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ひとクセある世界観がおもしろい、最新映画3本。

  • 2023.11.13
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ヴェネツィア3冠の幻の作が、荒々しくもドリーミーに掴む世界。

『悪い子バビー』

外は猛毒危険と母は子に言い聞かせた。35歳の子どもバビーとの長すぎる母子密着の日常は、父を名乗る男の帰還によって破られる。母・父・息子の神話的闘争のパロディと化す室内劇から一転、映画は外界を知らず育ったバビーの冒険譚へ。人との接し方も売り買いの仕組みも習い覚えのないバビーは、人間世界の鬼っ子として街に捨てられる。だが、野蛮と無垢を煮詰めた匂いでアウトサイダーたちを吸い寄せ、俗世の渇きや悦楽になじんでゆく。ドサ回りのロックバンドとの出会いが清冽。幼児の物真似の延長みたいに学んだ言葉をバビーはリズムに乗せ、セッションする。パンクやブルースが聖なる響きに通じるように、バビーがさすらう煉獄は猛毒危険ながらも、どこか天国的!

『悪い子バビー』監督・脚本/ロルフ・デ・ヒーア1993年、オーストラリア・イタリア映画114分配給/コピアポア・フィルム新宿武蔵野館ほか全国にて公開中https://badboy-bubby2023.com

男の権威にひと泡吹かせる、舞台裏コメディの当意即妙。

『私がやりました』

多彩な作風を誇る才人オゾンが、女優の華やぎと語り口の軽妙さで魅了する、『8人の女たち』路線の小粋なミステリーコメディ。映画出演をエサに身体で返せと要求してきた有名プロデューサーが銃殺体で発見される。依頼を敢然と蹴った新人女優マドレーヌにはアリバイがない。怨恨殺人という悪女モノのシナリオで臨む判事に対し、彼女の親友の新米弁護士ポーリーヌは、男性支配の腐った体制への正当防衛という論陣を張る。容疑を逆手に取った痛快さ。悲劇のヒロインとしてツキが上向くマドレーヌの前に、イザベル・ユペール演じる真犯人が現れる展開も上手く、演技=ウソを駆使した女性たちの「共犯」は1930年代アールデコの装飾を背景に、笑みがこぼれる佳境を迎える。

『私がやりました』監督・脚本/フランソワ・オゾン2023年、フランス映画103分配給/ギャガTOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開中https://gaga.ne.jp/my-crime

虚と実が連鎖的に逆転、拡張現実の時代のスリラー。

『ドミノ』

本物と偽物が風車のように綾をなし、ベン・アフレック演じる刑事ロークが愛娘ミニーを誘拐される公園の導入部から、観客は騙しのゲームに巻き込まれる。傷心のロークは重要人物の霊能師ダイアナの店に出向き、現実に等しい強度で世界を再構築する特異な催眠術「ヒプノティック」の存在を知る。人の特殊能力の秘密研究か、標的を制御・洗脳する悪への転用か。その狭間にミニーは捕らわれているらしい。足元が定まったと思えば底が抜ける、現実空間とバーチャル空間の境目の危うさが、ドミノ式のサスペンスを招来。実在を確信するや虚構のロケセット、というあえてのアナログ演出や霊能師の意外な正体、偽記憶をリセットする目眩の表現など、俊才の采配は緩急自在だ。

『ドミノ』監督・共同脚本/ロバート・ロドリゲス2023年、アメリカ映画94分配給/ギャガ、ワーナー・ブラザース映画新宿ピカデリーほか全国にて公開中https://gaga.ne.jp/domino_movie

*「フィガロジャポン」2023年12月号より抜粋

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