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超絶男尊女卑コミュニティから羽ばたく彼女に喝采を! 女のモヤモヤを吹き飛ばす「マイ・アンオーソドックス・ライフ」

  • 2023.11.15

夢見るような展開のドラマを見ても、近頃はなんだかむなしい。だって現実にはこんなすてきなこと起こらないもの。恋愛・結婚・キャリア・子育て……悩める私たちの特効薬は、そう、リアリティー・ショー! 特殊な環境、多少の演出はあるとはいえ、そこで繰り広げられる人間関係、愛憎劇はホンモノ。現実世界に即・応用できちゃいます。今回は、「女のくせに」「女なんだから」なんて言葉にモヤモヤしているあなたに「マイ・アンオーソドックス・ライフ」(ネットフリックス)をおすすめ!

彼に「そんな露出する服、着るのやめなよ」と言われたり、上司に「女の子は部長の隣でお酌して」と指示されたり、実母に「母親になるのが女の幸せ」と諭されたり……。21世紀だというのに、いまだに会話の端々に蔓延(はびこ)る女への理不尽にイラついたら、「マイ・アンオーソドックス・ライフ」のジュリア姐さんに会いに行こう!

「マイ・アンオーソドックス・ライフ」は、戒律によって女性の自由が奪われた超正統派ユダヤ教コミュニティから一人抜け出し、世界最大のモデルエージェンシー「エリート・ワールド・グループ」のCEOにまで昇りつめたジュリア・ハートとその家族に密着したリアリティ番組。

40歳から人生を取り戻したジュリア

まずはシーズン1の第1話だけでも見てほしい。
ジュリアが40歳までいたコミュニティでは女は子どもを産む機械で、二級市民扱い。肌や髪を見せることは許されず、人前で歌を歌うこともできず、自分から離婚することもできない。恋愛もなく結婚させられた夫と4人の子どもをもうけたジュリアは、ひそかに年金や保険の仕事をし、逃亡資金を貯め、出奔。その後、まったくの独学で靴のブランドを立ち上げ、女性が男性のためにではなく、自分のために履く「痛くないハイヒール」を開発し、大ヒット。1年で世界7カ国に事業展開した。

自身のブランドのファッションショーを開くジュリア=Netflixシリーズ『マイ・アンオーソドックス・ライフ』独占配信中

着たい服も着られず、教育機会も奪われ、「子どもを産むだけの存在」だった女性がたった1年で!しかも40歳から! この事実だけでも、励まされるじゃないか。私たちは何歳からでも自分の人生を取り戻せるのだ。

ジュリアはその後、大富豪・シルビオと恋に落ち、再婚。そして、モデル事務所「エリート」のCEOとなり、マンハッタンでバリバリと働く。それまで35歳を過ぎて「劣化」したら捨てられてきたモデルたちに自分のブランドを持たせ、SNSの力で安定した収入を得られるように画策し、クライアントからヌード撮影を強要されたモデルには一緒に断固として戦うことを誓う。彼女はお金やキャリアのためではなく、女性全体の権利のために動くのだ。

「毒親説」を裏切る母としての姿

では、母としてのジュリアはどうだろう。これまで「セレブリティ番組に登場する母、だいたい毒親説」を持っていたのだが、ジュリアはすてきにそれを裏切ってくれる。

まず、彼女の4人の子どもを紹介しよう。
長女のバットシェバ(26歳)は19歳で同じコミュニティのベンと結婚。母の影響で少しずつ女性を縛る戒律のおかしさに気づきはじめたところだが、ベンと2人、ユダヤ教の伝統的な儀式も大切にしたいと考えている。
長男のシュロモ(24歳)は婚前交渉はしないという戒律を守り、今でも童貞。週末はシャバス(安息日)で心を落ち着かせる。
次女のミリアム(20歳)は、一番母と考えが近く、進歩的。信仰を捨て、バイセクシャルをカミングアウトし、独学でスタンフォード大学に入学。女性のためのアプリ開発をしている。
末っ子のアーロン(14歳)は今も父とともにコミュニティで生活しており、黒い帽子を被り、戒律を厳格に守っている。

写真左から、次女のミリアム、長女のバットシェバと夫のベン=Netflixシリーズ『マイ・アンオーソドックス・ライフ』独占配信中

このように4人の子どもはそれぞれ信仰の度合いが異なるが、ジュリアはそれを尊重する。シュロモはもっと女性と遊ぶべきだと主張するミリアムに、「人によって変化にかかる時間は違う」といさめる。

「男が自制できないのが悪い」一刀両断

とはいえ、子どもたちが自由を自ら放棄しそうなときには断固として反対する。たとえば、バットシェバは戒律で禁じられているパンツスタイルに挑戦したいが、夫・ベンの反対に遭い、諦めかける。「男性を興奮させないように女性は節度ある恰好をするべき」という男性陣に対してジュリアは「冗談じゃない。男が自制できないのが悪いのよ。自制することを学べば女性は好きな服を着られる」と一刀両断するのだ。姐さん、よくぞ言ってくれた!

そんなジュリアの周りには不思議と理解ある男性が集まる。
再婚相手のシルビオは、ジュリアがコミュニティ脱出後に自分でつけた名字「ハート」を名乗りたいと申し出て、シルビオ・ハートと改名する。ベンも結局はバットシェバのパンツスタイルを受け入れるし、子どもはまだ欲しくないという彼女の意向を結婚7年目の今も尊重している。現在もコミュニティで暮らすジュリアの元夫・ヨセフさえ、娘・ミリアムの「ハート」に改名したいという願いを受け入れる。それぞれ、なかなかできることじゃない。

なぜだろう。それは、ジュリアが、彼らが元々持っていた「女性を大切にしたい」という思いを信じ、引き出すからではないだろうか。

こんなエピソードがある。
末っ子アーロンはユダヤ教超正統派のキャンプに行って以来、テレビも恋愛も自分に禁じ、彼女とも別れてしまう。ジュリアは「女性を悪だとする教えは間違ってる」と涙ながらに説得するがアーロンには響かない。そこで彼女は、アーロンをマンハッタンへ呼び寄せ、オフィスにテントを張り、ジュリア流のキャンプをやり直し、アーロンの元カノとコンタクトを取って、偶然を装って再会させ、青春を思い出させる。そんな“天岩戸(あまのいわと)スタイル”でアーロンが閉じこもった殻から自ら出てくるのを待つのだ。

ジュリアと夫のシルビオ=Netflixシリーズ『マイ・アンオーソドックス・ライフ』独占配信中

超絶男尊女卑社会を生き抜いたジュリアは、男性に対してどう立ち回ればいいのか本能的にわかっているのだろう。彼女はフェミニストでありながら、男性に敬服されている稀有な存在。その姿は私たちに、勇気と知恵と女であることの自信を授けてくれるだろう。

ちなみにシーズン2では、なんとシルビオとジュリアは泥沼の離婚裁判を繰り広げる。「お金持ちの夫」という後ろ盾を失い、正真正銘「女一匹」となったジュリアはどう戦っていくのか。こちらもぜひ注目してほしい。

■清繭子のプロフィール
ライター/エディター。出版社で雑誌・まんが・絵本の編集に携わったのち、39歳で一念発起。小説家を目指してフリーランスに。Web媒体「好書好日」にて「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を連載。特技は「これ、あなただけに言うね」という話を聞くこと。note「小説家になりたい人(自笑)日記」更新中。

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