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【映画】美しい2人の少年の死が伝えるもの「シチリア・サマー」

  • 2023.11.13
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朝晩めっきりと寒くなってきました。冬が近づくほどに夏が恋しくなる今日この頃、美しくも儚い夏を描く1本の映画が間もなく公開されます。約40年前の実話を元にイタリアの田園風景が織りなす、ある少年2人の恋の始まりと終わりの夏の、切ない物語です。ひと足先に鑑賞して参りました。

出典:リビングふくおか・北九州Web

STORY

1982年、初夏の日差しが降りそそぐイタリア・シチリア島。バイク同士でぶつかり、気絶して息もできなくなった17歳のジャンニに駆け寄ったのは、16歳のニーノ。 育ちも性格もまるで異なる2人は一瞬で惹かれあい、友情は瞬く間に激しい恋へと変化していく。2人で打ち上げた花火、飛び込んだ冷たい泉、秘密の約束。だが、そんなかけがえのない時間は、ある日突然終わることに──

1980年、イタリア半島の西南、地中海最大の島であるシチリア島で事件が起きました。「ジャッレ事件」と呼ばれ、銃殺された男性同性愛者のカップル2人が果樹園の下で手を繋いだ状態の遺体で発見された猟奇的ともいえる事件です。しかし、その悲劇の真相には多くの謎が残されており、イタリア中に衝撃を与えたとされています。それが、この物語のモチーフとなっています。たった40年ほど前の事件ではありますが、その時代背景には同性愛者に対する偏見や憎悪がまだ根強く残っていた世界の、イタリアの不寛容や偏見が間違いなくありました。

出典:リビングふくおか・北九州Web

映画「シチリア・サマー」のストーリーは少年たちの年齢や西暦などに少しの相違点はあるものの、同じ舞台で起こった悲劇を想像するには難くありません。冒頭からシチリアの広大な大地、空、景色が広がり、そこにはイタリアののんびりした雰囲。そして、それとは対極にあるとも思える普遍的でもあり、やや閉鎖的でもある人々の暮らしがあります。かなり乱暴にも思える言葉遣いの荒い家族(特に大人たち)の姿があります。イタリア文化の家族の形は、陽気な部分とそれとは異なるリアリティが含まれていて、家族の絆を大切にしていることは確かですが、絶対的な権力を持つ家長である父親はしばしば暴力的で理不尽です。そして少年のうちの1人は、本人の性のあり方を同意なく第三者に暴露されてしまう「アウティング」の下に晒されており、周囲の人々から差別や偏見、嘲笑の的となり辛い思いをしています。

美しさと憎悪と喜び

物語が進んでいくと、性的マイノリティの当事者にとっていかに生き辛く辛辣なものであった時代なのかが良くわかります。しかし、ただただ辛さの連続というわけではもちろんなく、2人が出会う瞬間、恋に落ちる瞬間、伝えようとするまっすぐで純粋な感情。それらを彩るように、スクリーンいっぱいに映し出されるシチリアの青い空、海、田園風景、街並み。昼食を囲む大家族の食卓、バイクや自動車のクラシックなフォルム、80年代のファッションなどに思わず心動かされる方々も多いのではないでしょうか。そして物語の中心に圧倒的な存在感を放つ「花火」の存在が、美しさと儚さの象徴でもあるように感じられました。

出典:リビングふくおか・北九州Web

「美しい少年2人の死」と宣言してある通り、2人は悲劇的な最期を迎えます。それが、物語のどこなのかは伏せておくとして、終始注目してしまったのは「憎悪の表情」です。特にそれぞれの家族、中でも母親が我が子の性自認を受け入れることが出来ない混乱と葛藤、恋愛相手である同性の少年に抱く憎しみが胸に鋭く刺さってきます。そして、何気なく挿入されていただけのようなシーンが、見終わった後でパズルのように繋がり、「ジャッレ事件」をより深く知ることでその狂気に気づいてしまうかも、しれません。

今、映画として伝えることとは

この「ジャッレ事件」をきっかけに、多くの若きシチリア人たちが街頭でデモ活動を行い、その流れで“ARCIGAY(アルチゲイ)”という非営利団体がシチリアのパレルモで設立されました。ARCIGAYはその後イタリア全土に拠点を拡大し、イタリア最大の団体として、現在も性的マイノリティの人々に対する偏見や差別と闘っています。亡くなった2人への敬意と悲劇を2度と繰り返したくないという、愛を信じる人たちの想いが現代のムーブメントのきっかけのひとつであったに違いありません。

出典:リビングふくおか・北九州Web

性的マイノリティに関するお話や、多様な性について表現することは、人の尊厳が大いに関わります。記事にして伝えるとき、決して表面的な理解で伝えてはならないことを私は忘れないようにしています。だからこそ、まだまだ理解を深めるには時間が必要だと日々痛感しています。唯一言えることは、「好き」という気持ちは誰でも同じであり、性差は関係ありません。その美しさを知るひとつの物語として、「シチリア・サマー」をお勧めします。是非とも、映画館でご覧ください。 11月23日より公開です。

映画「シチリア・サマー」 2023年11月23日(木)全国劇場公開 出演:ガブリエーレ・ピッツーロ サムエーレ・セグレートほか 監督・脚本:ジュゼッペ・フィオレッロ 劇場(福岡県内) KBCシネマ 092‐751‐4268 映画「シチリア・サマー」公式サイト

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