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岸田首相の皇位継承策では何の解決にもならない…"問題のすり替え"が何度も繰り返される本当の理由

  • 2023.11.24

岸田文雄首相は先月行われた臨時国会の所信表明演説で皇位継承策に言及し、その翌週には自民党主導で国会の合意形成を進めるという姿勢を明らかにしている。神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「ようやく政治が動き始めたように見えるが、岸田首相の発言を読み解くと、現在の皇位継承順位を変更せず、皇族数の確保だけにとどまる可能性がある。しかしそれでは、肝心の『皇位継承の安定化』にならないばかりか、ジェンダー平等に強く共鳴されている秋篠宮家の方々のお気持ちを裏切ってしまうことになるのではないか」という――。

天皇誕生日の一般参賀で手を振られる天皇、皇后両陛下と長女愛子さま、秋篠宮ご夫妻と次女佳子さま。2023年2月23日午前、皇居
天皇誕生日の一般参賀で手を振られる天皇、皇后両陛下と長女愛子さま、秋篠宮ご夫妻と次女佳子さま。2023年2月23日午前、皇居
危機を招く無理のあるルール

天皇陛下の次の世代の皇位継承資格者は、今のルールの下ではたったお一人。秋篠宮家のご長男、悠仁親王殿下だけだ。

その悠仁殿下はこれまで、軽い交通事故に遭われたり、テロ未遂事件に巻き込まれたり、危険な場面にも遭遇されている。

憲法上、天皇は日本国および日本国民統合の象徴とされ、内閣総理大臣や最高裁判所長官を任命し、国会を召集し、法律を公布するなど、国家の運営に欠かせない重要な国事行為にあたられる地位だ。その地位の次代への継承が、目の前で大きな不安に直面しているのが実情だ。

いつまでも対策を先送りしてよい問題ではない。

皇位継承の不安定化の原因ははっきりしている。皇室では、一夫一婦制の下で一般社会と同じく、決して多産な状態ではない。それなのに、正妻以外の女性(側室)が生んだお子様にも皇位継承資格を認める古い制度があってこそ持続可能だった、明治の皇室典範以来の「男系男子」限定という今や世界中でほとんど類例を見ない無理なルールが、そのまま維持されている。

これが危機の元凶だ。

20年間放置されていた提案

今もルール上、皇位継承資格を認められていない内親王・女王方は、複数おられる。だから、もし皇室継承の安定化、皇室そのものの存続を望むならば、こうした旧時代的な“ミスマッチ”のルールを見直すしか方法はない。

平成17年(2005年)に政府へ提出された「『皇室典範に関する有識者会議』報告書」には、具体的・現実的な解決策が明記されていた。皇室典範を改正し、歴史上かつてないほど窮屈な皇位継承資格の“縛り”を広げて、女性天皇・女系天皇も可能にするという方策だ。

しかしその後、じつに20年近くもこの提案は放置されたままだった。政府・国会はその間、無為怠慢を続けてきた。

ところが近頃、ようやく事態が動く可能性が見えてきた。

やっと政治が動き始めた

皇位継承問題をめぐる最近の主な動きを振り返ると以下の通りだ。


○令和5年(2023年)2月26日の自民党大会で岸田文雄首相(総裁)は次のように呼びかけた。
「日本国民統合の象徴である皇室における安定的な皇位継承を確保するための方策への対応も先送りの許されない課題であり、国会における検討を進めてまいります」

○9月13日に行われた自民党の役員人事で再任された萩生田光一政調会長に対して、岸田首相が「皇位継承策の作業を急がなければならないという問題意識」を伝える。

○10月20日、新しく衆院議長に就任した額賀福志郎衆院議員が記者会見で皇位継承問題への取り組みについて議論の進展に意欲を示した。「各党の協議の経緯や状況を把握した上で立法府の考え方を整理していく」と。

○同23日、岸田氏は臨時国会での所信表明演説の中で「皇族数の確保のための具体的方策」について「『立法府の総意』が早期に取りまとめられるよう、国会における積極的な議論が行われることを期待します」と訴えた。

