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「F/CE.」がつなぐファッションとキャンプ。人を介して広がる世界

  • 2023.12.3

F/CE.デザイナー 山根敏史さん

プロフィール/愛知県生まれ。ファッションデザイナーとしてアパレル会社で勤務後、クロックス日本法人の設立に携わる。2010年に自身のブランド「F/CE.」を立ち上げる。翌年、デンマークのアウトドアブランド「ノルディスク」のパートナー事業をスタートし、世界初のオフィシャルコンセプトストア「ノルディスクキャンプサプライストア」をオープン。2022年には「SHISEIDO」ビューティーコンサルタントのユニフォームを手がけるなど、活動の幅は広い。バンド「toe」のベーシストとしても知られる。

自然の中で生きる術を学んだボーイスカウトが原点

「さまざまなアウトドアというよりは、キャンプばかりしていましたね。登山もしてみたんですけど、ストイック過ぎてしっくりこなくて。アウトドアに対する自分の位置付けは、もっと趣味に近いものだと思います」

――アウトドアやキャンプの楽しさに目覚めたきっかけは何でしたか?

山根敏史さん(以下「山根」):小学校のときにボーイスカウトをやっていたんですよ。そこで飯ごう炊飯をやったり、キャンプファイヤーの木の組み方や道具の使い方を知って。原始的というか、生きる術を学ぶような感じでした。そのとき、まさかこういう仕事やるとは思ってなかったのですが、今思うと、その体験が原点なのかもしれません。

――キャンプは継続的にされていましたか?

山根:いえ、全寮制の高校に行っていたりしたので、23歳で東京に出てきてからまた始めました。ボーイスカウトの頃とは違って、道具に興味を持っていったんです。ヴィンテージのコールマンのギアとか「これ、どうやって使うんだろう」っていう。ずっとラジコンやミニ四駆なんかで遊んでいて、物をつくるのも好きだったんですよ。わりとそういうのが得意というか。新しい電化製品やゲームを買ってもまずは説明書を読みますね。

――説明書を読みこむ…なかなかめずらしいですよね。

山根:子どもの頃からまず説明書を読み込んで、スタートするという性格だったんです。新しいゲームを買ったとなったら、まず攻略本とかバイブルみたいなものを手に入れて、そこから想像を膨らませて始めるタイプ。だから道具を研究したり、自分らしく使うにはどうするか考えるのが好きで。70年代のコールマンはこんなロゴだったんだというところから、洋服にも興味がいって、パタゴニアのフリースとか…。

テクノロジーを持ち込むキャンプもまた楽しい

――今もキャンプはされていますか?

山根:子どもが小さいうちはなかなか行けなかったですが、今は小1と小4で、最近ようやく一緒に行けるようになりましたね。

――キャンプでは、どんな過ごし方をしていますか?

山根:最近、プロジェクターを買ったんですよ。アンカーの小さいやつ。それとスクリーンを買って、ネットフリックスを観たりしています。食事はできるだけ簡単に終わらせたいから、肉を焼くだけとか、パエリアみたいに放っておいたらできるようなものになりますね。材料も家で全部切って準備しておいてあとは入れるだけみたいな。

――音楽を聴いたりもしますか?

山根:映画を見たり、子どもとゲームやったりするときは、もちろんちゃんと音がありますが、基本的にはキャンプするときはほぼ無音が好きなんです。川の音や火のパチパチする音のほうが気持ちいい。だから「キャンプで聞きたい音楽は何ですか」と言われても、「自然の音が聞きたいです」ってなります。

あと、2年ぐらい前に古いキャンピングカーを買ったんですよ。テントを立てずにその中で遊ぶということもしています。焚き火ができるRVパークもありますし、電源が取れるところならエアコンも使えるし、もう完璧ですよ。シャワーもありますしね。

「キャンプは自分の逃げ場所かもしれません。携帯も切っちゃいますし、完全にキャンプを楽しむための態勢でいきたいんですよ。普段あまり子供たちと一緒にいてあげられないこともあるので、唯一そのときに息子と男同士の話をしたりもします。あとはしばらく火を入れていなかったから、入れておこうとか、道具のメンテナンスをする場所でもありますね」

――キャンピングカーを買おうと思った理由は何だったのでしょうか?

