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「みんなと同じじゃないといけないという呪縛をかけているのは自分」 #07 福田麻琴さん (スタイリスト) 前編

  • 2023.12.1

「先日西洋占星術の先生に、『子どもを授かったのは人生のオプションだった』って言われたんです。人それぞれ人生の中で縁があること、例えば家族や子ども、仕事とか割合が違うんだけど、私の場合ははっきりと仕事に関わる縁に偏っていて。子どもを授かる人生ではなかったかもしれないけどオプションできてくれたから、仕事ばかりに夢中にならず自分に子どもがいることを常に意識してって(笑)」

思い返すと、若い頃は子どもがいる人生を思い浮かべたことがなかったし、家族や結婚、子どもを夢見て大人にはならなかったと話す福田さん。それでもいざママになってみたら、「めちゃくちゃ向いてたと思う(笑)。お腹の中にいる時は、すごく心強かった」と妊婦中を振り返る。

「妊婦の時は、この大きなお腹でできることなんだろうって考えてお腹に絵を描いて写真を撮ったり、安定期に入ってすぐ仕事を休んで1人でフランスへ旅行したり。常にその状況をベストで楽しむことを考えていました。体調も良かったから、臨月まで働いていたし。今思うとまわりの方がハラハラしていたかも」

出産したのは34歳の時。無痛分娩だった。生まれる時にへその緒が絡まっていたこともあって、息子はしばらく保育器に。「病院では夜中にパッと目が覚めて、痛い体を引きずりながら子どもがいる保育器の部屋へ何度も確認しに行きました。疲れていて体力もないはずなのに、どうしても気になる。あの気持ちって動物の本能なんでしょうか」。これまで子どもがいる暮らしを思い描いていなかったけれど、いっきに母性が溢れ、内面の変化に気づいた瞬間だった。

産後は、3ヶ月で仕事に復帰。11月に出産し、保育園も翌年4月に入園が決まりスムーズな流れだった。

「無痛だから回復も早かったかもしれません。復帰が早いと感じる人もいるかもしれないけど、タイミングよく保育園にも入れたし、これも仕事をする運命だったのかなって今は思います」

出産前から人気スタイリストとして活躍していた福田さん。仕事に復帰してからもすぐに忙しい日々を送ることになる。「もう訳がわからないままやっていた」という福田さんにとって、何より家族の助けは大きかった。幸い、夫も福田さんも関東出身。両親や姉妹、義母が近かったこともあり家族総出で復帰をサポートしてくれた。

グループLINEでスケジュールを全員と共有。自ら“シフトリーダー”となり、「月曜は義母がお迎えで、そのあと父にチェンジして…」といった感じで、それぞれのタスクを管理した。「スケジュールを書き込むのは私の担当でした。大変そうに感じるけど、意外にもその作業が妙に楽しくて(笑)。仕事柄、時間の使い方が上手な方だと思うんです。誰も余すことなくタスクを遂行できるようパズルのようにシフトを組むことに燃えてましたね(笑)。息子はみんなに育ててもらったと思っています」

“頼る”ということは、子育て中のママにとって悩みのひとつ。姑や実母との関係性や子育ての方針の違い、そもそも人に頼るのが得意ではない性格など、ママの数だけ“頼れない”理由はある。どんな理由であれ、とにかく頼らざるを得なかった福田さんは、母や義母にも謝礼を渡してお願いすることでお互いWin-Winの関係を築けるよう工夫したり、発表会や運動会、遠足などの様子をまめに報告したり、写真はデータでアルバムを作ってシェアしたりと、気遣いやコミュニケーションも意識した。

「母には仕事を辞めて手伝ってもらっていましたから、その方がお互い気持ちよくできるかなって。義母は遠慮して受け取ってくれないので、口座を作って毎月ちょっとずつ貯めています。いつか渡せるといいな。実母なんて…『7時は早朝料金ですね』とか、上手にぼったくられました(笑)。逆にこちらも後ろめたくないし、楽しいからまあいいかって。なんでもおもしろければどうにかなるという考え方なんです

