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齊藤工が惹かれるのも当然、神野三鈴の周囲を幸せにする力。

  • 2023.11.21
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「たくちゃん、一つ目小僧みたい......」神野三鈴のこの言葉に、撮影中みんな吹き出してしまった。たくちゃん=齊藤工。神野三鈴は齊藤が撮影したポートレート写真や活動寫眞館を以前から見ていて、モノクロームの写真の中の、時に骨太で、時に繊細な世界観に興味を抱いてくれていた。先の「一つ目小僧」とは、レンズを構えて被写体である神野に迫っていく齊藤の姿を「神野らしい言葉で」表現したものだ。連載「活動寫眞館」も、コロナ禍にはあまりスタジオでの撮影はできなかった。久しぶりの撮影が実現し、心が通い合っている齊藤と神野の掛け合いは、あまりにも豊かでおもしろかった。

齊藤の初長編映画監督作『blank13』(2018年)に、高橋一生と斎藤工の母親役で神野が出演したのが出会いのきっかけ。失踪した余命わずかの父(リリー・フランキー)と次男コウジ(高橋一生)の再会を軸に、父(夫)を許せない側にいる長男ヨシユキ(斎藤)と母・洋子(神野)の物語が展開する。齊藤は、「神野さんの洋子がラストで煙草を吸うシーン。あのシーンが、この映画を決定づけてくれたと思っています」と語る。この齊藤の感慨は、『blank13』公開前のインタビューの時も言っていたことで、神野の演技や佇まいへの絶対的な信頼が感じられた。「『blank13』のキャストの方々はポートレート撮影ができなかったんですよね。映画の撮影に集中したかったので、その撮影の現場でメインキャストのポートレートを撮る、ということに違和感があったんです。まだ当時は、自分自身も余裕がなくて」(齊藤)

神野三鈴は、自身のアーティストポートレートも齊藤に頼みたい、と考えていたらしく、「神野さんはいろんなカメラマンを知っているにもかかわらず、僕に『撮ってほしい』と言ってくれた。大役だと思います。でも今日は、そう感じて緊張しすぎないようにしなくては」(齊藤)

この写真が、神野がいちばん「好き!」と感情をこめて言った写真。2023年10月、都内某スタジオにて撮影。以下同。

神野三鈴の朗らかさ、穏やかさ、優しさは、周囲にいる人々を幸せな気持ちにしてくれる。本人の包容力ももちろんだけれど、そこにいる誰へも言葉をかけ、気遣い、笑顔を向け、自身の話をするけれども、同時に相手の話を聞こうとする。柔和なのに破天荒なチャームのある人物だ。

「小曽根さんの曲をかけましょうか」(齊藤)小曽根真は神野の夫で、世界的に活躍する音楽家。齊藤のこの言葉で、スタジオにはジャズが流れ始めた。「映画の楽しさ、映画の素晴らしさを、工監督から教えてもらったの。私、映画のデビューは46歳。映画に出始めてから1年くらいして、『blank13』へ出演依頼を受けて。あの役、大好きなのよ」(神野)神野のラストシーンで映画が決まった、という齊藤と、映画の素晴らしさを齊藤から教えてもらったという神野。このふたりのセッションのBGMに小曽根の楽曲が絡み、とても心地よい緊張感のある撮影現場となった。「どこ見ればいい?どういう顔をすればいい?急にこんなに近く撮られると思ってなかった」(神野)神野が話す言葉を聞いていると、被写体の感情がよくわかる。誰でも撮られる時は緊張しますよね、と齊藤。齊藤は脚立に登り、その上からも神野を撮影した。そのカットはフィガロジャポン1月号(11月20日発売号)に起用された。白い衣装の聖母のような神野三鈴だ。

互いの知り合いの近況や、小曽根のライブ、そして共通の友人である永野の話に花が咲くふたり。「じっとしているのが苦手で......動いちゃう」(神野)神野は足を高く上げて、運動能力の高さがうかがい知れる。腹筋がなければここまできれいに足は上がらないのでは、と、撮影風景を眺めているこちらまでほれぼれ。

「たくちゃんは写真撮られる時、どこ見てるの?」(神野)「レンズの奥かもしれません。その先に人がいる、と考えながら撮られています」(齊藤)

昨日、インスタにアップしていた黒猫の写真がほしい、と齊藤に頼む神野。神野は「もっとも長く暮らしたのが黒猫だったから、あの写真を飾りたい」と。

この後、ふたりはスタジオから繋がるベランダのような屋外に出て、六本木の猥雑な裏通りを眺めながら撮影を続けた。小曽根の曲が、撮影のラストに向けてとてもロマンティックな曲調に変化していく中、齊藤の「OKです」の言葉で撮影は終了。「こんなに楽しいのっていいね、幸せ!」と言いながら現場にいるみんなとハグする神野三鈴。幸せをもらったのは、こちらのほうだ。神野の人間性の愛らしさが、現場全体を幸せで包んでしまう。

そして、「撮らせていただく写真の被写体は、瞬間的でも監督する映画の主人公と同じくらいの象徴になります。神野三鈴主演作品です」(齊藤)そんな齊藤の言葉も、至極印象的だった。

神野三鈴/MISUZU KANNO1966年生まれ、神奈川県鎌倉市出身。第47回紀伊國屋演劇賞 個人賞、第27回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞。主な出演作に、舞台では井上ひさし最期の戯曲を栗山民也が演出した『組曲虐殺』(2009年、12年、19年)、英国の演出家マックス・ウェブスターによる『メアリー・ステュアート』(15年)、映画ではHIKARI監督『37セカンズ』(19年)、深田晃司監督『LOVE LIFE』(22年)、ドラマ「マイファミリー」(TBS日曜劇場)など。齊藤工の監督作では『blank13』(18 年)、HBO Asia製作『Folklore : TATAMI』(19年)に出演。

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齊藤工/TAKUMI SAITOH監督作『スイート・マイホーム』が現在公開中。2024年5月、出演映画『碁盤斬り』が公開予定。TBSラジオにて「朗読・斎藤工 深夜特急 オン・ザ・ロード」が毎週月〜金曜23:30〜23:55まで放送中。

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