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「売れなかった商品は管理職が1万円で購入すること」社内の理不尽を受け入れるべきか迷ったときの判断基準

  • 2023.11.14

社内で理不尽な要求をされたときにはどうすればよいのか。人材育成コンサルタントの松崎久純さんは「違法なことが行われていれば、告発なりの対処をすべきだが、他のことであれば、どうにか乗り越えていく術を身に付けた方がよい」という――。

性被害を受けたJr.と同じ心境の会社員は多い

20代会社員の方からのご相談です――故・ジャニー喜多川氏の性加害問題が大きなニュースになりましたが、被害者だと訴える元Jr.の「断ると呼ばれなくなる」という話(*)が、印象に残りました。

というのは、私の勤務する民間企業でも、たとえば無償の残業を断ればどう扱われるか、わかったものではありませんし、違法行為ではないにしろ、飲み会への参加を強要されたり、「断ると立場が危うくなる」ことは多々あります。

理不尽に強要されることに甘んじる体質は、話題になった芸能プロダクションのそれと変わりないように思え、情けないです。会社勤めとは、こんなものでしょうか。

(*)「元Jr.長渡康二氏 ジャニー氏“性加害”で暗黙ルール『断ると呼ばれなくなる』」2023年10月4日 東スポWEB記事より

社会人として働いていると、理不尽なことを強要されても、断りにくいことはあるものです。

残業や飲み会などは、その一例で、安易に断ったりすれば、その後どう扱われるのか。それが心配で、仕方なくしたがっている人も多いでしょう。

残業代が出ないなんて、そんなことあるのかと不思議に思う人もいるでしょうが、世の中には、支払われる残業代に上限があって、ただ働きになる時間があったり、まったく残業代が支払われないなど、不払い残業が当たり前の会社はごまんとあります。

そうした会社では、それに不満を抱く人は退職していき、残っている社員は、それについて話すのがタブーとなっているものです。

書類の山に伏せ、頭の上にも書類が積まれている男性
※写真はイメージです
TOEICを強制されることの理不尽

理不尽なことがあっても、それが次に紹介する程度のことなら、「勘弁してほしい」とは思っても、それほど悩んだりはしないはずです。

私の知り合いで、経理部長をしている人の話ですが、同じ経理部門の役員が、毎朝オフィスで雑巾がけをはじめたというのです。そうなると、その部下である自分が手伝いをしないわけにはいかない。

そこで毎朝ワイシャツの袖をまくり上げて、雑巾をしぼっているというのです。

それを見て、多くの部下が一斉に手伝おうとするのですが、君たちはやらなくていいと伝えて、自分だけが犠牲になっているとのこと。

部長職にある自分が、会社で朝から掃除などしている場合かと思うのですが、役員の老害を止める手立てがないそうです。

日々、身近で接する若い人たちが迷惑がっているのは、TOEICのような英語の試験を半強制的に受けさせられることです。

本人たちによれば、受験勉強のようなことをしても、英語でコミュニケーションを取る力がつくとは思えないのに、一定のスコアの取得が義務付けられる。受験対策などムダとしか思えないというのです。

逆に積極的に受験する人たちも多いようですが、試験でよい点数を取得することがゴールとなっている風潮には、疑問を持つ人も多いようです。

部下に自宅で本を読ませる

次の実例に出てくる人たちは、もう少しシリアスに悩んでいます。

人事部の管理職で、いつも社長に近いところで働いている人の話です。

あるとき、社長がボランティアの清掃活動に目覚めてしまい、その人は毎週日曜日の朝、他の管理者数人と一緒に、清掃活動に駆り出されているというのです。

イヤな顔は見せないように付き合っていたのですが、自家用車を運転して清掃の現場へ行ったら、社長にひどく咎められました。「環境にやさしい活動をしているのに、なぜ車を運転してくるんだ。電車で来なきゃダメだろ」と言われたそうです。

まさか、これで会社を辞めようと考えたりはしないと思いますが、実に憂鬱ゆううつになっている様子でした。

私が行為者(理不尽なことを強要する側の人)に対して、止めたほうがよいと何度も助言をした例もあります。

ある企業で私の受け持っている研修を担当してくれていた女性社員が、研修でテキストとして使用した書籍を異常に気に入ってしまい、それを研修の受講対象者ではない、まだ10代の部下に自宅で読ませ、感想文を書かせてきたのです。そして、それを私にも読んで、評価してほしいと言います。

この女性社員は、おかしなスイッチが入った状態になっていました。

部下に自宅で本を読ませるのも、感想文を書かせるのも、不払い残業に相当するもので、私も感想文を読むことを仕事として請け負っていたわけではありません。

しかし、当人は他の若い社員にも「読ませたい」と言って、うずうずしているのです。狙われていた社員は、どうやら上司が守ってくれているようでしたが、感想文を書かされた部下は、相当にイヤな思いをしたのではないかと思います。

図書館で積み上げられた本の横で頭を抱えている女性
※写真はイメージです
理不尽なことは昔も今も変わらない

「様々な理不尽をどう乗り越えるか」は、私たちに永遠につきまとうテーマです。

野球少年だった近所の子供が、中学1年になって野球部に入りましたが、その中学校の野球部では、1、2年生はグランドの整備や球拾いしかさせてもらえず、野球部なのに野球ができないという理由で、早々に退部してしまいました。