○同30日、岸田氏は衆院予算委員会で、自民党内で総裁直属機関の会議体を新設し、安定的な皇位継承策などを議論すると表明。先行的に自民党内の意見集約を行い、自民主導で国会全体の合意形成を図りたい姿勢を示した。

○11月17日、自民党の「安定的な皇位継承の確保に関する懇談会」が初会合。

所信表明演説に隠されたトリック

こうした流れから、皇室典範の改正も視野に入れた皇位継承策への本格的な取り組みが、国会で進められる可能性が浮かび上がっているように見える。

だが楽観はできない。岸田氏の所信表明演説を少し丁寧に読み返すと、ある種のトリックが隠されていることに気づくからだ。

岸田氏は所信表明演説で次のように述べていた。

「安定的な皇位継承を確保するための諸課題等、とりわけ、皇族数の減少への対応も、国の基本に関わる重要な課題です。政府としても、このような認識の下、皇族数確保のための具体的方策等を取りまとめ、国会に報告いたしました。この重要な課題についても、『立法府の総意』が早期に取りまとめられるよう、国会における積極的な議論が行われることを期待します」

ここで見逃せないのは、冒頭に触れている「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」が置き去りにされている事実だ。

政府が国会に報告したのは、あくまでも「皇族数確保のための具体的方策」にすぎない(「『“天皇の退位等に関する皇室典範特例法に対する附帯決議”に関する有識者会議』報告書」)。したがって、自民党に新設される会議体においても、「皇位継承の安定化」という最も肝心な本来の課題ではなく、そのはるか手前の「皇族数の確保策」だけにとどまる可能性が高い。

要するに、皇族数を“目先だけ”一定規模で維持できればそれで一丁上がり、という無責任な姿勢が透けて見える。これでは何ら問題の根本解決にはならない。

国会議事堂
※写真はイメージです
秋篠宮さまの即位は想定しにくい

こうした問題の“すり替え”が企てられる理由は何か。それは、もともと構造的な欠陥を抱えるルールによって規定された、現在の皇位継承順序をいっさい変更しない、という無理な方針による。

有識者会議報告書には以下のように書いてあった。

「今上陛下、秋篠宮皇嗣殿下、次世代の皇位継承資格者として悠仁親王殿下がいらっしゃることを前提に、この皇位継承の流れをゆるがせにしてはならない」(6ページ)

しかし、秋篠宮殿下は天皇陛下よりもわずか5歳お若いだけだ。たとえば天皇陛下が85歳で退位を望まれたときには、すでに秋篠宮殿下は80歳というご高齢になっておられる。それから即位されるという展開は現実的には想定しにくい。

そうかといって、天皇陛下がご壮健でいらっしゃるのに、秋篠宮殿下のご年齢に配慮して早めに退位されることも、適切ではあるまい。天皇として象徴の務めを全身全霊でまっとうできなくなるから、という上皇陛下のご退位の理由とはかけ離れてしまうし、恣意しい的な退位とも受け取られかねない。

したがって、不測の事態でも起きない限り、秋篠宮殿下の皇位継承は考えがたい。

さらに秋篠宮殿下ご自身が即位されるお考えはなさそうに拝察できる。これについては以前、詳しく述べた(プレジデントウーマンオンライン「皇位継承順位が第1位でも『秋篠宮さまは即位するつもりはない』と言えるこれだけの理由」令和4年[2022年]4月29日公開)。

報告書にある「ゆるがせにしてはならない」という記述は、端から現実味がない。

継承順序の変更は不可欠

その場合、あくまでも今の継承順序にこだわれば、悠仁殿下は天皇のお務めや天皇としてのお心構え、責任感などを、身近に体感する機会がないまま、(また「皇太子」としてのご経験も積まれることなく)いきなり天皇として即位されることになる。これも無理のある展開だろう。

そもそも、皇位継承の不安定化の原因は現在の欠陥ルールそのものにあった。だから制度改正は、そのルールによる不安定さを克服するのが目的のはずだ。にもかかわらず、その危機をもたらしている当のルールに基づく皇位継承順序を不動の前提として、その順序を変更しない範囲内で限定的・小手先的な変更を行っても、問題を解決できるはずがない。

