスタグラム @kohkentetsu YouTube @kohkentetsukitchen  

火の力によって、器の「表情」が生まれる

レストランやホテルからの依頼も多いという山本さんの器。デンマークのレストラン「noma」が手がけた「noma Kyoto」でも作品が使われたそう

大切にしているのは、火と土が生み出す、唯一無二の表現。人の手を加えすぎず、土が本来持っている個性を活かして焼き上げることで、力強く美しい器を作り出している山本憲卓さん。特徴的な燃えるような赤みがかった器は、火の力によって生まれるのだそう。

「僕は主に登り窯を使って焼いているのですが、作り手にはコントロールしきれない、イレギュラーなものが生まれるのが面白い。窯に入れる場所によって火の当たり方が違うので、同じ土でも色が変わるんです。火の力だけで人間には作れない表情が出るので、僕は絵を描いたり、装飾をすることはほとんどしません」

「想像もしていなかった、イレギュラーなものが出てくるのが面白い」と山本さん

仲間たちと力を合わせて取り組む「登り窯」

登り窯は、斜面に沿って階段状に築いた窯のことで、何日にもわたって薪を入れ、焚き続けるというもの。山本さんは数カ月に1度、仲間たちとともに、自身の出身校でもある沖縄県立芸術大学内に作った登り窯で器を焼いているそう。

「登り窯は1人、2人ではできないので、大学の卒業生や登り窯に興味がある人を集めて、火の番を交代しながらやっています。まだ独立したばかりの若い作家や学生も、準備を含めた一連のプロセスを体験できるし、作ったものがどうやって売れていくのか……という販路が見えるのも、共同で窯を持つことの利点ですね。芸術がお金儲けになってはいけない、という考えもあるけど、売る方法を知ることも重要だと思うので」

釉薬をかけずに高温で焼き上げた器は、マットで力強い質感が魅力

山本さん自身は、三重県の出身。大学入学を機に沖縄へ移って陶芸を学んだのち、読谷村の共同窯「読谷山共同窯」を築いた陶芸家の一人である大嶺實清さんに弟子入りします。

「もともとは彫刻に興味があったんですけど、受験のときに通った予備校で褒められたのが粘土だけで。大学で工芸を専攻して、陶芸を始めてもう21年目ですね。卒業後はインドへ行ったりして、ぶらぶらした後、学生時代にアルバイトをしていた大嶺さんの工房へ入ったんです」

沖縄の海泥「クチャ」を使ったことで、溶岩があふれ出したようなユニークな形に

大学で陶芸を学び、読谷村の工房へ

陶芸を始めたばかりの頃は、まだ自分の作りたいものが定まらず、試行錯誤していた時期も。ターニングポイントとなったのは、沖縄の「クチャ」を使った作品でした。

「大嶺工房の仕事が身についていたので、何も考えないと、自然と工房のときと同じように動いてしまう。そうすると、作る器も工房のものになってしまうんですよね。その葛藤で作れなくなった時期もありました。そんなときに、沖縄のクチャを使ったオブジェのような作品を作って。クチャは沖縄の海底に堆積した泥のことで、有機物を含んでいるせいか、箱に入れて焼くとふたを持ち上げるくらいにガスが出て膨張するんです。めちゃめちゃ面白いですよね。こんなに予想もしなかったものが出てくるんだから、もう受け入れるしかない。そういうマインドになってからは、すごく楽になりました」

バケツに入っているのは、山本さんが県内各地で集めてきた土。「土へのこだわりがすごい! 下ごしらえが重要なところは、料理と同じですね」とコウさん

土ごとに異なる、個性や魅力を追求

素材の面白さを実感した山本さんは、さらに土の特性を追求するように。県内のあちこちから集めてきた土が並ぶ工房の庭は、さながら実験室のようです。

「作陶に使う土のほとんどは自分で集めたものですね。市販の作陶用の土は整っていて使いやすいんですけど、イレギュラーなものは出てこないので。取ってきた土は漉して、混じっている石を取り除いたり、鉄粉を砕いたりして。手間がかかりますけど、試していく工程も楽しい。作り手の想像を超えた質感や色が出てくるのが、陶芸の難しさでもあり、面白いところでもあるんです」

工房の屋根には、かわいらしいシーサーの姿も

photograph : Tsunetaka Shimabukuro text :Hanae Kudo
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