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趣里さん「『知らない』じゃ済まされない」現実 ドラマ「東京貧困女子。」

  • 2023.11.16

貧困に陥った女性たちの心の叫びを紹介したルポルタージュ本をもとにしたドラマ「東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-」が11月17日からWOWOWで放送・配信されます。大学生に派遣社員、シングルマザーなど、貧困にあえぐ東京暮らしの女性たちの現実を取材しながら、社会の矛盾や貧困問題の構造を浮き彫りにしていくドラマです。本作で、経済誌の契約編集者・雁矢摩子を演じた俳優の趣里さんに、原作を読んだ感想や作品を通して伝えたいことなどをお聞きました。

想像以上の厳しさ。覚悟をもって臨んだ

――ドラマ「東京貧困女子。」は、ライターの中村淳彦さんが実際に取材したことをまとめたノンフィクションが原作ですが、読まれてみていかがでしたか?

趣里さん(以下、趣里): 原作を初めて読んだ時、「知らない」じゃ済まされないことだなと思ったのと同時に、摩子という役を通して何かしなければと感じました。「そういうことが現実にある」と、漠然と思ってはいたんです。だけど、実際に中村さんが取材してまとめた本には想像以上に厳しい現実が鮮明に描かれていて、衝撃が大きかったです。これをドラマ化するのは、とても覚悟がいることだと思いました。

――オファーを受ける決め手になったのはどんなことだったのでしょう。

趣里: やはり当事者の方が実際にいらっしゃるので、生半可な気持ちではできません。大変なことでもあると思いましたが、この事実から目を背けてはいけないし、自分に何かできることがあるのかと考えた時、ドラマを通して少しでもこの現実を知ってもらうことができるかなと思い、お受けしました。

朝日新聞telling,(テリング)

――摩子を演じるにあたり、どのような役作りをされましたか。

趣里: 私から「こういう感じでやりたいです」と提案をしたり、特別な準備をしたりしたことはありませんでした。今回のドラマは、摩子が貧困当事者の方々と出会って、視聴者目線になって物語が展開していくので、摩子の一瞬の心の揺れや、衝撃といったその時々の感覚を大事にしたいと思っていました。

「他人事ではない」という自覚を表現したくて

――取材を重ねていく中で、摩子の変化をどのようにお芝居で見せたいと思われましたか?

趣里: 取材で出会った彼女たちの話を素直に受け取るということですかね。なので、嘘なくその場にいられたらいいなということは心がけていました。摩子自身も契約社員という不安定雇用のもと、シングルマザーとして子育てに奮闘している女性です。当事者の人たちの話を聞くうちに、摩子も「貧困は他人事ではない」という自覚につながっていくので、そこに至るまでの過程が素直に表せられたらいいなと思っていました。

――貧困当事者の女性の話を聞いて摩子が涙を流すシーンは見ていても辛かったのですが、趣里さんが演じていて辛かったことは?

趣里: 一番は、貧困当事者の女性たちが苦しんでいる瞬間を目の当たりにした時です。それを受けた摩子は「自分に何ができるのか」「彼女たちの話をどう世の中に伝えればいいんだろう」と考えて、どこか同情的に接してしまう。そこには、取材に応じてくれた彼女たちに失礼がないような記事を書きたいという思いがあって、1話で国立大学に通うために風俗で働く大学生へのインタビュー記事が炎上した際、摩子が記事を削除しようとする場面があるんです。その時に大学生から言われた言葉や、一緒に取材をしている風俗ライターの崎田(三浦貴大)さんの覚悟を知って、徐々に自分の中にあった「小さな偏見」に気づくのですが、そういう変化も見ていただきたいです。

朝日新聞telling,(テリング)

――事情は様々ですが、生活に困窮している20~40代の女性の困窮状況がこれほどとは想像していなかったので、この作品を通してその一端を知ることができて良かったなと思いました。

趣里: 私も同じ思いです。知らなければ「そんなこと知らなかった」で済ませることはできるかもしれないけど、現実にたくさんの人がこういった状況にいることを知り「同じ日本で、同じ時間を生きている女性たちのことを知らないでいいのかな」という思いが芽生えました。

本作に出てくる登場人物は、現代社会に確かにいる人たちです。摩子のセリフに「性をお金に変えるということがどういうことか分かっていなかった」「私も貧困のボーダーラインにいるんだ」というセリフがあるのですが、まずは「今の日本でこういうことが起こっている」ということを知ることで、自分事のように捉えて考えていくことができる。そうすれば、起きなくていい不幸なことが減っていくのではないかと思うし、その一石を投じられる作品になったらと思っています。

誰かの心の光になるものが見つかったら

――本作を通して趣里さんが伝えたいことを教えてください。

趣里: この作品は「何が正しくて、何が間違っているのか」ということを掲げているのではなく、どんなに辛いことや苦しいことがあっても、人と人が助け合えば少しずつでも前に進むことができる。そういうメッセージが描かれていると思っています。生きていたら色々なことがあるし、「そんなのキレイごとじゃん」と言われるかもしれないけど、誰かの心に何かひとつ「光」になるような、希望を感じてもらえるものが見つかったらと願っています。

朝日新聞telling,(テリング)

スタイリスト:中井綾子(crêpe)
ヘアメイク:カワムラノゾミ

■根津香菜子のプロフィール
ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。

■家老芳美のプロフィール
カメラマン。1981年新潟生まれ。大学で社会学を学んだのち、写真の道へ。出版社の写真部勤務を経て2009年からフリーランス活動開始。

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