したがって理性的に考えると、現在の皇位継承順序を固定化することは事実上、問題解決を投げ出すに等しいことが誰でもわかるはずだ。

ところが、そこに感情的な要素が混入すると、いささか事情が違ってくる。皇位継承順序を変更すると「秋篠宮家がお気の毒」「秋篠宮家に失礼」といった情緒的な発言が、意外と訴求力を持ちかねない。

しかし、そうした言い分は、自分たちの無理筋な意見を押し通すために、秋篠宮家への表面的な同情を利用しているだけなのではないか。秋篠宮家の方々のお気持ちを謙虚に拝し、それを極力尊重しようとする態度とは、似て非なるものに思える。

秋篠宮家はジェンダー平等に共鳴

秋篠宮家はこれまで、今のルールをひとまず前提に、当事者として最大限の努力を重ねてこられた。しかし一方、「ジェンダー平等」という普遍的な理念に強く共鳴されている事実も広く知られている。

秋篠宮殿下と最も近い関係にあるジャーナリストとして知られる江森敬治氏の著書『秋篠宮』(小学館)には以下のような記述が見られる。

「秋篠宮家を支える皇嗣職は、従来の組織形態とは違う。……
仕事面で男女の区別をなくすということは、先例を重んじる宮内庁の組織にあっては、かなり思い切った改革だ」

「秋篠宮は社会的、文化的に形成された男女の違いについて以前から違和感を覚え、意識的に発言しているように感じる。自分の家庭で、男の子でも女の子でも子供に分け隔てなく接し、育てるという姿勢にも、その考えが表れている」と。

また、先に紹介した女性天皇・女系天皇の容認を提案した「皇室典範に関する有識者会議報告書」が提出された翌年のお誕生日に際しての記者会見でも、女性皇族の役割について以下のように答えておられた。

「私たち(男性皇族)と同じで社会の要請を受けてそれが良いものであればその務めを果たしていく。そういうことだと思うんですね。これにつきましては、私は女性皇族、男性皇族という違いはまったくないと思っております」

男系男子主義的な古い発想とは無縁

さらに、ご次女の佳子内親王殿下もガールスカウトの行事などで「ジェンダー平等」について繰り返し呼びかけておられる。

今年の10月23日に行われた「ガールズメッセ2023」に臨席された時も、次のように述べておられた。

「今後、ジェンダー平等が達成されて、誰もが安心して暮らせる社会になることを、誰もがより幅広い選択肢を持てる社会になることを、そしてこれらが当たり前の社会になることを心から願っております」

さらに、私にとって印象に残る場面があった。先頃、秋篠宮・同妃両殿下が英国のチャールズ新国王の戴冠式に出発された際のこと。宮邸の玄関前でお見送りされていた佳子殿下と悠仁殿下が邸内にお戻りの時に、ごく自然な形でお姉様の佳子殿下が先にお入りになったのだ。

男系男子主義的な古い発想では、「皇位継承資格をお持ちの男子である悠仁殿下が先でなければならない!」となるかもしれない。だが、秋篠宮家の家風はそのような頑なさとは無縁のようだ。

ゼロベースで検討を

秋篠宮家の皆さまがジェンダー平等という理念に共感を持っておられるならば、側室制度がなくては持続不可能な旧時代的ルールに対して、はっきりと違和感を抱いておられることは、たやすく想像できる。

「秋篠宮家のために今の継承順序の維持を」という主張は、秋篠宮家の方々のお気持ちを裏切って、ジェンダー「不平等」を押し付ける結果になるのではないか。

万が一今のルールがそのまま維持された場合、やがて皇室には悠仁殿下お一人だけが残る事態となり、ご結婚のハードルも極めて高くならざるをえない。

また、めでたくご結婚された場合でも、男子出産への重圧は想像を絶したものになる。畏れ多いが、悠仁殿下に苛酷なご生涯を強制する結果となる。

それはもはや「お気の毒」とか「失礼」というレベルをはるかに超えた非人道的な事態といわねばならない。

秋篠宮家の方々のためにも、皇位継承の安定化に向けて、現在の皇位継承順序にとらわれない“ゼロベース”の検討が欠かせない。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者
1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録」

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