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くどうれいんの友人用盛岡案内 〜スポット編〜 #8 上の橋そばの大イチョウ

  • 2023.11.18

岩手県盛岡市在住の作家のくどうれいんさんが、プライベートで友人を案内したい盛岡のお気に入りスポットと、手土産を交互に紹介します。

盛岡の観光地はいろいろあるけれど、「見る」がメインのぱっと目を引く観光地は意外と少ないような気がする。わたしはどうしても、喫茶店がここ、とか、三大麺ならここ、とか、福田パンが、とか、ここの居酒屋さんが、とか、和菓子屋さんが、とか、来客の胃袋を過信した、食べものを中心に回る観光案内をしてしまいがちで、風景の観光案内はあまり得意ではない。北上川と開運橋や、旭橋から見える岩手山や、中津川と岩手銀行赤レンガ館など、わたしの好きな盛岡の風景はたくさんあるけれど、これぞ盛岡の観光地です!と案内をするのはまだむずかしい。

その人がどこから来たか、どんなものに興味を持っているかにもよるけれど、言ってしまえば、もっときれいなものやもっとすごいものは他の場所にもあるだろうと思ってしまうから、盛岡に来てくれた友人にたべもの以外はどこを紹介したらいいのかいつも迷う。

せっかく盛岡に来てくれたあなたに、わざわざ見せるかどうかは迷うけれど、せっかく秋に来てくれたなら近くを通って見せたいと思うのが、中津川にかかる上の橋のそばにある大イチョウだ。

おおきな木! と毎度新鮮にうれしい。樹齢は推定118年で、盛岡市の景観重要樹木に指定されているらしい。と、知ったのはまさに記事を書こうとしているきょうで、とにかく大きくもさもさと茂っているこの大樹のことを(かっこいいなあ)と思いながらいつも見上げている。

この大イチョウは、盛岡市役所の裏、エリアで言うと、盛岡城址・櫻山のあたりや、紺屋町のあたりを散策しようと思っている人がすこし足を延ばせば見ることができる。

中津川の穏やかな流れと、古くから残されている青銅鋳物の擬宝珠(ぎぼし)が渋くかっこいい上の橋。その景色の手前に聳えるこの大イチョウ。盛岡で働くようになって五年過ぎ、この景色がわたしにとって結構しみじみと盛岡の秋を感じる風景になってきた。

秋が深まるにつれてこの大イチョウが黄金に色づいていく過程を見るのがたのしい。同じように思っている人は結構いるようで、写真を撮るためにイチョウの木の近くへ行くと、本格的なカメラを構えている人や、スマートフォンで何枚か撮影している人がちらほら見受けられてうれしかった。

中津川の向かい側から見るちょっと遠くからの大イチョウも、ぼふぁっとしていてかわいい。てっぺんから黄色くなるから、全部が黄色になっているところを写真に収めるのはなかなか難しい。

わたしはイチョウという木が好きだ。発光しているようで、元気が出るではないか。葉っぱのかたちが扇形なのも不思議でよい。

11月10日のきょうは雨だったけれど、黄金に茂る大イチョウを見ることができた。

このイチョウの葉がどんどん落ちて、頭から順番に枯れて冬木になる。既に白鳥が飛び始めて、息が白くなっている盛岡の11月。大イチョウは大きな砂時計のようにその黄色い葉を落とし、冬へのカウントダウンをしている。

くどうれいん

作家。1994年生まれ。著書にエッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD)、『虎のたましい人魚の涙』(講談社)、絵本『あんまりすてきだったから』(ほるぷ出版)など。初の中編小説『氷柱の声』で第165回芥川賞候補に。現在講談社『群像』にてエッセイ「日日是目分量」連載中。近著に『桃を煮るひと』(ミシマ社)がある。

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