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概日リズムは15℃の低温で止まり、35℃に温まるとリスタートすることが判明!

  • 2023.11.27
概日リズムは15℃の低温で止まり、35℃に温まるとリスタートすることが判明!
概日リズムは15℃の低温で止まり、35℃に温まるとリスタートすることが判明! / Credit: ExCELLS/NIPS(生理学研究所)(2023)

概日リズムの秘密の一端が解き明かされました。

愛知の生命創成探究センター(ExCELLS)はこのほど、脳にある概日リズムが、約15℃の低温にさらされるとリズムを刻むのを停止し、約35℃まで温まるとリズムを再開させることを発見しました。

これは哺乳類の冬眠のような極端な低体温では、体内時計が一時的にストップし、冬眠が終わった後に新たな時刻からリスタートしていることを示唆しています。

いまだ謎の多い冬眠のメカニズムをひもとく鍵となるようです。

研究の詳細は、2023年11月3日付で科学雑誌『iScience』に掲載されています。

目次

  • 概日リズムはどんな働きをしている?
  • 概日リズムは15℃で止まり、35℃で再開した!

概日リズムはどんな働きをしている?

地球上のあらゆる生物は、約24時間周期で時を刻む「概日リズム」を持っています。

概日リズムは「体内時計」とも呼ばれ、昼夜の明暗サイクルや温度を含む環境変化の予測特定の時刻に生理機能を最大化させるなど、心と体の健康にとって絶対に欠かせません。

私たち哺乳類において概日リズムを作り出しているのは「時計遺伝子」であると考えられています。

具体的には、細胞内にある時計遺伝子の発現と、その遺伝子から作られるタンパク質の合成および分解のサイクルによって概日リズムが生成されるという。

さらにその24時間周期のリズムを制御しているのは、脳の深部にある「視交叉上核(しこうさじょうかく)」という神経細胞の集団です。

これは睡眠覚醒サイクル体温リズムホルモン分泌など、全身のあらゆる生理機能の概日リズムを調節しています。

マウス脳の断面図(左)と視交叉上核の位置(右)
マウス脳の断面図(左)と視交叉上核の位置(右) / Credit: ExCELLS/NIPS(生理学研究所)(2023)

加えて、概日リズムは、自ら時を刻む「自律振動性」、周囲の環境に合わせる「同調性」、温度が変わってもリズム周期を変えない「温度補償性」の3つの重要な機能を持つとされています。

概日リズムは「冬眠中」でも動いたままなのか

私たち哺乳類は体温を常に一定に保つ「恒温動物」です。

だいたい37℃前後に維持し、わずか数℃の変化でも生理機能に支障が出るので、低体温が長く続くと細胞にダメージを負ってしまいます。

一方で食物が不足する真冬の季節には、クマやシマリスなど「冬眠」をする哺乳類がいます。

冬眠に入ると体の熱生産や代謝が抑制された状態となり、体温も環境温度の近くまで低下するのです。

冬眠中だと概日リズムはどうなっているのか?
冬眠中だと概日リズムはどうなっているのか? / Credit: canva

しかし研究者らはこれまで「体温が極端に低下した冬眠中の哺乳類において、概日リズムはそのまま時を刻んでいるのか、それともリズムが変わっているのか」という大きな疑問を抱いていました。

これは過去数十年にわたり研究されていますが、いまだ決着がついていません。

そこで研究チームは、概日リズムが時を刻む様子を温度を変えながら長期間にわたってリアルタイムに観察してみました。

概日リズムは15℃で止まり、35℃で再開した!