山根:私たちが運営している「ノルディスクキャンプサプライストア」のお店の近くに自分のキャンプ道具を置く倉庫を借りているんですけど、まず、そこまで道具を取りに行かなきゃいけないし、準備をしなきゃいけない。たとえばガス缶とか、ちゃん残量を点検したりとか、けっこう大変な作業になってしまうんですよね。

――キャンピングカーならその手間が減るわけですね。

山根:仕事をしていると平日は忙しいですし。でも、「説明書を読み込む」という話にも繋がりますが、行くなら抜かりなくちゃんとやりたいんですよ。やっぱりいい道具を使いたいですしね。

私が使っているテントにはけっこう大きいものもあって。車にキャリアを付けないといけないんですね。クーラーボックスも2日間くらい過ごそうと思ったら大きくなりますよね。子どもたちを後部座席に乗せるとラゲッジルームはパンパン。道具としていいものや好きなものを使おうと思うと、それなりにスペースも取るし、冬になればストーブやバーナーもいるし、寝袋も大きくなるし…、テトリスみたいに詰め込むのがストレスに感じてきて、それでキャンピングカーを買おうと思ったんです。

――テクノロジーを持ち込みつつも、自然の中で使うことに意味があるという。

山根:自然はすごく好きで、いろんな発見があるというか。ものづくりのヒントになるものもたくさんあります。仕事で行ったフィンランドのヘルシンキで見た森のテクスチャが素敵だとか、色もそうですし、自然に生息するものと人の関わり方だったり。

「山根キャンプ用品店」構想を「ノルディスク」に

――やはり北欧に行かれることが多いですか?

山根:年に1回、ノルディスクのグローバルミーティングでデンマークに行きます。そこはコペンハーゲンではなく、シルケボーという第2都市。本当の森の中に本社があるんですよ。そういう環境が目に焼き付いていて。日常にそれがあって、その上での過ごし方といいますか。東京では味わえない感覚があって、そういうところを突き詰めていくと、やっぱり自然の中に入ると身になるものがたくさんあるなという。

――そういうものを体験するために、自然の中に向かうという感じでしょうか。

山根:そうですね。北欧のキャンパーや100年以上残っているブランドの在り方を知りたいというのもノルディスクのビジネスをやっている理由の1つかもしれないです。それは簡単に通れる道ではないと思うんですよ。本当に選ばれた人やそれが好きな人じゃないとできないことだ思いますし。それを体験できているというのは、自分のバックグラウンドとして生きているかなって。

――ノルディスクの社長とはもともとお知り合いだったんですか?

山根:独立したぐらいから現ノルディスクジャパンの社長を通じて知り合いです。一緒に何かやりたいとはずっと言われていたんですが、日本進出を本気で考えたいという話があって。

私はもともとキャンプ道具が好きだったので、服とキャンプ道具を一緒に売るお店をやりたかったんですよ。独立する前から考えていた事業計画のようなものが「山根キャンプ用品店」みたいなことで。アウトドア用のウェアを求めている人だけじゃなくて、テック系のファッション好きも来られる用品店という構想だったんですが、そのままノルディスクのプランに落とし込んで今の形ができました。

キャンプとファッションがクロスオーバーする提案を

――キャンプにまつわるものを作っていきたいという気持ちはそれまでもあったんでしょうか?

山根:キャンプ道具と服を一緒に売ったらおもしろいなとは思っていて。ただ服はファッションのものをやっぱり売りたかったから、自分でブランドを作りつつ、そういう提案をしたんです。洋服とキャンプっていうのが、F/CE.を運営する私たちの会社の強みだし、自分自身の強みでもありますからね。

今だと当たり前になっている感はあるんですけど、当時そういうお店はあまりなくて。「ノルディスクキャンプサプライストア」を作ったとき、レセプションをしたら600人くらい来たんですよ。とても話題になって。いろいろな方面からすごくありがたいお言葉をいただきました。でも、斧と一緒に服が売っているみたいな環境が成立するのは日本だけだなとも思っていて。