おかげでこれまでシッターさんにお願いしたこともなく、夜に誰もお迎えに行けないということもなかった。誰かしら大人がいるというありがたい環境だったけれど、やっぱり仕事と子育てを同じくらいのパワーで両立するのは簡単ではないと身を持って実感したという福田さん。

「仕事と子育ての両立は、身内でも制度でもまわりの大人に頼るのは必要だと思う。それによる悩みも増えるかもしれないけれど。家族とはいえ他人だから完璧には合わないし、買ってくれた洋服にギョッとすることも(笑)。ただ、自分の指針はこれ!って決めてしまうとできなかった時が辛いから、“違い”もポジティブに捉えて、なんでもおもしろおかしくいたいって思うんです。それでも行き違いは生まれるものだから、その都度感じたことやわからないこと、お礼もちゃんと言葉で伝えることが大事かな。モヤモヤした気持ちをそのままにして、変な勘違いや捉え違いでこじれてしまうのが嫌なんです。私は相手の本音や意図がわからないとはっきり聞いてしまいます。実母には威圧的に見えるから気をつけなさいって言われるんだけど…」

恵まれた環境だったとはいえ、福田さんにも子育てのなかで壁にぶつかることもあった。そのひとつが働くママなら誰もが経験があるであろう「夜遅くなってしまう罪悪感」。撮影の終了時間が延びてしまったり、夜遅い時間に打ち合わせが入ってしまったりして保育園のお迎えが最後になってしまうことも少なくなかった。

「先生に『すみません、すみません』って言いながら連れて帰り、帰りに自転車を漕ぎながら涙が出てしまうこともありました。私はダメな母親だと。ごめんね、ごめんねって言いながら。そんなときに出会ったのが、児童精神科医の佐々木正美先生の本。子どもに『ごめんね』っていうと、子どもも『悪いことをされたんだ』という気持ちになってしまうし、お母さんも謝るのは辛い。だから、『待っていてくれてありがとうね。おかげでママは大好きな仕事をいっぱいできたよ』と言うことで、子どもは『待っていた寂しい時間が、ママの役に立ったんだ』と思える。そうすると子どもも嬉しいからって。ついごめんって思ってしまうけど、『ありがとね』って言うようにしていました」

言葉の選び方ひとつで、相手の気持ちや受け取り方が変わる。なるべくポジティブな言い方を探しながら、感じなくてもいいはずの罪悪感を拭ってきた。女性が働くことも、ママが働くことも、悪いことじゃない。こうしなきゃいけないはない、みんなと同じじゃないといけないという呪縛をかけているのは、もしかしたら自分なのではと気づいたという。

「最近ミニスカートを履いているんです。今年の夏にパリを訪れた時、80歳くらいのマダムが焼けた肌でかっこよくミニスカートを着こなしていて。それを見て、一瞬『私には履けないかな』って思ったんだけど、そもそも何歳からはミニスカートを履いちゃいけない、膝を出しちゃいけないって誰が決めたんだろう。そう思ったら、ちょっと履いてみようかなという気分に。同じように、私は仕事ばかりで子育てができていないという呪縛も自分で勝手にかけていたかもしれない。考え方の視点をちょっと変えると、もっとハッピーに働けるかなと思って。もちろん優先順位を考えるけれど、ごめんねと思いながらやらなくていいし、『私は誇りを持って、やりたいからやってます』と胸を張って仕事したいな

 福田麻琴 スタイリスト

スタイリスト。1978年生まれ。『LEE』『VERY』『mi-mollet』など女性誌やwebマガジンのスタイリングを中心に広告、CMの他、エッセイの執筆、ブランドのディレクション、バイイング、コラボ商品開発など幅広いジャンルで活躍中。30歳でフランス留学を経験。現地で身についたフレンチテイストに抜け感を加えたベーシックスタイルはファンも多い。著書に『38歳から着たい服』(すばる舎)や『私たちに「今」似合う服~新しいベーシックスタイルの見つけ方』(大和書房)、『MY BASIC,MY ICONS 10年後も着たい服』(イースト・プレス)などがある。
インスタグラム:@makoto087

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