これまでの研究では、生きたまま細胞の機能を観察できる「光イメージング技術」を使い、数日〜週レベルの長い期間観察することで、概日リズム中枢である視交叉上核のメカニズムを調べてきました。

今回はさまざまな温度で概日リズムを調べるため、温度制御チャンバーを用い、マウスとハムスターから採取した視交叉上核の活動、特に「時計遺伝子」「細胞内カルシウム」の概日リズムを計測しています。

視交叉上核の「時計遺伝子」と「細胞内カルシウム」のリズムを観察
視交叉上核の「時計遺伝子」と「細胞内カルシウム」のリズムを観察 / Credit: ExCELLS/NIPS(生理学研究所)(2023)

その結果、視交叉上核の時計遺伝子と細胞内カルシウムの概日リズムは、22℃〜35℃の温度ではリズムを刻み続けることが分かりました。

ところが、15℃程度の低温にさらされると活動を停止してリズムが見られなくなることが判明したのです。

また驚くことに、15℃の低温から35℃付近の温度に戻すと、両方の概日リズムの時刻がリセットされて、再び時を刻み始めることが確認されました。

このように、温度に応じて概日リズムが「ストップ」と「リスタート」を繰り返すことは今まで知られていません。

時計遺伝子(緑)と細胞内カルシウム(赤)の概日リズム。A:35℃で12日間測定した概日リズムのデータ、B:35℃で4日、15℃で4日、再び35℃で4日計測したデータ
時計遺伝子(緑)と細胞内カルシウム(赤)の概日リズム。A:35℃で12日間測定した概日リズムのデータ、B:35℃で4日、15℃で4日、再び35℃で4日計測したデータ / Credit: ExCELLS/NIPS(生理学研究所)(2023)

さらにデータを分析すると、15℃では細胞内カルシウム濃度が上昇した状態でリズムが停止していることを発見。

それと同時に、35℃への復温後には、概日カルシウムリズムが速やかに安定なリズムを回復するのに対し、時計遺伝子のリズムは数日かけて次第に概日カルシウムリズムに追随するようにリズムを回復させていました。

これについてチームは、細胞内カルシウムリズムが時計遺伝子の活動リズムを制御していることを示しており、概日リズムの働きにとっては、時計遺伝子のみならず細胞内カルシウムも重要であることを意味すると話しています。

概日リズムの制御には「時計遺伝子」と「細胞内カルシウム」が重要
概日リズムの制御には「時計遺伝子」と「細胞内カルシウム」が重要 / Credit: ExCELLS/NIPS(生理学研究所)(2023)

以上の結果は、長年の謎であった「冬眠中に概日リズムは動いているのか、止まっているのか」という問いの答えを提示するものです。

チームはこれを受けて、下のようなユニークな研究イメージのイラストを公開しました。

これはルイス・キャロル著『不思議の国のアリス』に登場する「狂ったお茶会」のシーンを模したものです。

研究のイメージイラスト(画:株式会社スペースタイム・中村景子氏、SOFA GRAPHIC DESIGN・安達浩之氏)
研究のイメージイラスト(画:株式会社スペースタイム・中村景子氏、SOFA GRAPHIC DESIGN・安達浩之氏) / Credit: ExCELLS/NIPS(生理学研究所)(2023)

テーブル奥の寒い冬の季節にいるネズミたちは、冷たいお茶を出されているが眠っており、時計は止まっています。

他方で、テーブル手前の暖かい春の季節にいるネズミたちは、目を覚まして暖かいお茶を飲んでおり、同じ時刻で時計が動いています。

今回の研究結果を一目でわかりやすく表現した愉快なイラストですね。

チームはまた、本研究の成果が冬眠のメカニズムを理解するのに大きく貢献するものと期待しています。

今後は、極限環境を生き抜くための生存戦略である「冬眠」をさらに深く探究することで、「生命とは何か」という命題に挑んでいきたいと話しました。

参考文献

脳内の概日リズムの司令塔は低温で停止し、再加温により時刻がリセットして再開することを発見
https://www.nips.ac.jp/release/2023/11/post_524.html

元論文

Cold-induced suspension and resetting of Ca2+ and transcriptional rhythms in the suprachiasmatic nucleus neurons
https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(23)02467-7

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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