六本木にある泉屋博古館東京では「特別企画展 日本画の棲み家」展が2023年12月17日(日)まで開催されています。
会場入口
邸宅の日本画
かつて住友の邸宅を飾った日本画の数々。「床の間芸術」をキーワードにその魅力に迫る展覧会です。会場入口には住友家の住まいがあった大正6年(1917)竣工の大阪天王寺茶臼山邸の見取り図が展示されています。家屋は1106坪の書院造和風建築です。
展示室入口 ※主催者側の許可を得て撮影しています。
当時の住友家茶臼山邸の床の間の幅は4m程あり大邸宅であったようです。住友家のお屋敷には四季折々の日本画、掛け軸が設えてあったそうです。
右:望月玉泉《雪中蘆雁図》明治41年(1908) 泉屋博古館東京 左:今尾景年《富士峰図》明治後期~大正時代 20世紀 泉屋博古館東京
住友家の邸宅では家族が暮らす一方で、迎賓施設として国内外の賓客を迎えました。
各邸宅の床の間には一年を通じてさまざまな掛物が飾られ、広間を区切るために屏風や衝立が重用されました。
木島櫻谷 雪中梅花 大正7年 (1918)泉屋博古館東京
季節や部屋の格、催しの種類により設えを変えていました。そこには客人を想い、もてなす主人の心もちが見え隠れします。またこれらの絵画は室内の気分を左右し、生活に溶けて、一定のリズムや秩序をもたらしました。
狩野芳崖 《寿老人図》 明治10年代前半頃 (1877~82) 木島櫻谷《震威八荒図衝立》大正5年(1916) 泉屋博古館東京
床の間にかけるべき軸として、古くは崇敬すべき人物の画像あるいはその書を掛けることが基本でしたが、やがて山水や花鳥そして風俗画を掛けるようになりました。
橋本雅邦《春秋山水図》 明治37年(1904) 泉屋博古館東京
こちらの展示室は掛け軸の展示です。左から二番目は雛人形を描いています。ピンクの表装が鮮やかですね。四季折々の行事に合わせて床の間に設えていたようです。
展示風景
高島北海作《蜀道青橋駅瀑布図》に描かれた瀑布と宮川香山《倣洋紅意窯変花瓶》の工芸品は床の間の空間に一体感をもたらしています。
高島北海《蜀道青橋駅瀑布図》明治41年(1908年) 下:宮川香山《倣洋紅意窯変花瓶》明治~大正時代前期(20世紀)いずれも泉屋博古館東京蔵
現代版「床の間芸術」
明治以降の西洋建築の受容や社会状況の変化から、特に大正期には住宅改良が盛んとなり、空間の合理性という観点から次第に「床の間無用論」が叫ばれていきました。現代の住宅では和室や床の間が消えつつありますが、現代の「床の間芸術」はどのようなものとなるのでしょう。若手作家6名による新作も本展では展示されています。
展示風景
小林明日香氏の作品《partition》です。屏風をイメージし、古典と現代、デジタルとアナログなど相反する要素を多く取り入れた現代版の床の間芸術です。京都祇園祭の様子取材した作品です。
小林明日香《partition》令和5年(2023) ミクストメディア 作家蔵
澁澤 星氏の作品《Water》です。明かりや調度品との組み合わせなど、現代の住環境の空間での鑑賞を意識した作品となっています。
澁澤 星《Water》令和5年(2023) 紙本彩色 作家蔵
西洋文化の到来とともに、西洋に倣った展覧会制度が導入され、床の間や座敷を「棲み家」とした日本絵画は新しい「家」にふさわしく、より大きくより濃彩に表現を変化させていきました。
本展覧会では「床の間芸術」を切り口として日本画を見直し、若手作家による現代の「床の間芸術」の展示もあり、日本画やおうち鑑賞の新たな魅力に改めて気付く契機となる大変興味深い展覧会です。