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美鳥の存在が意味するものは? 人間関係はままならなさに満ちている 『いちばんすきな花』7話

  • 2023.11.28

ドラマ『いちばんすきな花』(フジ系)は、『silent』脚本の生方美久とプロデューサーの村瀬健がふたたびタッグを組む作品。多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠が主演を務めるクアトロスタイルで描かれる。テーマは「男女の間に友情は成立するのか?」。第7話は、春木椿(松下)の引っ越しを機に危ぶまれる4人の関係性、そして、ついに登場した美鳥の存在に迫る回だった。

新しい「部室」はどこになる?

誰かが誰かの代わりになることは、できるのだろうか。人間関係は、代替可能なのだろうか。

椿が引っ越しを決めたのは、不動産屋を通じて、前に住んでいた人物から家を「買い戻したい」と連絡があったからだった。深雪夜々(今田)いわく、椿は「いつもの良い人を発動しただけ」。相手からの申し出がなければ、きっと椿は引っ越しを決断しなかったはずだ。いつまでもここにいたい、もう少しだけ、この4人で集まれる「部室」があってほしい。そんな思いが、少しだけ4人の間にいさかいを生む。

椿の家で集まれなくなるなら、違う「部室」をつくればいい。どこで集まるかよりも、誰と集まるかが重要だ。潮ゆくえ(多部)は、妹・このみ(齋藤飛鳥)と暮らす自宅で、4人が集まれるかシミュレーションする。しかし、しっくりこない。

こっちがダメなら、あっちにすればいい。あっちも上手くいかないなら、そっちに変えればいい。私たちは大人になるにつれ、代替案を出すのが上手くなる。子どものころのように「これじゃなきゃイヤ!」なんてこだわりは薄くなってくるものだし、そんな態度はワガママだ、と叱られてきたから。

でもきっと、みんな知っている。誰かが誰かの代わりになれることなんて、そうそうないってことを。

赤田鼓太郎(仲野太賀)の妻・峰子(田辺桃子)が、ゆくえの存在を指して「だから嫌なんだよ。私には補えないってことじゃん」と憤ったシーンにも、その“掛け替えのなさ”が示されているように思えた。赤田にとっての、唯一無二の女友達のポジションは、どうあがいても妻の峰子には補えない。

人間関係は、そんな“ままならなさ”に満ちている。

椿と2人組になろうとした夜々

夜々が椿に思いを伝えたのは、「部室」で自宅用の小さなエアホッケーをしながらだった。

4人でいられるあたたかな場所が、なくなってしまうかもしれない。4人になれないなら2人になろう、なんて、そんな浅はかな考えからではないはずだけれど、2人になることで4人の形を保てるなら、と期待した末の行動ではあったかもしれない。夜々の「ここに椿さんを住まわせておくための、代替案として」といったセリフに、そんな心境があらわれているようだ。

夜々がインターネットで買い求めた、2人用の小さなエアホッケーを前にして、椿が言う。「3人とも同じかな。同じくらいみんな、同じように好き」。それに夜々が返す。「同じです。私も3人みんな、同じように好きです」。

椿は優しすぎるがゆえに、「嫌い」でも「一緒にいたくない」でも「結婚はできない」でもなく、ゆくえや佐藤紅葉(神尾)に対する好意と、夜々に対する好意に差はないと示すことで、夜々から距離をとった。夜々もまた、空気を読みすぎてきた人生だったからか、それ以上粘ることをしなかった。

優しすぎる2人の、優しすぎる好意の交換。4人でいれば上手くいくことが、2人になろうとした瞬間に破綻(はたん)する。どこまでも、いつまでも、彼らは4人で、2人組にはなれないのだろうか。

4人をつなぐ美鳥の存在

7話にして、ついに「美鳥ちゃん」の正体が明らかになった。このドラマで、こんな伏線回収の気持ちよさが味わえるなんて。

すでに1話の時点で名前が出ていた美鳥ちゃんは、たびたびゆくえと電話でやりとりをしていた元塾講師だった。さらには、椿が会いたかった中学の同級生でもあり、夜々の従姉妹で、紅葉が繰りかえし口にしていた非常勤講師である可能性も浮上する。

美鳥は「志木美鳥」(田中麗奈)という珍しい名前で、結婚して名字が「小花」になっていた時期もあったという。紅葉が認識している「美鳥」は小花姓で、非常勤講師をやっていた時期にも食い違いはなさそうだ。お互いの知っている「美鳥」の情報を交換し合うさまは、ゆっくりと、間違いさがしの答えを見つけようとしているようにもみえた。

まだ「美鳥」が同一人物であると確定してはいないが、もし同じ「美鳥」だとしたら、4人の出会いは偶然ではなく必然だったのかもしれない。実家のある北海道から東京に戻ってきたらしい彼女には、どうやら簡単には人に明かせない事情があるようだ。

4人の前に姿を現すであろう「美鳥」の存在が、4人にどんな変化をもたらすのか。彼女が正式に自宅を買い戻すことで、4人の「部室」は存続するのか。さらには、もしも4人が5人になったなら、割り切れない奇数の関係性はどんな流れにしたがっていくのだろう。

それでもきっと、彼らの関係性がどんな変化をたどろうと、そこに「正解」や「不正解」はないのだ。間違いさがしのどちらが「正解」で「不正解」なのかは、誰にも決められない。人間は誰しも、少しずつ、何かしら間違いながら生きている。彼らが選んだ答えなら、それが「いちばん」なのだと思う。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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