これは私が中学生のときに体験したことと、まったく同じです。私としては、あれから40年以上経っても、同じことが行われていることに驚きました。

同じことが続いているということは、同じことを下級生にさせる人たちが存在し続けているということです。

私は当時、自分は同じことを下級生にさせることなどできないと思っていましたが、そうは考えない人のほうが多いのです。

顧客を欺く行為を指示された

そうなると社会人になってからの勤務先に、理不尽なことを(理不尽と知りながらかどうかはわかりませんが)部下や後輩に強要する人がいても、何ら不思議はありません。

民間企業では、発売はしたものの、売れ行きが芳しくなかった製品を社員が買わされることがあります。「管理職は全員、1万円で購入すること」などと指示が出るのです。一緒に働く人たちに、こんなことを強要できる人たちがいるわけです。

私は、もともとその製品の発売に反対だった管理者が、かんかんになって怒っているのを見たことがありますが、その人も仕方なく指示にはしたがっていました。

私自身は、「メイド・イン・某国の製品をメイド・イン・ジャパンとして売ることを内緒にしておくように」との指示を受け、それにしたがったことがあります。

顧客を欺く行為に反発しなかったのですから、言い訳のしようがありませんが、正確に言えば、それを聞いて「よくやるわ」とは思ったものの、すぐに忘れてしまっていました。

日本で生産中止となり、海外でしか製造しなくなった製品の部材が、一定数量日本の工場に余っていて、それを海外の製造拠点へ持っていったのですが、その部材にメイド・イン・ジャパンと印字があったという話でした。

私は、すでに行われたこととして、この話を聞きましたが、もし上司からこの一連の業務をアレンジするよう命令されていたら、かなり悩んだかと思います(私の性格を知っている上司は、私を担当にしなかったとは思いますが)。

メイドインジャパンと書かれた段ボール
※写真はイメージです
理不尽をどう乗り越えていくか

企業活動の中では、理不尽さが明らかに度を越していると感じることもあるでしょう。

パワハラ社長の指示がおかしいと感じても、自分の保身のために、一般社員におかしなことをそのまま実施させる管理者がいることなどは、その例です。

高校などの運動部の指導者による暴力行為も、驚くべきことに今日でもなくなることがありません。他の教員が、それを見て見ぬ振りをするのも、知らん顔をしているのも同じです。

そうした体質、あるいはハラスメント行為と共に成り立っている組織は多いですから、相談者の方のような悩みも生まれてくるのでしょう。

こうした中で、自分がどんなポリシーを持って働いていくのか。それについて悩むのは、多くの人にとって、当然直面することだと言えるでしょう。

20代と若い相談者の方は、こうした問題――すなわち「断ると呼ばれなくなる」ことに恐れをなし、つまずいているわけにはいきません。

違法なことが行われていれば、告発なりの対処をすべきでしょうが、他のことであれば、どうにか乗り越えていく術すべを身に付けたいところです。

下請けにいじめをする自動車部品メーカー

相談者のように、「理不尽に強要されることに甘んじるのが情けない」と感じる方は、ご自身の価値基準を大切にし、判断や行動をされたい方だと思います。

下請けに対するいじめが有名と言われる自動車部品メーカーがあります。

私は、そのメーカーにいじめられる下請けからではなく、いじめている側のメーカーから、「下請けいじめをする、この体質に耐えられない」といって退職した人を複数知っています。

勤めていれば一生安泰なはずのメーカーをそんな理由で辞めることになるとは、本人たちも思ってはみなかったでしょう。

しかし、そうした告白をしてくれた人たちは、自分の考えや判断にプライドを持っているように見えました。

私自身は、勤務したメーカーが、残業代を支給しないと知り、入社初日から転職することを考えていたことがありました。初日で辞めることも考えましたが、当時は就職難で希望の職を見つけにくかったことと、その会社での仕事内容が魅力的だったために、思いとどまったのです。

結局私は5年間ほどその会社にお世話になり、仕事には熱心に取り組んだつもりですが、残業はあまりせず、就業時間以降は、資格取得の勉強をしたり、大学院へ通ったりしました。

会社のことも、仕事そのものも好きでしたが(残業代くらいはもらえる環境に移るために、習慣的に勉強をしていたので)、頻繁に行われる飲み会などにもほとんど参加しませんでした。

しかし、これが所属部門のカルチャーに反していたので、当時はよく非難されたものです。

辞表を持つ人の手
※写真はイメージです
解決策は会社にあらがうことだけではない

どうにか乗り越えていく術というのは、こうした例のように、自分の考えを優先して、会社の慣行にあらがったり、転職してしまうことばかりではありません。

むしろ理不尽なことがあっても、その組織で上手くやっていく方法を模索するのは必要なことでしょう。私自身、残業代が支払われないことに甘んじているわけにはいかないと考え、上記のように行動しましたが、もともとは、安易に転職を考えたいほうでもなかったのです。

勤務先の風土や体質に悩み、何を受け入れ、何を拒絶するか――そこでどんな判断をするかが「自分」というものです。

相談者の方には、ぜひご自分らしい答えを見つけ、多くの人たちが苦悩する問題を上手に乗り越えていただきたいと思います。

松崎 久純(まつざき・ひさずみ)
サイドマン経営・代表
もともとグローバル人材育成を専門とする経営コンサルタントだが、近年は会社組織などに存在する「ハラスメントの行為者」のカウンセラーとしての業務が増加中。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科では、非常勤講師としてコミュニケーションに関連した科目を受け持っている。著書に『好きになられる能力 ライカビリティ』『英語で学ぶトヨタ生産方式』など多数。

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