――海外にはあまりそういうお店はないんですね。

山根:ちらほらそういうお店も出てきているのかもしれないですけど、私は見たことないですね。ファッションとキャンプをクロスオーバーすることがあまりないと思うんですよ。アウトドアとモードを組み合わせた「ゴープコア」みたいな言葉もありますけど、そういうトレンドとして触れられただけで。海外の人のキャンプって、ファミリーで行って気負いなく楽しむアクティビティだと思うんです。わざわざおしゃれしてキャンプ行きましょうっていう概念はないですよね。

私がデンマークのセールスミーティングで行くときなんかも、もう超雑多というか。ミーティング自体もテント泊なんですが、寝袋とマットを渡されるだけです。ライトもないし、「なんでライトいるの? 携帯でいいじゃん」みたいな。

かっこいいライトを使いたいだとか、道具に関心を持つのは、日本人だけかもしれないですね。でも、その感覚を自分は持っているし、おもしろいと思って。ノルディスクを私たちの会社でやることで、その感覚をもっと広められるんじゃないかと。

「私たちの友達も結構いますけど、ガレージブランドさんみたいな文化って欧米の人にはないんですよね。個性的なテーブルだとか、LEDランタンとか、今は便利でしゃれたものがたくさんありますけど、そういうところにいち早く行き着くのが日本人なのかなと」

――今、日本にある「ファッションも、キャンプも」というシーンは、日本ならではという感じなんですね。

山根:もちろん、ファッションに興味のない人たちもたくさんいますよね。でも、自然を楽しむことや好きな服を着ることは、自分のモチベーションを上げて、生活を向上させるという共通点があって、それがヒントになるのではないかと。アウトドアは好きだけど服には興味がないなんて方がいたとして、私たちの店では、服にも興味が持てるようなシチュエーションを用意して、アウトドアにファッションも合わせてご提案するということをしています。

服やアウトドアを通して、ソーシャルデザインを創成する

「F/CE.は、ヨーロッパを中心に海外での販売も好調なんですが、今まで卸でやっていたことを、イギリスに会社を作り、自分たちで流通も担うことにしました。直接届けられることによって、これまでよりは買いやすい価格でお客様に提供できるようになるかと思います。もちろんリスクもありますが、それもソーシャルデザインの一環ですし、物を通して何かやっていく形みたいなものを、もっと考えていきたいなと思っています」

――F/CE.として、今後の展望を教えてください。

山根:私たちが作っているバッグや服は、十分自然の中でも楽しめるものです。通気性がいいとか、熱を逃がす、または維持するとか、機能が付いている服が多いですし、今後もやっぱりそういうものづくりを続けていくと思うんですよ。

私は、洋服やアウトドアをソーシャルデザインのひとつにしたくて。目に見えるデザインじゃなくて、それを持っていることでコミュニケーションが生まれるとか、話のネタになるとか。そういうことをブランドの価値として、また、お客さんのベネフィットとして提案できないと、ブランドが存在している意味がないとも思っています。それを意識して、ブランドのアイデンティティをもっと固めて、世の中や世界にコミットしていきたいですね。

「ABSの樹脂のカヤックだと、置き場所もとるし、日本だと難しいなと思っていたところで、フジタカヌー研究所さんとフォルボットさんで作っていたフォールディングカヤックを見つけて、別注させてもらいたいと。カヤック作ろうっていうファッションブランド、あんまりないですよね(笑)」

――カヤックのような遊び道具も作られていますが、それもソーシャルデザインを意識して。

山根:カヤックを作ったきっかけはノルディスクのセールスミーティングです。シルケボー湖というデンマークのナショナルチームが練習してるようなとても大きい湖があって、毎年カヤックで8kmぐらいを横断するアクティビティが行われるんですよ。

カヤックかマウンテンバイクか、ランニング。本社から次のセールスミーティングの場所に行く手段を選べるんですが、私はカヤックが好きで。いつかカヤックを作りたいなと思っていたんです。

「2シーターがデフォルトなんですけど、フジタカヌー研究所さんが販売してるアタッチメントを真ん中に付けて、3人で乗ることもできるんですよ。うちの場合は私と子どもを2人を乗せて楽しんでいます」

――ご自身が乗りたかったからという感じですね。

山根:F/CE.は毎シーズンどこかの国をテーマにしているんですけど、ちょうどこのときのテーマがデンマークだったんです。デンマークでは一家に1台カヤックがあるぐらい、盛んなアクティビティなんですよ。

F/CE.で別注したカヤックはタクティカルベルトがたくさん付いているので、テーブルみたいなものをくくりつけて、ビールを置いたりできます。お酒を飲みながらこぐのが気持ちいいんですよね。あと、カヤックって水面が近いんです。足は水面より下になりますし、そこから見渡す景色は、船では見られないもので。湖の真ん中で霧がふわってなっている幻想的な情景とか、普段見られない景色が見られるのがすごく好きですね。

自分が体験したホスピタリティを、みんなにも体験してほしい

――今までのアウトドア体験で印象深いことは何ですか?

山根:一昨年のノルディスクのセールスミーティングで早朝から夕方まで、多分6時間ぐらいカヌーに乗ったんですよ。しかも向かい風がすごく強くて。本当にしんどいなと思いながら、パドルをこぎ過ぎて、血が出るぐらいでした。でもノルディスクのパートナーたちはアウトドアズマンが多いので、みんなすごく速いんですよ。もちろん私はビリで。

途中で一回上がって、みんなでランチして「はい、また乗りますよ」みたいな。「自信がなければタンデムにするか」と聞かれるんですけど、「いやいや、全然1人で大丈夫です」って見栄張って(笑)。でも、すごくきつくて。「もう帰りたいんだけど」ってなったときですかね。


――辛かった体験ですね。

山根:辛かったんですけど、終わった後の時間がすばらしくて。ノルディスク側がブライアン・ボーセンさんっていうデンマークのアウトドア料理家を招いていて、料理を振る舞ってくれたんです。デンマークらしい美しい料理をダイナミックに調理するっていう、ワイルドな人なんですよ。くるくる回っている豚の丸焼きをナイフで大胆にさばいたり、最後に斧をばーんってぶっ刺したりする姿がとてもきれいで。もちろんおいしいし。そのときに、これは日本じゃ体験できないなと。その日のカヤックは辛かったんですが、その後にこんな体験を提供できるホスピタリティはすごいなと思いましたし、この仕事をやっていてよかったと感動しました。

――そういった体験がブランドやお店の運営に生きていますか?

山根:自分たちがアウトドアで何かやろうってなったときに、見習わなきゃいけないなと感じました。社内でも私たちのお店に来てくれるお客さまと一緒にキャンプしたいねっていう話になっていて。デンマークで体験したホスピタリティをみんなに伝えたいなと。あの体験が自分の宝になっているかもしれないですね。まさに自分たちがやりたかったことのヒントになったような。ほかの社員にも経験させてあげたいと思って、翌年から仕入れの担当と店舗のマネージャーは連れて行くようにしています。

アウトドアを通した人との出会いが目指すものにつながる

「最初のブランド名「フィクチュール」は造語で、読めない人が多かったんですよ。これ何て読むのって聞かれて答えるのが面倒になってきて(笑)。そこで私たちが大事にしているフィロソフィーをもう一度伝えるために、「ファンクショナリティ」「カルチャー」「エクスプロレーション」の頭文字を取って、F/CE.にしました」

――アウトドアを経験することでご自身の人生で得たことは、何でしょうか?

山根:「人」ですね。自分がしているデザイナーという仕事もそうだし、ノルディスクのお店もそうですけど、アウトドアをしていることで知り合った人たちに学んだことがたくさんあります。10人いたら10人の価値の考え方が違うし、それを本業でやられてる方もいれば、そうじゃない方もいらっしゃいますから。自分の場合はキャンプというコンテンツになりますが、キャンプという本気でやらなくても成立するもの、たとえばラジコンと同じ感覚でできるものから「人」につながっていくのが面白いなと。

自分が目指している、F/CE.を通したソーシャルデザインやソーシャルネットワーク形成のようなことって、そんなふうにつながっていくのかもしれません。「人」にフォーカスしていくと、そういう出会いを作ってくれたのは「キャンプ」ということになりますね

撮影/薮内 努(TAKIBI)

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